不可抗力(アレクセイ視点)
第21話
「いやもうね? 言いたいことは山程あるんですけどね? 女性の裸っつーか
「アシュリー様、こうなれば発想の転換です。童貞と同じく、鼻血も女性に慣れていない、清い体である証明として
「それ、相手側の発想じゃん。マリーちゃん、今回の出来事を良いほうに捉えてくれてんの?」
「純情で可愛らしい方だと。気が削がれていないのであれば、部屋へお越しくださいともおっしゃっておりました」
「なにそれ聖女? もう崇めたほうがよくね? 城の中庭に銅像とか建てちゃう? 俺、毎日感謝しながら磨いてもいい」
私室に戻って治療を済まし。さらにしばらく休んで、動いても鼻血が出ないと確定した途端始まったアシュリーのお説教というより呆れの言葉。
「……好き勝手言わないでよ。僕だって驚いてるし、落ち込んでるのに……」
「俺だって驚いたっつーの! 勃たせる前に鼻血とか、同じ男としてどうすりゃいいのよ!」
「だからもう言わないでってば! あと勃ってたよ! 勃たないわけないでしょ、あんなマリーツァ見て! 挿れる直前、鼻血を出さないだけマシだよ!」
「うーん、確かに――とでも言うと思ったか、この馬鹿アレク!!」
「ひどっ……! 僕が国王だって忘れてない!?」
「いっそ忘れたいぐらいだ馬鹿!」
「また馬鹿って……!」
始まる言い争いに、エマが呆れつつ間に入ってくれる。
「論点がすり替わっていますし、今そこを争われても困るのですが」
「だってアシュリーが――っ、そうだ! マリーツァが湯殿に来てくれたのって、僕の側室になるって決めてくれたからだよね!?」
「側室だけではなく、伴侶候補としても考えてくださっているようです」
「本当!? じゃあ、まずはそこを喜ばせてよ!」
「では今から5を数える間、喜びを噛み締めてください」
「また時間厳守!? しかも短くなってる!」
「今回は、そういう意味でもお姉様が待っておりますので」
「そ、そういうって……」
「部屋に行くのは無理とか言おうもんなら、お前の自慢の顔。しばらく見るに堪えないぐらいは殴る」
「自慢したことなんて一度もないし、行かないなんて言わないよ」
「ぅんじゃ行っといで」
「まだ数えてないのに!?」
「知るか馬鹿! 今夜は絶対、私室にも執務室にも戻ってくんな!」
こう何度も、ドカッとお尻を蹴られて部屋を追い出される国王陛下って、この世に存在するのかな――って、ここにいるけどさ。
(でもさすがにもうちょっとこう、優しくっていうか……!)
心でぼやきながらも、思い出すのは湯殿でのマリーツァ。
(色っぽかったなあ……)
背後にいるのはアシュリーだと信じ切ったまま振り返ったら、ぽよんっと顔が柔らかさで包まれた。
最初の事故と比べれば、それが何かはすぐに気づけたとはいえ。なんで? どうして? 状態になってしまうのは否めなく。
対して僕を見下ろす
(あれで勃っちゃったし、頭の芯まで熱くなる感覚も……。服越しで見るより、胸、すっごい大きかったし。張り付いた湯着のせいで、体の
全体的にふっくらとした体つきなのに、腰のくびれはなめらかな曲線。
湯気で肌も髪もしっとりと濡れていて、普段とは違う艶めかしさもあって――。
(あ、駄目だ。思い出すと勃っちゃう……)
さすがにそんな状態で訪問されたら、今度こそマリーツァもドン引きだ。
両頬を強めに叩いて妄想はなんとか振り払い、深呼吸も繰り返す。
顔を見てまた思い出したりしないよう、近来稀にみるほど冷静でもいないと。
(冷静とは程遠い自分の姿も目に浮かぶけどさ)
僕が優しく、怖いのも本当で。
なのに、マリーツァに対しては優柔不断で情けなくなるのも本当で。
(そういう僕をマリーツァは知ってるはずで、それでもいいって決めてくれたんだよね)
…………なんで?
(うん? あれ? ほんとなんで?)
彼女の性格や離婚経験を踏まえると、相手はしっかりした男性を求めそうなものなのに。
国王陛下としての僕はまだしも、彼女の前での僕は情けない部分ばっかり見せてたのに。
(普通に考えたら選ばれないんじゃ……)
まさか、同情してくれてるだけだったりするのかな。
さすがにそれはないかな。
「……僕って、どうしてもっと素直に喜べないんだろう」
これがアシュリーなら全力で「やった!」と喜びそうなものなのに、僕は辛い可能性も考えてしまう。そうしておくことで、本当にそうなったら気持ちの整理を早くつけられるようにしてしまう。
(仕事では有効なんだ、こういう思考回路も)
仕事ではない部分でこの思考回路は、ただの根暗。
だからって、部屋に行かないなんて選択肢も僕の中には芽生えてない。
(会いたいんだ、今夜)
話をしたいんだ、貴女と。
歩みを止めて、窓から夜空を見上げる。淡く瞬く星は、まるで彼女の瞳のように綺麗だった。
(夜空の星は手に入れられなくとも、彼女には触れられる。僕の頑張り次第で、きっと……)
今夜だけは、その頑張りが空回りませんように。
星に願いなんて初めてした。
なんだかおかしくなって軽く笑うと、少し落ち着いた気がする。
「よしっ」
今度は気合いを入れるため、頬を叩く。
彼女の中では、僕なんかよりよっぽどしっかりとした道筋を作ってそうだし。まだまだ彼女に頼ったり教えてもらったりが多そうだけど、こんな僕でいいと言ってくれたなら、感謝して。
その後、僕はきっと。
(貴女を離さないだろうな――)
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