仲間に裏切られた魔法使い⑥




―――・・・本当に裏切ってなんかいないよな。


正直なところアルセが言うように本当は裏切られたのではないかと何度も頭を過ったことがある。 あの時殴られた痛みはまだ残っていて、それは仲間に対して小突いたとかそういうのを遥かに越えていた。

殺すつもりはなかったとは思うが、もしそうなったとしても構わないくらいの威力。 単純に肉体的に貧弱なエルヴィスが怪力のブレントに殴られれば下手をすれば死んでしまうのだ。


―――魔法を考えれば戦力にそう差異はないと思う。

―――俺たち魔法使いは不意打ちには滅法弱い。

―――ブレントだってオスカーだってそれは当然よく知っている。


血は出ていないが背後からということもあり下手したら前のめりに倒れていた可能性も高い。 それはもう仲間への対応ではなく犯人への暴力だ。


―――ただ俺を捕えるためだけかと思ったけどまさか本当に・・・。


仲間を信じたいという気持ちとは裏腹にアルセに直接言われてしまえば疑惑は膨らんでしまう。 そもそもエルヴィスと同じ格好をした人間を用意するとなった場合仲間だと説明がつきやすいのだ。


「もう昼時か。 そろそろ腹が減ったな、飯の時間にしよう」

「あ、あぁ」

「食欲はあるか?」

「・・・ないけど何かは腹に入れておかないとな」

「ならあそこの店はどうだ?」


アルセに店を指されるが首を横に振った。


「いや、近くのモンスターでも狩ってくる。 俺の持ち合わせはあまりなくて節約しないとな」

「そうか・・・。 まぁ、俺のドラゴンにも何か食べさせてやらないといけないし肉でも焼いて食うか」


二人は町を出てフィールドへ向かう。 そのまま辺りを探索しモンスターの大ネズミを発見したところまではよかったのだが。


「な、何だよこれ!! 俺は魔法なしじゃこんなにも無力なのか!?」


エルヴィスは魔法を使えるためグループでの戦闘が戦術的に理にかなっていたが独立したらしたで一人でやっていけるくらいの実力はある。

はずだったのだが魔力がないため攻撃をまともに行うことすらできなかった。


「マジかよ、何もできねぇじゃん・・・」


多少魔力が放出されているが非力なエルヴィスでは子供向きと名高い大ネズミですら狩ることができない。 魔法石がなくなり魔法が使えなくなるとエルヴィスの戦力はほぼなくなってしまう。

時間をかけて溜めれば魔法を放つことはできるかもしれないが、威力を調節できないため牢屋での時のことを考えれば失敗に終わりそうだ。

今はただモンスターを討伐するのではなく、その肉を食料として得ようとしているのだから。


―――魔法石がなくなって困っている魔法使いはきっと俺だけじゃないはず・・・。

―――というか仲間は俺が魔法を使えなくなって戦闘できなくなるって分かっていたんじゃないか?


そのような考えが先程のアルセの言葉で思い出され頭を過る。


―――・・・いや、そんなはずはないか。

―――それだと魔法石がなくなるのを知っていたことになる。

―――仲間が魔法石を盗んで俺に罪を擦り付けるだなんてそんな大袈裟なことは・・・。


「・・・全く仕方がないな」


魔法の巻き添えにしたら悪いと思い離れた場所で待機してもらっていたが、一向に狩りが進まないエルヴィスを見てアルセがやってきた。 そしてドラゴンに指示し魔物に噛み付かせた。


「うわ、凄ぇ・・・」

「今日の昼飯は食べ残し、だな」


何でもアルセが言うにはドラゴンに狩りをさせると肉を食い散らかしてしまうらしい。 当然と言えば当然であるが魔物の残骸を前にしてこれを食べようという気持ちにはなかなかなれなかった。


「・・・本当にこれを食うの?」

「流石に砂まみれだし食べるところもほとんどない。 素材の一部は無事だからそれを売って金にしよう。 普通に狩るより買いたたかれるかもしれないが食費くらいにはなる。 それでどこかで食おうぜ」

「結局街へ戻るのか。 まぁ、先になるか後になるかの違いだったからいいけどさ」


街へ戻ろうとすると急に現れた魔物がドラゴンへと飛びかかってきた。


「!?」


ドラゴンは反応できず対抗手段がない。


「マズいッ!!」


それを見たエルヴィスは無理だと分かっていながらも咄嗟に魔法を使おうとした。


「え・・・?」


するとどうだろう。 魔法が発動するではないか。 しかも威力の調節の利かない魔法ではなく通常のものだ。


「あ、あれ? 何だよ、魔法が使えるじゃないか!」


アルセはそう言うが少し困惑しているようだった。


「いや、でもさっきまでは確かに・・・」

「火事場の馬鹿力っていうヤツか? とにかくドラゴンを助けてくれてありがとう」

「あ、あぁ・・・」


―――今のは本当に俺の魔法なのか?


疑問を抱きつつとりあえずエルヴィスが街の前で魔物の解体を行う。 グループではトドメを刺した人間が解体を行うことが多くエルヴィスは慣れていた。


「いい手際だな。 いつも俺はドラゴンに食べさせてそのままな感じだから」

「こんなのやっていれば誰だってできるさ。 だけど・・・」

「・・・だけど?」

「・・・俺がトドメばかり刺していたから仲間に反感を持たれたんだろうな、って」

「それは仕方のないことだろ? 魔法使いがトドメを刺すのはよく聞く話だ。 そんなことで目くじらを立てるような奴らはそもそもこんな稼業向いていないさ。

 って、こう言うとエルヴィスの仲間を否定するようになっちまうけど・・・」

「それはいいよ。 そもそも俺は分配を提案していたしな」


解体を終え素材を売り食糧を購入した。 その時新たなニュースが端末に流れる。


「・・・お、魔法石の件か。 おぉ、エルヴィスよかったじゃん!」


どうやらエルヴィスは冤罪だと確定したらしい。


「あぁ・・・。 でも急過ぎるな、どうしてだ? まだ俺は何も証拠を提出していないのに」


疑問に思っていると早速とばかりに警察が来た。


「うわ、マズッ・・・」


慌てて顔を隠すももう遅い。 食事の時に顔を曝け出してしまっていた。


「エルヴィスだな、見つけたぞ。 来い」

「ッ、だから俺は!!」

「魔法石が盗まれた件ではエルヴィスが冤罪だったと分かった。 ニュースを見なかったのか?」

「いや、見たけど・・・」

「といっても脱獄し悪戯に騒ぎを広げたことに関しては罰を受けてもらうがな」

「・・・ちッ。 それって冤罪で捕まえていなければ起きなかった話じゃないか」

「それはそうだが、ちょっと来い。 会わせたい奴がいるんだ」



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