第18話 ダンス・ダンス・ダンス・ダンス②

「じゃあ、まずは宝生くんから!」


「え”、いきなり俺からか!?」


「いいからいいから!じゃあ、どんなのをしてもらうか決めるからちょっと待っててね~……」


 俺からかよ!?

 正直、後回しになると思ってたから完全に油断してたぞ……


「せいぜい頑張んなさいよ~?」


「ほ、宝生のダンス、楽しみ……!」


 くそっ、仮織と志築がニヤニヤした顔でこっちを見てやがる!

 これから始まる公開処刑を、心から楽しみにしている顔だ……!


「な、なめんなよ!?こう見えても、ダンスの授業の成績はそこそこだったんだからな!?」


「よ、じゃなくて、なんだ……」


 そう、現代の学生は、小学校の頃から授業でダンスをさせられる。

 いつもまじめに授業に取り組んでいたおかげで、俺のダンス筋はそこそこに発達していると自負している。


「見てろよお前ら!俺の華麗なステップを!」


「はいはい、さっさと見せてちょーだい」


「——決めた!宝生くんにはこれを踊ってもらいます」


 突き付けられたスマホの画面を見ると、そこには最近流行っているアニソンに合わせて踊っている動画が流れていた。

 ダンスの難易度自体は簡単で、ちょっとした身振り手振りとステップのみで誰でも真似しやすいそうに作られているようだ。


 これならイケる————!


「それじゃあ宝生くん、準備はいい?」


「——ああ!」


 少しの練習時間を挟み、指定された場所に立つ。

 手前のテーブルにスマホが設置され、定点カメラの役割を果たさんと、静かにその照準をこちらへと向ける。

 みんなの嬉々とした視線に鼓動が早まる。

 

 そして、ついに天上さんは撮影開始ボタンを押した。


——♬~♪~♫~♩~♪


 音楽が流れ始めた。

 時間はわずか15秒。

 簡単な振りだが、気を抜けば音楽に置いて行かれてしまうため、必死に食らいついていく。


「ハッ……ク……ッ!!」


 全身の筋肉の微細な動きまで正確に把握し、一挙手一投足までこだわり抜く。

 たかが15秒、されど15秒。

 永遠にも感じられた時間は、音楽が止まるとともに終わりを迎えた。


「…………ふぅ、どうだ?」


 やりきった——

 俺のこれまでのダンス人生で培ったスキルすべてを使い果たした、渾身のダンスだった。


 ああ、それにしてもなんて爽やかな気分なんだろう。

 気づかなかったが、俺にはダンスの才能が眠っていたようだ。

 これからも、時折ダンス動画を投稿してみるか——


「フツー」


「こ、コメントし辛い……」


「んー、なんとも言えないかなぁ」


 ————もう二度とダンスなんてしない。


「すごいわよアンタ、ここまで上手くもなく下手でもないダンスなんて滅多にお目にかかれるもんじゃないわ」


「ひ、必死の形相だった割に、微妙、だった……」


「なんだろうね~本当にって感じ?」


 女子三人に口々に好き勝手言われ、メンタルがバキバキにブレイクさせられていく。

 そのまま俺は、ヨロヨロとよろめきながら扉へと向かった。


「宝生くん、どこ行くの?」


「もうおうち帰る……」


 情けないことに、俺は今半べそをかいている。

 家に帰ろう。

 帰ってふかふかのベッドに寝転がってすべて忘れ去ろう……


「じょ、冗談よ冗談!アンタのダンスすごくよかったわ!感動した!」


「う、うん!こ、心が動かされたとはこのこと……!!」


「そ、そうだよ!宝生くんカッコよかったよ~?」


 ————ホント?


「グスン……本当によかった……?」


「ホントよホント!これを投稿しないなんて勿体ない!世界の損失よ!!」


「う、うん!ぷ、プロにも引けを取らない表現力だった……!!」


「……カッコよかった……?」


「う、うん!カッコよかったよ~普段とのギャップで私、ちょっとドキドキしちゃったかも……!!」


「…………へへっ」


 なんだ、みんな冗談だったのか~

 ま、初めからわかってたけどな?


「じゃあ、早速俺の動画を加工してくれ!因みに、俺のおすすめはシンプルな加工だ!」


「ハイハイわかったわかった。アンタはそこでじっとしてなさい」


 そうして待つこと数分。

 出来上がったのは、フィルターや倍速などでバチバチに加工が施された動画だった。

 加工のせいで、俺の繊細な指先の表現が見えにくくなってしまっている。


「なあ、ちょっと加工しすぎじゃ——」

「じゃあ、次は静莉ちゃんね!!」


 あれ?なんか遮られちゃったな。

 まあいっか、加工が弱すぎるとあまりの美技にダンサーグループからスカウトが来てしまうかもしれないからな……!!


「静莉ちゃんも、宝生くんと一緒で有名な曲のダンスをしてみよっか~」


「わ、わかった……」


 オドオドと視線を泳がせている志築。

 どうやら、かなり緊張してしまっているようだ。

 仕方ない、ここは俺がアドバイスを送ってやるか……


「いいか志築、ダンスはなんだ。小手先の技術じゃなく、魂から溢れ出るpassionに任せて踊ればいい」


 志築に目線を合わせ、自分の左胸をトントンと叩きながら心得を伝授する。


「黙れ一般人」


 コワッ!?

 今までで強い言葉を使われてしまった。

 

「よしっ!じゃあこれにしよう!」


 そうこうしている間に天上さんが曲を決め、志築は何度か動画を見た後、指定の位置につく。


「よし!それじゃあ、レッツダンシーング!」


——♬~♪~♫~♩~♪


 音楽が始まり、志築のダンスが始まった。

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