第3話逃げられない誘い

 私は放課後になると教室を飛び出し、下校を急いだ。

 下駄箱に到着すると視界に恐れる人物が飛び込み、ブレーキを掛け、後退る私。

 昼休憩にバスケットボールをぶつけてきた一人の加藤芹那だった。

「あぁっ……かぁ、加藤さん……」

「そんな慌てて、阿佐木さんどうかしたの?」

「えっと……そのぅー……」

「阿佐木さん、私……貴女と親交を深めようと思って待ってたの。お時間、良いかしら?」

「まさかさっきの——」

「ご一緒にハンバーガーを堪能したいだけなの。無理……かしら?」

「そ、そんな……私が加藤さんとなんて……」

「遠慮せずに、ご一緒に行きましょう」

 眼を細めながらも鋭い眼光を私に向けた彼女に、断れずに同行することになる私。


 高校の関係者の視線に晒される地域を出ると、繕わない言葉遣いに変わる加藤芹那だった。

「あんなに拒否る、普通?まぁ、あれだね……断れるんだね、まだ。今日はもうしないよ。私が阿佐木だったら、もう死んでる。すごいよ、まだ余裕そうだもん。もう痛くない、身体?」

「い、痛いです……余裕なんて、ないです……よ」

「ごめんね。宇野がバカやらかしてつい昂って、やっちゃった。あそこまでやるつもりなかったんだ」

「……」

「なんか言ってよ、阿佐木ぃ。おぉーい、聴いてる?」

 私が無言でいると、加藤が私の耳たぶを摘んで引きちぎる勢いで引っ張り、恐怖心を煽ってきた。

「いぃっっ……痛あぃいいっ!いだあっいだいですぅっっ!聞いてますぅっ、聞いてますからやめてくだざぁあぃぃっっ!」

「聞こえてるんなら、返事してよ阿佐木ぃ。私、阿佐木に無視されてるかと思って怖かったよ。返事してね、阿佐木」

「分かりましたからぁっ、返事を忘れずにしますので、離してくださいぃぃ」

「そう?なら、良いんだ。で、どこの食べたいとかある?」

「わぁっ、私は……特にこれというのは……」

「阿佐木って私に連れてかれるとこ、安心出来んの?」

「それはちょっと……」

「なら、どうする?」

「私が……食べたいので良いんですか?」

「良いって言ってんじゃん!阿佐木はどこのが好物だろうな〜!」


 私は加藤を行きつけのファーストフードに連れて行き、カウンター席で並んで座る。

「宇野って加減出来なくなって痛いでしょ?麻痺ってきてんだね〜ビビリな不良がさぁ」

「痛いです……」

 私は言葉を絞り出す。


 食事中は彼女から話しかけてくることはなく、安堵した。

 食事を終えた彼女は口許についた汚れを拭って椅子を下りた。

「放課後に付き合わせて悪かったね。またよろしくねー、阿佐木ー」

「はい……さようなら、です」

 加藤は返却コーナーにトレーを運び、後片付けを済ませ、帰っていく。


 私はシェイクを啜りながら、彼女の姿が消えるまで見送った。


 明日は加藤達にいじめられないだろうと、沈みゆく太陽に眼を細めた。

 一週間の内、2日はいじめられても3日まで及ばないからだ。

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