第6話 部活の勧誘
「——ここに、新しい部活の設立を宣言します!!」
「…………え”?」
はぁ!?新しい部活!?
俺は、突拍子のない宣言に困惑しながら、自信満々に天に向かって指をさしている天上さんに続きを促す。
「一体どういうことだ?新しい部活って……」
すると、天上さんは待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
「宝生くん、私、さっきなんて言ったかな?」
「えーっと、『脱ぼっちに向けてなにか自主的に行動を起こすべき』……だったよな?」
「そう!じゃあ、高校生が自主的に打ち込むことといえば……?」
うわぁ、メッチャ期待した顔でこっち見てくる。
『部活』って言わせたいんだろうな……
「ぶ、部か——」
「そう!部活なんだよ!!」
自分から言わせようとしたくせに、俺が言い切る前にフライングしやがった。
「青春と言ったらやっぱり部活でしょ?でも、今更どこかに入部する勇気なんてないし……。なら、脱ぼっちに向けて色々と試行錯誤する活動を、部活ってことにしたら一石二鳥かなって!」
「……いろいろ言ってるが、つまりは『部活に憧れてるからやってみたい』ってことか?」
「…………そ、そう、デス……」
どうやら色々と御託を並べようとしていたが、結局のところは、『部活動をする』という体験がしてみたいということらしい。
「理由はわかった。けど、俺が一緒にする必要はないだろ?」
「む?どういうこと?」
天上さんが、ムスッとした表情で俺を睨む。
「そもそも俺は、天上さんとは違って部活に思い入れはない。それに、これ以上天上さんとの接点が増えたら、みんなに隠しきれなくなるだろ?昨日も言ったけど、天上さんに風評被害で迷惑をかけたくないんだよ」
これは本音だ。
俺と変に関わったせいで、天上さんが嫌な思いをする羽目になることだけは避けたい。
「……宝生くん、いい?」
俺の思いを聞いて、天上さんは少し真剣な表情で、俺の目を真っ直ぐに見つめて言葉を続ける。
「宝生くんは優しいんだね。きっと、本当に私のことを想って言ってくれてるんだと思う」
「な、なら——」
「でも、私も昨日と同じこと言うね?
——私は、宝生くんとの関係をそういう風に見られるの、嫌じゃないよ?」
天上さんは、少しはにかみながらそう言った。
「宝生くんは、私が学校で変な噂をされるのを嫌がると思ってるみたいだけど、全然そんなことないよ?そんなことに怯えてたら、いつまで経っても友達作れないよ。友達ができたら、絶対その子と話したり遊んだりするんだし」
確かにそうだ。
友達ができ、今の誰にも話しかけず、誰にも話しかけられない状況が変われば、いつかは直面する事態であることは間違いない。
でも……
「……でも、別に俺なんかじゃなくても——」
「——なんだよ」
「え?」
「今この学校でまともに話せるの宝生くんだけなんだよ!?お願いだから一緒に部活じよ”ー”よ”ー”!!」
「うわっ!急に泣くなって!」
さっきまでの真剣な表情から一転、俺がなかなか了承しないことにショックを受けたのか、天上さんは突然号泣し始めた。
「ぼうじょうぐんじがいないの~~!!」
「わ、わかった!入る!入るから落ち着けって!なっ!?」
このテンションの乱高下はなんなんだ!?
俺は、天上さんの勢いに呑まれるがまま、入部を決意した。
「ほんとに!?じゃあ決定ね!やっぱナシはナシだからね!」
「なっ!?」
俺が部活に入ると言った途端、天上さんは嘘のように泣き止んだ。
やられた……
どうやら、俺を折れさせるための演技だったらしい。
「はぁ……、もう入るって言っちゃったしいいよ。ったく、どこまで嘘だったんだ」
「宝生くんとの関係を、そういう風に見られるのが嫌じゃないのはほんとだよ?」
してやられたと嘆いている俺を見て、天上さんはそう言った。
「……わかったわかった。それじゃあ、これからはもうそっち方面の心配はしない」
「うむ!それでいいのだ!」
こうして、天上さんが作る部活に、俺も入ることが決まった。
「——で、部活を作るって言ったって色々問題があるだろ」
放課後、俺と天上さんはすっかり常連となってしまっている喫茶店にいた。
部活を作るにあたっての課題をハッキリとさせるためだ。
「問題って?」
「そもそも、うちの学校ってそんな簡単に部活作れるのか?」
「うん、そこは問題ないよ。今の校長に変わってから、『生徒の自主性を重んじる』とかで割と自由に部活を作れるようになったから」
そうだったのか。
俺はまだ、転入してから一か月ちょっとしか経っていないから知らなかった。
でも、思い返してみると、廊下にある掲示板とかに変な部活の募集チラシが貼ってあったりしたな……
「そうなのか。なら、他に問題はないのか?」
「あるよ、一番重要な問題が」
そう言って、天上さんは部活を設立するために必要な事項が記載された用紙をテーブルに広げ、とある箇所を指さした。
「どれどれ……、『なお、部活動として認められるためには、その部活動への入部者が四名以上であることが必須である。』……え?」
「そう。正式に部活として認可されるためには、最低でもあと二人必要なの」
「どうするんだ?俺に引っ張ってこれそうな知り合いは一人もいないぞ……」
ぼっちは仲の良い人が一人もいないからぼっちなのだ。
そんな俺たちにとって、『二人』という数はあまりにもハードルが高い。
「これに関しては、私にいい考えがあるの」
天上さんは、自信ありげな顔をしている。
……本当だろうか。
また変なことを言い出すんじゃないだろうな……
そんなことを考えていると、天上さんはバッグから例のプロフィール帳を取り出した。
「宝生くん、この部活は普通の部活とは一味違う。そう、『ぼっち』のための部活なの」
「そうだな……って、まさか!!」
「そう。なら、残りの二人も『ぼっち』を連れてくればいいんだよ」
天上さんの案に、俺は膝を打つ。
俺は、無意識のうちに普通の人を誘うことを想像していた。
だが、『ぼっち』のための部活ならば、当然入部者は全員『ぼっち』でなければならない。
「た、確かに……。でも、どうやってぼっちを探し出すんだ?正直、うちのクラスには俺たち以外にぼっちはいなさそうだし、他のクラスのことはよくわからないんだけど」
「ふふん!そこで私の出番ってわけ!!」
そう言って、天上さんはプロフィール帳をパラパラと捲っていく。
「一昨日、まだ全員分は作れてないって言ったけど、作れてる範囲で目ぼしい人が丁度二人いたんだよ。」
そう言っているうちに目的のページにたどり着いたようで、俺にも見えるようにノートを開いて該当部分を指さした。
「『
「最後の情報は要らん」
俺でも聞いたことがある名前だ。
クラスの男子たちが話題にあげているのをたまに耳にする。
なんでも、妹系の可愛い見た目とスタイルのギャップがイイんだとか。
「でも、そんなやつが本当にぼっちなのか?聞いてる限りだとむしろ真逆のような……」
「私の目に狂いはないよ、宝生くん。仮織さんは、間違いなく『コッチ側の
確信めいた表情で、天上さんはそう断言する。
どうやら、相当自信があるようだ。
「そ、そうなのか……。そこまで言うなら信用するよ。じゃあ、もう一人は?」
「もう一人についてはまた今度。仮織さんの勧誘に成功したら、三人で情報共有したいから」
「なるほど、わかった」
どうやら、追加する人員のことは部員全員で吟味したいようだ。
「と、いうことで……明日は仮織さんを勧誘します!頑張ろうね!宝生くん!」
「お、おう……!」
こうして、最初のターゲットは
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