怪物眼

内藤

怪物眼

 私は物心が付く時から八歳ほどまで知らない男と、二人、人里離れた山中に暮らしていた記憶があります。

 電気や水道は通ってなく、近くの川に水を汲みに行き、真っ暗な小屋の中で生活と不便な暮らしで、もちろん山中に学校などあるはずもなく恥ずかしながら教育とか道徳モラルとかそういったものを知らずに生きていました。

 私と暮らしていた男は私もよく知らない人で、素性も、どうして此処ここに暮らしているのかも、何も教えてくれず、「ただ俺の言う事を聞いてろ。」と言っていました。

 私は外に出る勇気もなく、男に対し従順にしておりました。

 男は週に一回、夜中に外に出かけ翌日の昼に帰ってくると手には何処どこからか持ってきた人間の死体を持ち帰っていました。 

 男は持ち帰った人間を解体し、適当に調理し、残った僅かな部位を「食え。」と言って私に与えていました。

 ある日、男は外に出かけたきり帰ってきませんでした。

 私は二日ほど待っていたのですが、帰ってこなかった事を疑問に思ったのと、小屋にあった食料が尽きた事から、意を決して外に出て、男が出かけた方向へと向かって歩き始めました。

 歩き始めてから一日ほど経つと、家々が見えてきました。

 その時には、私の空腹は限界に達していていました。

 私は一番最初に目に入った家の縁側から中に侵入してみると、一人の老人が居間でテレビを見ていました。

 私は後ろから絞殺しようとしましたが、老人とは言え所詮は子供の、ましてやまともに食をとっていない子供に負けるはずがなく、私を振り払い、倒れている間に拘束し、誰かに大声で警察を呼ぶように指示しました。

 そのとき、老人は私を蔑んだ目で見つめ「。」と言いました。

 しかし、当時の私は他の者も腹が空いたら殺すだろうにどうしてそのように言われるのか理解できませんでした。

 その後、私は警察により保護され、私は私が知らなかった世界へと強引に連れていかれました。

 最初こそ今までとはなにも違う世界に戸惑いましたが、その過程で教育とか道徳モラルとかそういったものを学んでいくうちに、どうしてあの時、怪物と言われたのか何となく理解し、深く反省しました。

 現在、私は結婚し、子供もいます。

 私と暮らしていた男は素性も、どうして帰って来なかったのかも、結局分からないまま、あの日々の記憶だけがどんどんと薄れています。

 ただ、あの日々に食っていた人間の味がどうしても忘れることができないのです。

 

 

 

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怪物眼 内藤 @entelP

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