第13話 アイコンには気を付けよう!
「悪い、遅くなった」
俺は、掃除当番だったため少し遅れて部室に到着した。
扉を開けると、すでに三人とも揃っていたようで、一斉に俺に視線が集まる。
うっ、まだちょっと慣れないな……
普段の言動で忘れてしまいがちだが、みんなタイプは違うが美少女だ。
そんな輪の中に自分から入っていくのは、まだ若干緊張してしまう。
「宝生くん掃除お疲れ~!」
「あ、あぁ。ありがとう」
何気ない会話をしながら、開いていた椅子に座る。
「よし、宝生くんも来たことだし、今日することについて発表します!」
昨日は自己紹介だけで終わったからな……
今日は一体なにをするつもりなんだろうか?
「今日は——『みんなで連絡先を交換しようの会』です!!」
「れ、連絡先?」
「そう!私たち、これから同じ部活で苦楽を共にする仲間でしょ?だったら、連絡先くらい交換しとかないと!!」
天上さんは、鼻息荒く熱弁している。
でも、確かにそうだ。
部活は関係なくとも、友達同士でLONE(ローン)を交換して放課後や休日にも連絡を取るなんてのは当たり前に行われていることだ。
「まあ、LONEの交換くらいはしておくべきなんじゃない?」
「でしょでしょ!?じゃあ早速交換しよ~!」
そう言って、天上さんはスマホを取り出す。
俺たちもそれに倣うように、それぞれ自分のスマホを取り出した。
天上さんは手帳タイプのカバーなんだな……
仮織は思ってたよりもシンプルなケースだな……
志築は……なんかドクロがいっぱいだな……
三者三様なスマホケースを眺めながら、LONEのアプリを開く。
「じゃあ、私からみんなの登録済ませちゃうから、QRコードを画面に表示させてね~」
天上さんからの指示を受け、俺たちはQRコードを画面に表示させる。
表示させ……あれ?どっから表示させるんだっけ?
「宝生と志築、アンタらなに固まってるのよ?」
俺と志築は互いに目を合わせ、そのまま仮織に助けてほしいという眼差しを向ける。
「……アンタたち、もしかしてやり方わからないの……?」
「め、面目ない……」
「で、できない……」
「ウソでしょアンタたち!?クラスLONEとか入ってるでしょ!?」
「「「クラスLONE……?」」」
「あ、天上まで……」
なんだそれ?初耳だぞ?
他の二人もどうやら俺と同じ気持ちのようで、ポカンとした顔をしている。
「はぁ……もういいわ。アタシが全員分してあげるから、アンタたちは黙って見てなさい」
「はーいお母さん」
「誰がお母さんよ!!」
そんなわけで、LONEの登録は仮織お母さんに任せることになった。
仮織は、ブツブツと文句を言いながらもテキパキと連絡先の交換を済ませた。
「——はい、これで終わり!類友部のグループLONEも作って招待しておいたから、ちゃんと参加しなさい?」
「「「はい」」」
仮織に言われるがまま、類友部LONEにも参加した。
これで、直接集まれないときでもやり取りが可能になった。
基本的に家族と公式アカウントからしか通知が来ない俺のアカウントだが、これからはもう少し賑やかになりそうだ。
そんなことを思いながら画面を眺めていると、三人のアカウントのアイコン画像が目に入って来た。
天上さんのアイコンは、写真とかではなくまさかのシンプルな『甘那』の二文字。
女の子っぽさの欠片もない、どシンプルなアイコンだ。
「天上、アンタのアイコンシンプルすぎるでしょ」
「ぱ、パソコンの初期設定アイコンみたい……」
「うっ……そ、それは、今まで家族との連絡にしか使ってなかったから、一目で誰かわかるようにしてるの!!」
なるほど、家族間だけでの利用だったから、視認性と利便性を追求した結果こうなったのか。
「そ、そう言う静莉ちゃんは、これはなんの模様なの?」
天上さんは志築のアイコンに話題を逸らす。
志築のアイコンは、人気漫画に出てくる紋章のイラストだった。
おそらく、公式が配布しているアイコン用のものだろうか。
「こ、これは!す、好きな漫画に出てくる、も、紋章……」
「へぇー……」
天上さん、よく分かってないな……
「志築、もう中二病は治ったんじゃなかったのか?」
「なっ!?べ、別にこれは中二病とか関係なく好きなだけだし!公式で配布されてるものだからみんな使ってるし!!」
「わ、わかったわかった、俺が悪かったって……」
俺の指摘に、志築は頬を膨らませながらポカポカと殴ってくる。
でもまあ、志築の言うとおり、このアイコンを使っているからと言ってイコール中二病とはならないか。
どうやら俺の方が敏感になっていたらしい。
「……辛燐ちゃん、こ、このアイコンは……」
「なに?アタシは特に変なアイコンじゃないでしょ」
天上さんのなにか歯切れの悪い言葉を聞いて、ふと仮織のアイコンを確認する。
「どれどれ……ってなんだこれえっっっろ!?」
アイコンを拡大した瞬間、思わず心からの叫びが出てしまった。
「は?宝生、アンタなに言ってんの?」
「宝生、サイテー」
「いやいや!志築もこれ見てみろって!」
そう言って、志築にスマホの画面を見せる。
そこに写っていたのは、少し俯瞰からのアングルで上半身を写した、仮織の自撮り写真。
しかし、なぜか顔は口から下しか写っていないし、なぜか着ている制服のシャツの胸元ははだけていて谷間ががっつり見えている。
さらには笑顔とピースサインも相まって、なんかそういう裏垢のエッチな自撮り写真みたいになってしまっていた。
「……こ、これは、エッチだ……!」
「そうだろ!?俺変なこと言ってないよな!?」
「そ、そんなわけないでしょ!?」
そう言って仮織は俺のスマホをぶんどり、まじまじとアイコンを確認する。
そして、暫く固まったかと思えば、首からおでこまで真っ赤に染めて叫んだ。
「なによこれエッチすぎるでしょ!?」
どうやら、ようやくアイコンのおかしさに気づいたようだ。
「な、なんでこんな写真になってるのよ……あっ、顔はアイコンの形に収まらなかったせいね!?でも服は……どんな写真がいいのかわからなかったから一時間以上撮り直してたせい……!?」
なにかをブツブツと呟きながら、仮織は自分のスマホを素早く操作し、新しいアイコンに変更した。
「クラスLONEにも入ってたのよ!?なんで誰も言ってくれないのよ……」
「『アイコンがエッチな自撮りになってるよ?』なんて言えないよ、辛燐ちゃん」
「うぅぅ~!死にたい……」
可哀そうに。
俺は、心の中で合掌した。
「……宝生」
「えっ!?な、なんだ?」
「忘れなさい」
「え?」
「ワ・ス・レ・ナ・サ・イ!!」
「はっ、はい!!」
ごめん、仮織。
あんな写真、忘れられるわけないよ……
こうして、連絡先の交換は終わった。
~その日の夜~
——ピコンッ!
——ピコンッ!ピコンッ!
——ピココココココココココココンッッッ!!!
なんだ!?
……あ。天上さんがグループLONEにスタ爆してる。
みんなでLONEできるの、そんなに嬉しかったんだな……
……あ。仮織に退会させられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます