第4話 王立学園入学
王立学園は広大な敷地が丸々王都の街中にあり、王都にタウンハウスを持つ貴族は通いで、辺境出身者は寮から通うことになる。
入学資格は前提が貴族であること、その上で入試に合格した者(簡単)に与えられる。
ただし、ゲーム主人公みたいに特例で入学が許可された特待生に限り平民も可。
とはいえ制服や教科書など、高額な支度品が用意できないとそもそも通えない。
貴族だからお金があるとは限らないけれど、平民で入れるなら相当なお金持ちしか無理だろう。
通学で徒歩はまずいない。
目と鼻の先でも馬車が普通…筋肉量育たないわ。
家紋入りの場所で、馬車の受け入れ順も高位貴族から。
これに対してはモヤモヤするのは、やっぱり前世持ちならではかしら。
「来た順で良くない?なんなら徒歩でもいいでしょ。学生なんだしさ…世間に揉まれなさいよ」
ブツブツ馬車のガラス越しに不満を漏らすのは、王族の馬車が到着するのを何台もの馬車が連なって待たされてるから。
そう、待たせているのは学園に通う唯一の王族、アレクシスだ。
ちなみに王立学園は王城と目と鼻の先、徒歩圏内!!
歩け、なんなら走れ!
貧乏揺すりが馬車まで揺らしかねない中、ようやくアレクシスの乗る馬車が到着した。
アレクシスより先に来ていたのに、悔しいがな門の前でアレクシスに出迎えられられる始末。
「ご機嫌よう、殿下」
微笑みながらタラップから降り立ったメリルを、アレクシスのあったかスマイルが迎える。
「おはよう、メリル」
エスコートで腕を差し出されガッチリホールドしてから、
「来るのが遅すぎですわ」
重役出勤は部下に迷惑がかからないように、が出来る上司よ。
「そうかい?まだ時間に余裕はあると思うのだけれど」
はい?
イラッとモードに気づいたアレクシスが瞼を瞬かせる。
「何かやらかしたみたいだね」
ハハハッ、じゃないわ。
「あの馬車の列は何かご存知?殿下の馬車が到着しなければ、他の馬車が入れないのよ!」
「あぁ、そいいうことか。分かったよ、私の馬車は無視して停めれるように学園側に伝えておく」
ギリリリとアレクシスの腕に力を込めて握る。
「また違うのか」
「えぇ、そういうのは結局相手が気を使って待つことしか選べないのよ。気遣いというのは1番早くに来るか、1番最後に来るか、時間を決めて来る、とかを言うのよ」
なるほど、とアレクシスは頷き「じゃあ、いつにしようか」と聞き返す。
つまりはメリルと合わせて通いたいから、君が決めて…って?
「私もう徒歩にしようかしら」
学園までは小学生時代の通学距離くらいだし、健康的でいいかもしれない。
「それはいいね。朝迎えに行くよ」
「殿下は遠回りになるでしょう?」
「そうしたら他の馬車に気を使う必要もないだろう?」
「…まぁ。いいですけれども」
アレクシスが父のような出っぷりお腹になるのを防げるし、何より王子がしているのに触発されて徒歩通学者が増えることになるのは良い事だ。
「じゃあ、明日は朝食も一緒にとろう」
「あんたたち本当に断罪ルートするかもな婚約者同士なのかしら」
アレクシスが離れた隙をついて、ミラから声を掛けられる。
「別に断罪ルートを目指してる訳じゃないわよ」
「いや。まぁ、それはそうなんだけど…仲良いわねって話」
フッとメリルは、ため息だか笑いだか分からない息を吐く。
「いかに快適に通学できるか、問題を解決していただけよ」
「あぁ…ねぇ。無駄だらけの貴族ルールは迷惑よね〜」
あぁ、この気持ちを理解し合える友の存在は有難い。
「あと入学前に渡された校則さ、メリル手加えたよね」
「学園規範のこと?直接ではないけど、何?」
「あれ主人公も渡されてるでしょ。攻略対象と2人きりのシーンがこれでできたとしたら、図太過ぎない?って思ってさ」
「スチル回収出来ないって話?」
「別に密室イベントは、モブな私が居ちゃ不自然だし、一向に構わないわよ」
2人きりなはずの教室に潜むミラの姿を思い浮かべたら笑えてくる。
「ふふふっ、それを見てみたいわ」
高校生ならゲラゲラ笑えていたのも、クスクスしか出来ないのがもどかしい。
思っていた以上に、制限がある学園生活になりそうだ。
メリルは周りを見渡す。
入学式前の講堂に集められた入学生徒の中から、主人公らしい女生徒がいないか目をこらす。
「ねぇ、主人公の名前とか特徴はないの?」
ミラに耳打ちをしながら訊ねる。
「名前はユーザーが決めるからデフォルトはなかったはず。家名は平民だから元からないしね。あと特徴は薄茶色の色くらい?」
「ちょっと、ほぼ何もないのと同じじゃない!自分はピンク髪なくせに」
「リリカルな髪色にケチつけないでくださいます?ああいう恋愛ゲームの主人公って主張しちゃ駄目なのよ、自己投影しづらくなるから。だから目立つ特徴は敢えてなしだし、スチルも相手にクローズアップされてるから分からないの!」
「はぁ。なんで転生したのが寄りにもよって恋愛ゲームなのかしら」
フンッと腕を組むメリルの背後から伸ばされた手が、ミラとの間に入る。
「楽しそうで何よりだけど、私を忘れないで欲しいな」
「まぁ、殿下。挨拶はもう終わりまして」
ここは周りの視線が集まるので、侯爵令嬢モードを発動させる。
「一人でいると余計に人が寄るからね、君と居る方が遠慮して来ないから良いよ」
はい、出ました。
イチャイチャとかミラにからかわれるけど、アレクシスは実の所はゴーイングマイウェイ王子だ。
それを上手く隠して表面を取り繕っているのに、皆は気づいてないだけ。
やりたくないことは上手く避けるし、やりたいことはゴリ押ししてくる。
「人避けに婚約者を利用しないで頂けます?」
「君だって私と婚約解消しようとしてるのに、周りにはそう見えないようにしてるじゃないか」
メリルは極上の笑顔を浮かべる。
「本音と建前の使い分けは、物事を円滑に進める上で求められる技量ですわ。例えば嫌いな相手であろうとも、上手く付き合うにこしたことはないでしょう?」
アレクシスも麗しの貴公子といった憂い顔でメリルを見つめ、
「同感だね。ただ私は嫌いな人間におもねったりはしないけどね」
まぁ、アナタは王子様ですからね。余程のことがなければ、下々の気持ちなど鑑みる必要はないのでしょうね。
断罪イベントの居丈高な態度の方がしっくりくるもの。
「それで足元をすくわれないなら、それでいいのでしょうね」
「自分は足元すくわれかねないから気を遣う、と言っているみたいだね」
メリルの目の色が変わった。
「奢る者は久しからずや、地位に胡座をかいていると身を滅ぼしかねない。王はひとり、民は数多いる。それを王が尊いと取るか、一対数万の数の差と取るかの違いです」
「…なるほどね。肝に銘じよう」
笑顔の応酬に巻き込まれたミラは、仲がいいわね〜と言っていた自分の過ちに気付かされる。
この人たち笑顔でこんなこと話してたわけ?
またミラも笑顔のまま、気配をこの上なく消していた。
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