仲間に裏切られた魔法使い⑦




オスカー視点



いつも通りリーダーとして計画を立て思い通りの戦果を得た。 しかしどうにも仲間たちの関係が悪化している。

その理由は明白でエルヴィスがグループの輪を乱しいいとこどりをして報酬を掠め取っているためだ。

オスカー自身もそれに何も思わないはずもなく、ただエルヴィスの提案を受け入れるのは施しを受けたようで気分もよくない。

何とか狩りの方法を変えるなどして改善したかったが思うようにはならなかった。

昨日グループでの狩りを終えた後も解散とはなったが何となくモヤモヤとした気持ちが消化できずぶらついているとブレントに声をかけられた。


「オスカー、一杯飲もうぜ」

「・・・あぁ」


適当に見繕い酒場へ足を運ぶ。 幸いエルヴィスが選んだ店とは違う場所だった。 各々注文し終えると早速とばかりにブレントが不満を漏らす。


「なぁ、アイツは何とかならないのか!?」


すぐにエルヴィスの話だと分かった。


「・・・確かに目に余るとは思うし何とかしたいとは常々思っているんだけど」

「だろ!? しかもさぞ頑張りました、みたいな感じで仕切ってよ! ただ最後にトドメだけを持っていった奴が!!」

「あの程度を相手にしていると魔法の性質上そうなるよな。 だけどアイツが『報酬を山分けしよう』って言ったのを断ったのはブレントじゃなかったか?」

「あんな見下すような言い方されて飲めるわけねーだろ!!」


ブレントは我慢ならないといった様子で荒れていた。 運ばれてきた酒をグイと飲む。 リーダーとしてグループをまとめる必要はあった。 だがエルヴィスを疎ましく思う気持ちはオスカーも同じだ。


「何が『俺の分みんなに平等に分けてあげてもいいですよ』、だ!! 分けてあげる、って何だよ!? いつも助けてやってんのは俺の方じゃねーか!!」


―――・・・気持ちは分かるけど、な。

―――ルールに反しているわけじゃない。

―――それにエルヴィスに助けられたことも何度もある。

―――もっと大きな獲物を狙えばいいのかもしれないが、それはかなりの危険が伴う。


防御役であるため仕方がない話ではあるがエルヴィスはブレントに守られた回数が格段に多い。 これは回復役よりも攻撃魔法の方が発動に集中と時間が必要なためだ。

そしてグループにとって圧倒的に重要なのは防御役だった。


―――ブレントがいないと俺たちグループは成り立たないのは確か。

―――今の俺たちにとって大事なことは日々を確実に生きていくこと。


防御役の数自体が少ないのにグループにおいて必須な役割。 ブレントが我慢できないというのならグループにとってその意見を聞いてやるのは致し方ないこと。

一頻り愚痴を聞き散々飲み干した後二人はいつの間にか眠ってしまっていた。


「頭、痛ッ・・・」


夜中で少し寒気がしてオスカーは目覚めた。 店は既に閉められており食器も片付けられオスカーとブレントだけが取り残された状態だった。


「閉めるなら起こしてくれてもよくないか・・・」


その声にブレントも起きた。


「ん・・・。 あぁ、寝ちまっていたのか・・・。 そろそろ帰るか」

「そうだな」


ブレントも少しは落ち着いたようだ。 だがこれ以上感情的になられる前にエルヴィスを何とか切らないといけないのかもしれない。

そのようなことを考えながら帰路についていると大神殿から賊が逃げるのを確認した。


「・・・なぁ、見たか?」

「・・・あぁ。 何か抱えていたな」

「今のってヤバくないか?」


二人は大神殿のもとまで行った。 特に建物自体の異常はない。


「魔法石でも盗まれたのかもしれない」

「はぁ!?」

「防犯カメラも完全に止められている。 ここにある大きなものなんて魔法石くらいしかないだろ」

「マジかよ、大事件じゃねーか!!」

「これは早朝には緊急クエストが入るのかもしれない」

「それならかなりの賞金がかかるだろうな・・・」

「あぁ。 とはいえ俺たち以上の凄腕なんていくらでもいる。 賞金を得られる確率は低いだろう」

「・・・オスカーも賞金がほしいか?」

「え? ・・・まぁ」

「ならよ、犯人をでっち上げてしまえばいいんじゃないか?」

「・・・は?」

「エルヴィスがやったということにして」


それには流石に言葉に詰まった。


「・・・仲間を裏切って金を手にするということか?」

「人聞きの悪いことを言うなよ。 今まで散々稼いだんだ、最後の最後に俺たちにプレゼントをくれてもいいはずだ」

「・・・」


即頷くことはできず視線をそらした。


「そもそも魔法使いだからトドメを刺すっていうのはエゴだろ? だって上手く運用すれば先制攻撃に使うこともできるんだから」

「・・・まぁ、そういう人もいる」

「寧ろそうしてくれていれば俺たちだってもっと安全で効率のいい狩りができた。 なのにアイツはそれをやろうとしなかったんだ」

「魔法を待機状態にするのはしんどい、って言っていたな」

「そのしんどいを誰が肩代わりしているのか、っていう話よ」

「確かに俺やブレントが代わりに危険を引き受けているな」

「だろ? 幸いアイツの服は寝床へ戻ればいくらでもある。 防犯カメラも何とかすればいい」


それらの言葉にオスカーも決心がついた。 ブレントがここまで言うということはもう限界なのだ。 どちらか取るとなればブレントを取るしかない。 そうなれば最後に多少なりとも金を回収しておきたい。


「・・・分かった。 アイツは確かに調子に乗り過ぎだ」


早急に監視カメラに細工をしエルヴィスが犯人に見える映像を作り出した。 ただ賞金を受け取るという段階で思った以上に調査が行われた。 そもそも肝心の魔法石が戻っていないのだから当然だ。

警察も無能ではない。 ついにはエルヴィスが酒場にいたと証言する者が現れ全てがでっち上げだったとバレてしまったのだ。



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