仲間に裏切られた魔法使い⑧




ニュースからエルヴィスが冤罪だったと分かったため警察に大人しく従うことにした。 世話になったがここで一度アルセと別行動となる。


「何だかよく分からないけどちょっと行ってくるよ。 ここまで本当にありがとう、助かった」

「あぁ、別に構わないけど」

「また改めてお礼をさせてもらうから」


エルヴィスは警察に連れられこの街の警察署へと向かう。 一体何のために自分は連れられているのだろうか。 そのようなことを考えていると応接室のような場所へ通された。

どうやら犯罪者扱いではないらしい。


―――モニター・・・?


警察は何かを操作しカメラの映像を見せてくれる。 魔力が薄いためモニターは途切れ途切れだがそこにはオスカーが映っていた。


「オスカー!?」


オスカーはうなだれるようにして鎖に繋がれていた。 エルヴィスの声にオスカーはゆっくりと顔を上げる。


「これは今と繋がってんのか? おいオスカー、どうしてそんなところに・・・」


反応からこちらの声は聞こえているようだ。


「・・・エルヴィス、本当にごめん・・・。 俺が嘘の証拠を渡したから・・・」

「は、嘘の証拠・・・?」


それからオスカーはしばらく黙っていたが意を決したのかおもむろに口を開いた。


「・・・エルヴィスを売って大金を得ようとしたんだ。 だけどあの映像はすぐに偽造したものだとバレちまった」

「・・・ッ」


言葉に詰まっているとオスカーは大きく目を見開いた。


「・・・なぁエルヴィス、俺を助けてくれないか?」

「は・・・?」

「俺たちの仲だろ? もう何年も一緒にいるよな!? なぁ、頼むよ!!」

「・・・ブレントもグルだったのか?」

「・・・あぁ」

「アーリンは?」

「アイツにはでっち上げのことは言っていない。 ただエルヴィスが犯人だと言ったら半信半疑ではあったけど信じたよ」

「・・・信じたのか、そうか・・・。 あの時ブレントが俺を殴ったのは全てを知っていて殴ったんだな」

「演技ではあるけど本気でやらないと意味がないと思ったんだ」

「背後からだったし魔力もなかったからモロに殴られた。 痛い、なんてものじゃなかった。 本気で殺されるかと思ったんだぞ」

「すまなかった・・・」

「・・・助けて、って言ったよな? そんなの無理に決まっている。 見損なったよ、リーダー」

「エルヴィス!!」

「・・・最後まで信じていたのは結局俺だけだったんだな。 もう賞金首とかどうだっていい」

「ま、待ってくれ!」

「俺はもうこの人とは何の関係もないんであとは好きにしてください」

「エルヴィス!!」


エルヴィスは連れてきてもらった警察にそう言うとこれ以上何も言わずにこの場から立ち去った。 応接室には通されたがもしかしたら警察はグルになっているのではと考えたのかもしれない。

ただエルヴィスの消沈ぶりと見放すのを見てそうではないと理解したらしい。


―――・・・何なんだよ、それ。

―――大切な仲間を信じた俺が馬鹿だったっていうのかよ!!

―――・・・もう俺には信じるものなんて何もないじゃないか。


新しいメンバーを探して旅を再開しようなんて気持ちは沸かなかった。 また裏切られるかもしれないと思うと怖い。 それに帰る居場所もない。 今現在は魔法だって使えない。

オスカーが自分を犯人に仕立て上げたというのは本当で魔法石を盗んだ真犯人ではないのだろう。 ただもうそのようなことはどうでもよかった。

両親の反対を押し切ってここまでやってきたのに今更『諦めた』だなんて言えるはずもない。 エルヴィスはこの稼業でしか生きていく術を持たないのだ。


「ここは・・・」


茫然自失で歩き気付けば森までやってきていた。 当然そこには危険なモンスターがいる。

魔法が使えていたらどうということのない相手でも今のエルヴィスにはどうすることもできないことは先程街で食料調達の時に証明済みだ。


―――自然と俺はこの場所を望んでいたのか。


無気力で歩いていると横からモンスターが突進してきた。


「ぐッ・・・」


オーグマと呼ばれる厳つい熊モンスターに激しく押し倒され身体中が痛んだ。 大きな口が開き牙が迫る。 無気力なエルヴィスは“もうどうでもいい”とすら思ってしまっていた。


―――もう俺の人生はここで終わるんだ・・・。


目を閉じようとした瞬間だった。


「おい、何をやってるんだ!!」


大きな声が聞こえたとほぼ同時にオーグマの体が吹き飛んだ。 どうやらアルセのドラゴンが体当たりしたようだ。


「アルセ・・・」

「戦場で諦めるなんて自殺と同じだぞ! 魔法が使えなくなってもやれることはあるはずだ!!」


その言葉に俯いた。


「・・・そういうんじゃないんだよ。 もう何もかも失ってどうでもよくなったんだ」


その言葉でアルセは察してくれた。


「・・・! 本当に仲間に裏切られていたのか?」


直球にそう言われ胸が痛んだ。


「・・・ッ、俺に構うな。 しばらく一人にしてくれ」


起き上がり踵を返すとアルセはエルヴィスの正面へと移動した。


「一人でいたら魔物に殺されるのがオチだ。 力が足りなければ殺されても仕方がない。 だけどエルヴィスは勇気があって俺と出会った時あんな高いところから躊躇いもせず下りようとしたじゃないか!」

「あの時はただ生き延びるのに必死だっただけだよ。 ・・・でも分かった、死なないようにはする。 助けてくれてありがとな」

「・・・分かってくれたならいいけどさ」


アルセは気を遣ってくれたのか自ら離れていった。 そのようなアルセの背中を大人しく見送る。


―――改めて礼をするだなんて偉そうなことを言っておいて何をやっているんだ、俺は。

―――・・・でも仲間を失ってたった一人の俺はこれからどうやって生きていけばいいんだよ。



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