左肩のカエル
Lugh
1
商品がスキャンされる度に、ディスプレイに表示される数字は少しずつ上昇していく。近頃はなんでもかんでも値段が高くなっている。前までは気にならなかったが、月末が近くなると給料日までの日にちを数えるようになった。コンビニで弁当を買うよりも自炊をしたほうが財布にも健康にも優しいのだろうと思いつつ、ストレス社会の日々の疲れを理由に行動を起こす気にはなれない。お金に余裕がないわけではないのだ。貯金だってある。それでも、これからも少しずつ支出が増えていくのかと思うと、漠然と暗い気持ちになった。
会計が終わる。商品を受け取ろうと手を出した。レジの女の子の口が動いている。耳を向けたが聞き取れなかった。西岡はイヤホンを外した。
「お箸は、おつけしますか?」
か細い声だった。名札には研修中と書かれていた。高校生なのかもしれない。色白で綺麗だが、幼さを残している。可愛い子だと思った。
ゲコッと左肩に乗っているカエルが鳴いた。女の子の視線が動く。つづけて、右肩に乗っているリスがしゃべる。
「それじゃあ、お願いします」
女の子は目をひらいて、口をぱくぱくさせている。それから、すごい、とこぼした。
そんな女の子の姿を見て、西岡の口角が上がる。
リスは、大きなしっぽでバランスを取りながら胸を張った。
「褒めていただき光栄です」
お辞儀をする。西岡はなで肩なので、二本足で立つのも大変そうなのだが、リスのバランス感覚はたいしたものだ。
「ありがとうございました」
さきほどよりも、明らかに大きな声だった。西岡は気分を良くして、コンビニを出た。
閑静な住宅街に入ってからだった。ゲコッとカエルが鳴いた。周りには誰もいない。カエルは独り言をはじめた。西岡がひとりのとき、ときどきカエルはこうなるのだった。ゲコゲコ、ゲコゲコ。うるさい。困ったように右肩に目をやる。リスはノリノリな音楽を聞いているらしく、手で耳をおさえながら腰でリズムを取っていた。
西岡は顔を伏せながら、家路を急いだ。
何を言っているのかはわからない。たまに、聞き取ることができた。顔が緩んでいる、とか、恥ずかしい、とか。そんな言葉だ。
カエルの声が煩わしくなった。立ち止まって、カエルのほうに顔を向ける。ぬめぬめとした体。顔に対して大きな目。膨らんでいた
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