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「こうして会うのも、何年ぶりだろうな」
高橋はジョッキを傾ける。ビールはみるみるうちに減っていき、一気に飲みほしてしまった。西岡はビールの味が好きではなかった。チェーン店の居酒屋に入って席に着くなり高橋が注文をしたので、黙ってちびちびと飲むしかなかった。
リスが頭に手を当てて考える素振りをする。
「大学を卒業してからなので、だいたい三年ぶりくらいですかね」
「すげえな。ほんとにリスがしゃべってるよ」
高橋が感心したように言う。リスも胸を張る。その様子を高橋は面白がった。学生時代の思い出や最近のことについて試すように尋ねてくる。リスはひとつひとつ丁寧に答えた。
西岡はリスを褒める高橋を眺めながら、ビールを飲みつづけた。頬が緩むのを感じた。口の中にビールの苦い味がじわじわと広がる。
「そういえば、鈴木を覚えているか?」
記憶にない名前だった。リスも、うーん、と唸りながら首を傾げている。
「顔ぐらいは見たことあると思うけど。同じ学年だったからな」
「その鈴木さんがどうされました?」
「そいつもリスじゃないけど、体に動物を乗っけているらしい」
食べ物に伸ばしていた箸の動きを止めた。
「俺も実際に見たわけじゃないけど、首にヘビを巻いているんだってよ」
ヘビは嫌だな。気持ち悪い、と西岡は心の中で呟いた。
「その鈴木さんとは会いたくないですね」
「どうして?」
「食べられてしまうかもしれません」
西岡はリスのほうに目をやる。身を小さくして、弱々しい演技をしている。自分の肩に乗っているのがリスで良かったと思った。
高橋は鈴木の話をつづけた。西岡は料理を食べる。リスが高橋の話に相槌を打つ。どんなに学生時代の鈴木の話を聞いても、思い出すことはできなかった。暗い感じの男が首にヘビを巻きつけている姿だけが、頭に思い浮かんだ。
急にカエルが鳴いた。
高橋が驚いた顔をしている。それから、すぐに笑顔になって言う。
「カエルはしゃべらないんだな」
「こいつはシャイなんですよ」
リスが身を乗り出して言った。高橋が声を出して笑った。
帰っている電車の中で、高橋から連絡があった。機会があったら、また飲もう。なんて返そうか。左右の肩に目をやるが、リスもカエルも答えてくれない。しばらくのあいだ、返信せずにほうっておいた。
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