第6話 攻略キャラクター

「ほんとメリアって予想の斜め上にいくわよね〜」

 カフェテラスは学生たちで賑わっている。貴族子息令嬢たちが通うだけあって、ビーチパラソルみたいな日除けにプラスチック製のテラス席ではなく、布張りされた座り心地の良い椅子に、周りの会話が聞こえない程度に余裕をもって配置されてたテーブル、もちろん立派な木製の日除けの屋根つきだ。

 2人きりの崩した姿勢でとはいかないが、誰が近づくともしれない教室より、秘密裏な話も出来る場所ではある。

「まずは組織改革しないとね」

「OL経験則?」

「問題を個人で提議するって難しいのよ。パワハラとかセクハラも大きな企業は相談室を設けたりしてるしね、組織の中で公正に善し悪しを判断して、解決に努める機関は必須だから」

 ちなみにブラック企業に務めていた前世、そのような恩恵は受けれなかったのだけれども。

「恋愛ゲームに対抗する術が風紀委員って」

 プププと下品な笑いが漏れ出ている。

 ひとしきり笑って、

「でも中々良いアイディアかもよ。各学科に風紀委員を配置するのも、攻略者対策にいいんじゃない」

「攻略キャラが別々の学科だったくらいしか覚えてなかったんだけど、ロディは私たちが3年で入学してくるとして他はどうなの?」

 ミラは腕を組み、しばし唸る。ちなみに行儀は良くない。

「えぇっとね…私愛称とかで覚えてたから、正確な家名とかは正直覚えてないんだよね」

 ゲームの中でも家名は出てこなかったらしい。まぁ考えた人間のおふざけ具合しか伝わらない家名だものね、仕方ないわ。

「騎士学科にいたのは『エド先輩』ね。エドワードかエドハルトだったか…。学年は2年よ。魔術学科はロデで、私らが最終学年で入学してくるでしょ」

 人様の弟を愛称でもなく略すの、どうにかなんないのかしら。

「教養学科は『ママ』ね。ママは3年…」

「ちょっ、女性も攻略キャラなわけ!?」

 危ない、お茶を吹き出すところだ。

「ん?あぁ〜違う違う。男よ!ママはね、…名前なんだっけ。とにかくママは分かりやすいから大丈夫よ」

 ハハハと軽快な笑いでごまかされる。

「ねぇ、こういうのも何だけど忘れすぎじゃない?」

「だってさ16年こっちで生きてるじゃない?普通に考えて、16年前に遊んだゲームのキャラクター名って覚えてると思う?それも結構シュミレーションゲームやってたから余計ややこしいのよ」

「確かに…」

「でしょう?あと教授の中にワイルド系な攻略キャラが1人いるわ。これまた未修だから詳しくは不明〜」

「ミラの攻略キャラはアレクシス一択だったの?」

 そういえば推しとか言っていたのは覚えていたけど、そこら辺はどうなのだろうか?

「ん?主人公と同学年はしてるわよ」

「え、でも今聞いた中だと同じ学年はアレクシスだけじゃない?」

「あれ、そうだった…」

 うーんと唸り声を上げるのに飽きたミラは、すっかりこの話題から離脱してしまい、会話は流行りのお菓子になってしまった。

 同郷で気心知れてても、前世からのジェネレーションギャップは否めない。

「私マカロン上陸あたりで時が止まってるからなぁ…」

 とつい呟いて、

「うわ、化石」

 とからかわれるくらいには。


 今回風紀委員を発足するにあたり考えたのは、まず攻略キャラのスチル系イベント、つまりは2人きりを牽制すべく各学科にお目付け役を入れておくこと。

 主人公キャラは攻略キャラに合わせて学科が選べるらしく、彼女がどの学科を選んでいるかは分からない。

 アレクシスルートだと、2年生から2人は生徒会へ入るらしい。

 アレクシスが生徒会に所属するのは、いわゆるリーダーシップを養い発揮する意味もあって、王族としての義務ともいえる。

 その点、王太子も在籍中は生徒会長を務めていた。

 ゲームでは1年生で生徒会に所属ができないので、2年生からとなっているらしい。

 ちなみにこちらでは特に縛りはないものの実際問題、入学したてで生徒の長に立候補するほどアレクシスは厚顔無恥じゃないから、まず有り得ないことだ。

 入りたければ諸手を挙げて歓迎されるだろうけども。

 この学園は委員会に限らず、部活動も活発で…そこは学園モノらしいわ、主人公もパロメータを育てるため自由に選ぶことができるらしい。

 はてさて、彼女は一体どこに所属するのかしらね。

 風紀委員の始動と同時に攻略キャラと…主人公を探さないとだわ。


「よっしゃ!いっちょやってやるか」

「だから言うこと化石だって」





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