ss・掌編小説集「ペンを置き、キーボードと踊る」

矢野白羽

「友達の話」

 「これは友達の話なんだけど……」といって会話を始める人が、私の周囲に多くいる。あの手の定型文は、結局のところは自分の言いたいことを他人というヴェールに包むことで、相手からのリアクションが与える作用を、その良し悪しとは関係なく軽減しようとする、一種の防衛反応と思えてならない。そして聞かされるほうの人も、大抵は友達の話ではない、自身の話をしていると気付いていながら、そのことを悟られまいとして、そうでないふりをする。そう、心の中のどこかで、憐憫とも嘲笑ともつかぬ薄笑いを浮かべながら、虚構を纏った話を聞いているのだ。結果的に、互いに噓をつくことで、そうでない時もあるが、円滑なコミュニケーションというものを形成しているところに、人間の本質というものが見え隠れしているのだ。そういう側面を含んだいわゆる人間らしさというものを、最近実感した。





と、人間の本質について友達が言っていた。私が言ったわけではない。

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ss・掌編小説集「ペンを置き、キーボードと踊る」 矢野白羽 @yano_shiroha

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