第2編 まんじゅう

1 哲学ゾンビ


人の心の行きつく先を考え続けて80年。堂々巡りの言葉遊びを来る日も来る日の書き綴り、さび付く柱の鳩時計。



2 白虎


雄々しく吠える白い影。威勢のよさに目を見開く。腹が減ったと見えたのでミルクを注いで出してやる。



3 赤色灯


並走するのはパトカーで、途端に心が激しく鳴る。ベルトにスマホに、呼気まで調べて問題なし。「血まみれですよ。どうしたんです?」



4 ガソリンスタンド


明日から行く当てもないこの車。指引き流れるガソリンと増えるメーター、増える不安。心が真っ赤に燃え上がり、理性が間もなく灰になる。



5 シールドマシン


山をくりぬく巨体の鉄。抜いた先に見えるのはこの世の終わりの無と無音。工具の奏でるレクイエム。外れる部品が読む弔辞。



6 悲しい色


心が沈む時がある。言葉にできない感情が視界を奪って色を塗る。ぼやけたキャンパス、混ざる色。光の反射が作り出す不思議な色。



7 まんじゅう


甘くおいしい餡と皮。けれども、どこかほろ苦い。物足りなさが後に引き、埋まらない穴がいつまでも。笑顔はいつでも浮かぶのに。



8 マリオネット


糸が体を動かして、あちらへ行って、こちらへ行って。なすがままに見てるだけ。時折糸が外れても、ただの慣性、なるがまま。



9 自転車


夕暮れ時、下り坂道駆け下りる自転車の荷台は固くて冷たくて、おまけに跳ねると腰を打つ。けれども好きな回り道。



10 明日、空に近い場所で


明日、あの空に近い場所で僕は心を空へと広げる。どこまでも続く空と雲、風の流れに身を任せ。靴は揃えて置いてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る