第15話 NGワードゲーム①

「はぁはぁ……、は、早く言いなさいよ天上ィ~!!」


「ぜぇぜぇ……、そ、それはこっちのセリフだよ辛燐ちゃん……!!」


 部室の窓から茜色の眩しい光が差し込む。

 天上さんと仮織は、夕陽に照らされながら、まるでバトル漫画のワンシーンかのような熱い戦いを繰り広げていた。


 もうどっちでもいいからさっさと負けて帰らせてくれ……


 汗を迸らせながら睨み合いを続ける二人を、俺と志築は心底どうでもよいという感情で眺めていた。


 こうなってしまった原因は、今から約一時間前に遡る……






 あまりにも盛り上がらなかったブレストの翌日、天上さんはなぜか自信に満ち溢れた表情で部室へと入って来た。


「やっほーみんな!今日も集まってるね~」


「一応部活なんだからそりゃ集まるだろ」


「確かにそうだね~!」


 なんか上機嫌だな

 こうやって、決まったメンバーと毎日会話をするということがうれしいのだろうか……


「で、今日は何をするわけ?」


「今日はね~、『NGワードゲーム』をしてみたいと思います!」


「「「 『NGワードゲーム』? 」」」


 聞きなれない単語に、俺たちは首を傾げる。


「NGワードゲームっていうのは、名前のとおり与えられたNGワードを言っちゃったら負けっていうゲームだよ。一人一つNGワードが与えられるから、みんなで会話する中でいかに相手にNGワードを言わせるよう誘導できるかがポイントだね」


 天上さんは、いつの間にかバッグから取り出していた、『高校生遊び大全集』と表紙に書かれたノートを見ながら説明してくれた。

 天上さんのことだから、昨日徹夜で、高校生がする遊びについて調べまくったんだろうな……


「なるほどな……」


 そして、説明を聞いて思い出した。

 確かに、昼休みに教室内でやっているのを何度か見たことがある。

 YourTube(ユアチューブ)でも、人気のインフルエンサーなんかがやっているのを見たことがあった気がする。


「どう?普通に雑談しながらゲームもできちゃうなんて、友達同士でやるのにピッタリだよね~!」


「まあ、確かに面白そうじゃない?」


「や、やってみたい……!!」


「決まりだね!じゃあ、NGワードゲームのアプリがあるから、みんなインストールして!」


 こうして、NGワードゲーム対決が開催されることとなった。






「それじゃあ、準備はいい?」


「おう」


「ええ」


「う、うん……!」


 俺たちは、それぞれ自分のNGワードをスマホに表示させ、それを見ないようにしながらおでこに掲げ、他の三人にNGワードを提示する。


 天上さんのNGワードは『花』、仮織は『うるさい』、志築は『ギャップ』か……


「まずはお試しね!一回やってみて、二回目から本番ってことで——スタート!」


 突然始まってしまった。

 

 さて、どうしたものか……

 

 全員、黙ったまま出方を窺っている。

 自分のNGワードが見当もつかない以上、下手に喋りすぎない方がいいだろう。

 かといって、会話の主導権を握られて、俺のワードを誘導されては大変だ。


 ここは、先に仕掛ける!!


「……仮織、そういえばこの前、やけにつけ麺に食いついてたよな?そんなに好きなのか?」


「……ま、まあね。大好きってわけじゃないけど、普通に食べるのは好きよ」


「ふーんそうなのか。じゃあ、シンプルに食べることが好きって感じなのか?」


「……た、食べるのは、好きよ……わ、悪い!?」


「た、たしかに、部室でもいつも、お、お菓子、食べてる……」


「あぁ~そういえば、静莉ちゃんを勧誘する前に三人で喫茶店に行ったときも、辛燐ちゃん美味しそうにパンケーキ食べてたもんね~」


「しかも三段重ねだったよな?晩御飯前によく食べれるな~って思ってた気がする」


「たしかに!私だったらすぐ太っちゃいそうだな~」


「なっ、ななな……!?」


 俺たちの食にまつわる証言が恥ずかしいのか、わなわなと口を震わせる仮織。

 これは……イケるか?


「お、お菓子なんてあんな小さいもの食べた内に入らないし!パンケーキだって、あああんなふわふわした食べ物ノーカンだから!!黙って聞いてれば、さっきからわねアンタたち……!!」


 あ、言った……


「……辛燐ちゃん!アウト~!!」


「へ?……は?」


 一瞬の静寂が訪れた後、天上さんから敗北が告げられた。

 仮織は、いきなり敗北を宣告されて困惑しているようだ。


「仮織、自分のスマホを見てみろ」


 俺の言葉を受けて、仮織は恐るおそるスマホを手に取り画面を覗いた。


「……『うるさい』?アタシそんなこと言ってないわ!」


「い、言ってた……!」


「言ってたぞ」


「噓でしょ……」


 どうやら、思ったよりも敗北が悔しいようで、うるさいといったことを素直に認めようとしない仮織。

 しかし、この場に逃げ場はなかったため、すぐに負けを認めて項垂れた。


「覚えてなさいよ宝生……」


「まっ、次は俺を攻めてみるんだな。できるもんなら、だが?」


 作戦通り追い詰めることができたことへの高揚感からか、つい煽ってしまった。

 仮織は『ぐぬぬ……』と俺を悔しそうに睨みつけている。


「じゃあそろそろ再開ね!」


「よし来い!」


「ま、負けない……!」


 こうして、ゲームは再開した。


「……ほ、宝生は、家はこの辺、なのか……?」


 お?志築のヤツ、俺に標的を定めたな?

 いいだろう、乗ってやる……!


「いや、高校からはちょっと離れてるな。一回乗り換えしないといけないし」


「そ、そうなんだ……。じゃあ、自転車通学じゃない……のか?」


「乗り換えがあるからな、普通にでん——」


 そのとき、脳内に電流が走った。

 このまま言ってしまって大丈夫なのか!?

 『電車』と——!!


 志築は、急に家の話をしてきた。

 しかも、距離に関する話だ。

 それに、さっき俺が一度乗り換えの話をしたにもかかわらず、再度自転車通学じゃないかどうかの確認をしてきた。


 つまり、俺のワードは通学に関係する乗り物である可能性が高い!!


「でん?」


 天上さんの表情は、まるで何かを待ち焦がれているかのようにワクワクしている。


「でん——どうで動く箱に乗って通学してる」


「……チッ」


 志築のヤツ、舌打ちしやがったな……


 だが、これで俺のワードはハッキリした。

 あとは攻めに転じるのみ!


「ところで志築、バッグに付けてるアクリルキーホルダーのキャラ、好きなのか?」


「……な、なに?す、好きだけど……」


「どんなところが良いんだ?」


「ど、どんなところって、そんなの、言う必要、ない……だろ」


「いやいや知りたいよ。な?天上さん?」


「うんうん!私にも教えて?静莉ちゃん!」


「う”ぇ!?わ、わかった……」


 天上さんの後押しもあって、志築は観念してくれた。


「こ、このキャラは、主人公が所属することになる組織のメンバーで、十人いるリーダー格の中の一人。若くしてリーダー格に上り詰めた天才で、戦闘時には持ち前のスピードを活かして相手を翻弄する……!登場したての頃は主人公たちに対して友好的な態度を取ってて、主人公から早々に信頼を得るんだけど、実は裏で敵組織と繋がってるの!敵組織の人と会話してるときは普段とは全く違う冷徹な表情でそのが——」


「志築、一旦ストップだ」


「——あっ、ご、ごめん……つい喋りすぎちゃった……」


「ああ、確かに喋りすぎたな……負けだ」


「な”っ!?」


 志築は慌てて自分のスマホを確認し、ヘナヘナと座り込んだ。


 残りは天上さんだけ……!!


「さて、天上さん。始めようか」


「う、うん……かかってきなさい!」






~数分後~


「ま”げだ~!!」


「フン、俺の勝ちだ……!!」


 天上さんとの一騎打ちも難なく勝利。

 結果的に、俺が全員にNGワードを言わせることに成功した。 


 俺を悔しそうに睨みつける三人。

 俺が強いのか、みんなが弱いのかはよくわからないが、この調子なら本番も余裕だろう。


 いざ、本番だ!かかって来るがいい————!!

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