第14話 『ブレスト』しよう!

「辛燐ちゃんゆ”る”じで~”!!」


「うっさいわね!昨日の内にグループに戻したでしょ!?」


「でも!まだおごっでる~”!!」


「今はアンタのうっとおしさにイラついてんのよ!!」


 部室の扉を開けると、早々にそんな会話が聞こえてきた。

 見ると、半べそをかいた天上さんが仮織に縋り付きながら昨日のことを謝っているらしい。

 部室には志築もいるが、関わらないようにしているのかソファでスマホをいじっている。


「志築、昨日はありがとな」


「う、うん!ひ、久しぶりに人と話せて、た、楽しかった……!!」


 志築に近づいて声をかける。

 昨日、天上さんが退会させられたのを見届けた後、志築から個人LONEに連絡が入った。

 どうやら漫画の話がしたかったようで、俺もよく知っている漫画だったから一時間ほど話に花が咲いたのだ。


「ま、また、べ、別の漫画の話もして、いい……?」


「おう、別にマンガじゃなくてもなんでもいいぞ?そのためのLONEだろ?」


 おずおずと聞いてきた志築だったが、俺の返答を聞いてパアッと目を輝かせた。


「ほ、ほんと!?や、やった……!!」


 志築、嬉しそうだな。

 漫画やアニメが好きな人間は、他者と感想を共有したがる傾向にある。

 だからこそ、SNSでアニメの実況をしたり、同じものが好きな者が集まったチャットを作ったりするのだ。

 この様子から察するに、志築さんはそういったSNS上での交流は全くしていないと見える。

 ずっと一人で悶々と抱えていたものがあるのだろう。

 俺もそっち側の人間だし、今後はLONEで話を聞いてやろう。


「……二人とも、仲良しさんなんだね」


 いつの間にかあっちの話は終わっていたようで、天上さんが少し寂しそうに聞いてくる。


「いや、志築とは共通の趣味があるってだけで……」


「そ、そう!宝生は、の人間なだけ……!」


 取り繕う必要もないのだが、なぜか少し慌てて二人して天上さんに言い訳をする。

 という言い方だけは気になるが……


「ふーん……私とも個人でお話ししてね?」


「も、もちろんだ!なっ!志築!?」


「うっ、うん!と、当然……!!」


「本当!?ありがとう!!」


 途端に機嫌がよくなる天上さん。

 だんだんわかってきたが、もしかしたら天上さんは、結構かまってちゃんなのかもしれない。


「それじゃあ、気を取り直して今日することについて発表します!」


 天上さんは本当に唐突だな……


「今日は、『ブレスト』をします!」


「「ブレスト……?」」


 天上さんの発表に、仮織と志築が頭の上にはてなマークを浮かべる。


「 『ブレインストーミング』。つまり、みんなの頭の中にあるアイデアを書き出して、共有しようってことだ」


「へぇ……」


「そういうこと!これから、『友達を作るためには何をするべきか』という議題に対して、みんなで案を出し合っていきたいと思います!」


「おぉ、なんかようやく部活っぽくなってきたな」


「そうでしょ?みんなの案は私がホワイトボードに書いていくから、思いついた人からじゃんじゃん言ってね~」


「ん~改めて言われると、意外と難しいな」


「そうね……ていうか、みんなは自然と友達を作ってるじゃない?」


「そ、そう……。だから、人工的に友達を作るには……ってこと?」


って、なんか嫌な響きだな」


 いざ案を出せと言われると、中々思いつかない。

 

「天上さんは、なにかないのか?」


 発起人である天上さんに話を振ってみる。


「そうだな~……例えば、『共通の話題を用意しておく』っていうのはどう?」


「共通の話題……」


「そう!さっきの宝生くんと静莉ちゃん、友達みたいだった!」


「そ、そう……かな……?」


 そう言われて、思わず志築と顔を見合わせる。

 確かに、同じ漫画の話で盛り上がるのは、まるでみたいだ。


 第三者からそう言われると、なんか恥ずかしいな……


 志築も同じよう思ったのか、もじもじしながら下を向いてしまった。


「ま、まあ、共通の話題作りは有効なんじゃないか!?」


 なんで誤魔化すみたいに言ってんだ俺……!!


「そうだよね!じゃあ、まず一個目ね~」


 そうして、ホワイトボードに、『共通の話題作り』と書き加えられた。


「あとは、何かあるかな?」


「……やっぱり、『相手のことをちゃんと理解する』ことじゃないの?」


 これは、実体験だな……


「……そうだね。やっぱり、相手のことをしっかりと理解することは大事だと思う」


 天上さんも、仮織の実感が篭った発言に賛同し、ホワイドボードに書き加える。


 しかし、そこから5分以上経ってもその他の意見が出てくることはなかった……






「そ、それじゃあ!二個も案が出たことだし、この案を深堀していこっか……!!」


 ごめん、天上さん……

 ぼっちの俺たちじゃ、どうやったら友達ができるかなんて案、ポンポン出てこなかったよ……


 一つも案を出せなかった俺は、心の中で天上さんに土下座した。


「まずは、『共通の話題作り』だね。これは、どうやったらいいんだろう?」


 天上さんは、頬に手を添えてコクリと首を傾げる。


「そうだな……やっぱり、みんながやってることを、俺らも知ることが大事なんじゃないか?」


「ザックリしてるわね……みんながやってることって?」


「そ、それは……友達同士で集まってやることだよ」


「つまり、みんなが教室とかでしてることってこと?」


「そうそう!そういうことだ」


 そう言うと、部室がひっそりと静まり返る。

 そうして暫く経った後、みんなの口からポツポツと事例があがってきた。


「……踊ってる姿を撮影してるのはよく見るよね?」


「あぁ、音楽に合わせて踊ってる動画をアップして、みんなで共有したりするアプリのやつだな」


「……あ、なんかカードを使ったゲームもよくやってるわ」


「ボードゲームは、たしかにやってる人多いよな」


「ど、動画配信サイトで、パーティーゲームやってるの、よく見る……!」


「四人プレイのゲームも多いからな。みんなも多分友達同士で遊んだりしてるんだろうな」


「……因みに、今あがったやつの中で、一個でもやったことあるやつがある人、手を挙げてくれ」


「「「「…………」」」」


 ……あれ?時間止まった?

 みんな微動だにしないんだが……俺含めて


「……なるほど、よくわかった。じゃあ、とりあえずは『友達同士でやりそうなこと』を一通りやってみたらいいんじゃないか?」


「そ、そうだね!今のうちに練習しとこう……!!」


「べ、別に経験がないことは悪いことじゃないはずよね……!?」


「た、たまたま機会がなかっただけ……!!」


 全員、自分のヤバさに気づいてしまったようだ。

 というか、俺もヤバい。


「色々やっていくうちに相手のことも理解できるようになってくるだろうし、やってみよう!」


「「「おぉ~!」」」


 かくして、目下の活動内容は、『ぼっち四人で友達っぽいことをしてみよう』に決まった。

 

 恥ずかしいというか、情けないというか。

 友果にはますます言えなくなっちゃったな……

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