第3話 試験会場

「ハァハァハァ……、な、何とか間に合ったぞ……」


 時間ギリギリにしかも息も絶え絶えに部屋に入ってきた俺を怪訝そうな受験者たちの視線も気にせず、崩れ落ちるように試験会場の机に突っ伏す。

 あぁ、もう本気で死ぬかと思った。途中で心臓が破裂するかと思うくらいに走って死相を浮かべていたせいか、受付の人にもやけにジロジロ見られたし……先が思いやられるなこれは。


 ――って、駄目だ駄目だ! 気持ちを切り替えていけ俺! これから大事な試験が始まるんだぞ!

 顔を叩いて気合を入れ直し、大きく深呼吸する。落ち着いたところで周囲を観察した。


 聖女様のサポート役というだけで必ずしも聖職者でなくとも構わないということで、受験者はバリエーションに富んでいた。さすがに聖職者は多いが、騎士や魔法使いや役人らしき人もいて、なんなら何の職業をしているのかよくわからない人、酷いところでは謎の着ぐるみを着たおっさんまでいた。


 こういう柔軟なところは我が国のいいところだと思う。役所や学校も聖職者、騎士、魔法使い、国の実務を担う官僚など相互に交流があり、学びたい学問や業務によっては他に移ることも珍しくはないし、行き来も容易だ。また、他国に比べて貴族と平民の間の差別が少なく、そういうところも開かれた登用に繋がっていると思う。

 逆に言えばそれだけライバルが増えるということでもあるのだが。あと、着ぐるみのおっさんにまで門戸を広げるのはさすがに寛容過ぎる気もするけど……。


「時間になりました、試験を始めます」


 いよいよ試験が始まった。まずは神学のペーパーテスト、これは予想通りというか当たり前だろう。その次に一般常識や基礎学力を問われるような簡単な試験。ここでペーパーテストは終わり、野外へと移動になった。

 ほぼ予想通りの試験に安堵するが、周りの様子を見て気を引き締める。


「へへっ、楽勝だったな」

「おうよ」


 予想通りなのは皆同じ、試験の出来に自信があるのか知り合いと談笑するものも多かった。


 しかし、ここから試験の様子が変わっていく。いきなり建物の外周を走らされた。聖女様のお付きになるにも体力が必要ということだろうか? ペーパーテストの対策しかしてこなかったようなものはここで落とされた。


 ここまではまぁ、理解できるしその後の格闘術や基礎的な魔法の試験もまだわかる、基礎的な魔法くらいなら俺もできるしそれはいいとしよう。聖女様の身を守る機会が無いとは言えないからな。


 だが、そのあとはさすがにやり過ぎだと思う。毒物劇物の見分け方や調合、魔法を使った爆弾の解体、縦横無尽に設置された魔法の罠を解除し避けながら進むなど、高位の魔法使いや魔法技術に長けた者、軍の特殊な訓練を受けた騎士がいたとしても、とても一人では対処できないような広範囲かつ専門的な試験が行われ、受験者たちは阿鼻叫喚となった。


「ふざけんじゃねぇぞ! 誰がこんな試験クリアできるんだよ!」

「いい加減にしろ! 全員落とすつもりなんだろどうせ!」


 試験官に食って掛かるものも多く、正直、俺もその気持ちはとてもよく理解できた。さすがにこの試験はあり得ない。こんな試験をするなら、最初からそういう特殊な技能を持った人間を調査した上でスカウトしろと言いたい。


 で、俺の試験の結果はどうだったかというと……。

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