第17話 ダンス・ダンス・ダンス・ダンス①
時が経つのは早いもので、気づけばもう金曜日だ。
クラスのみんなは、やれ土日は何して遊ぶだ、やれ金曜日の部活はだるいだのと、放課後から週末にかけての予定について忙しなく話し合っている。
そんなヤツらを傍目で見ながらいそいそと直帰——していたのはこの間までの話。
今では俺も、みんなの仲間入りを果たしているのだ。
ホームルームの後の掃除が終わり、俺は北棟へと足を運ぶ。
目指すのはそう、我らが部活の活動拠点だ!
そう、部活だ!
この一週間遊んでばっかりだった気がするが、立派な部活なんだ……!!
必死で自分に言い聞かせながら、俺は部室の扉を開いた。
「悪い、遅くなった————」
——♬~♪~♫~♩~♪
部室に入って目にしたもの、それは、三人がポップな音楽に合わせてぎこちなく踊っている姿だった。
——部活、だよな……?
俺は、ちょっと自信を失った。
「——で、なにやってたんだ?」
俺が部室に入った途端、三人は蜘蛛の子を散らすかのようにそれぞれいつもの定位置へと戻った。
「なにって、き、今日の活動内容だよ」
天上さんすごい恥ずかしそうだな。
そんなに踊ってる姿を見られたくなかったのか。
「あの妙なダンスが活動内容?どういうことだ?」
「み、妙ってなに妙って!?『TicTac(チックタック)』。宝生くんも知ってるでしょ?」
「TicTac?そりゃまあ知ってるけど……」
『TicTac』は、絶賛大流行中のSNSの一つだ。
短い尺の動画をユーザー間でシェアできるのが大きな特徴で、音楽に合わせた短い動画を撮影、加工して投稿することができる。
流行りの曲なんかで踊っている姿を撮影するのがメインコンテンツとなっている。
そう言えば、友果もやってるって言ってたな……
中学でもTicTacはみんながやっているSNSらしく、今ではLONEよりもTicTacのDM機能で連絡を取り合うことの方が多いのだとか。
最近の若者は怖ぇなぁ……
「今や、高校生でTicTacをインストールしてないなんて少数派も少数派!だから、私たちも流行りに乗ってやってみよう!ってこと」
もう大分乗り遅れてる気がするが……
「辛燐ちゃんと静莉ちゃんに聞いたら、二人ともインストールもしてないって言うから……宝生くんも、もちろんインストールしてないよね?」
「もちろんって言われるとなんかグサッとくるが……まあ天上さんの言うとおりだ」
以前、友果にインストールしろと迫られたことがあったが、結局入れる目的が浮かばなかったので断ったことがある。
「てか、仮織は意外だな。お前がつるんでるクラスのヤツらなんか絶対やってるだろ」
「ええ、みんなやってるわ。やってないって言った時のあの顔……!まるで原始人を見るみたいな顔して!『自分がやってることは当然みんなもやってる』って本気で思い込んでるめでたいヤツらなのよアイツらは……!!」
ギリギリと歯を食いしばりながら、忌々しそうに声を漏らす仮織。
どうやら、色々と溜め込んでいるものがあるらしい。
「し、しかも、みんな色んなところで好き勝手に踊ってる……!そ、そのせいで、暫く教室から出られなかったこと、ある……だ、だれもお前らの踊りなんて、み、見たく、ない……!!」
仮織の話に触発され、志築も日頃の鬱憤を吐き出す。
まあ、気持ちはわからんでもない。
俺も、『邪魔だな』と思った経験は一度や二度では済まない。
「もう、二人とも悪く捉えすぎだよ!実際にやってみたら案外ハマっちゃうかもしれないし、とにかくやってみよう!」
かくして、TicTac体験会がスタートした。
「——よし、みんなアカウントは作り終わったね?」
「あぁ。けど、ここからどうやるんだ?ダンスの撮影の仕方とか全然知らないぞ」
「それについては私に任せて!昨日調べまくったんだから!!」
そう言って、天上さんはわかりやすく撮影方法についてレクチャーしてくれた。
情報の詰め込み能力は本当にすごいな……
どうやら、動画に流す音楽やフィルター、動画の再生速度など、色々と調整することができるようだ。
「いきなりは難しいだろうから、一回クラスの誰かの動画を見てみよっか!」
そう言うと、天上さんはブツブツとクラスの女子の名前を呟きながら、ユーザー検索欄に名前を入力する。
流石に本名で登録してるヤツは流石にいないんじゃないか?
「——っと、あったあった!」
あったのか……うわ、しかもプロフィール欄に高校名と何年何組かまで書かれてるぞ。
ネットリテラシーはどうなってるんだネットリテラシーは……
同級生のあまりにも堂々としたプロフィールに慄きながら、みんなで動画をいくつか見てみた。
「画角とかは特に変えないんだな」
「まあこれは教室で撮影してるみたいだし、基本的にはカメラは据え置きなんじゃない?」
「お、思ってたよりも、し、シンプル……」
「確かに!フィルターくらいかな?倍速とかもたまに使ってるみたいだけど……」
勝手なイメージで、音楽に合わせてグリグリカメラを動かしつつ、派手なフィルターで装飾しながら、とにかく自分を良く魅せるための動画を投稿しなければならないものだとばかり考えていた。
しかし、そんなのはインフルエンサー同士がフォロワーを奪い合うために競っているだけで、一般人はシンプルに、音楽に合わせて踊っている姿を定点で撮影する程度なのかもしれない。
その後も何人かの動画を見てみたが、どれもバチバチに加工された動画ではなく、かなりシンプルな作りのものが多くみられた。
「——なるほどね~。思ってたよりも気負わなくてもいいみたいだね」
「確かに、撮影した後の加工でどんだけ時間取られるのかひやひやしてたんだけど、その心配はなさそうね」
「う、うん!わ、わたしでも、なんとかなりそう……」
どうやら全員、少し安堵したようだ。
俺も、素人が頑張って加工して滑り倒した動画がSNSの海に流されるのだけは避けたいと思っていたので、みんなと同じ心持ちだ。
「それじゃ、実際に撮影してみよっか!一人ずつ撮って、他の三人で加工するってのはどうかな?」
「げっ。他の人に加工任せるの不安なんだけど……」
「いいじゃんいいじゃん、そっちの方が面白いって!じゃあ始めるよ~!」
仮織の抵抗はスルリと受け流され、撮影がスタートした。
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