仲間に裏切られた魔法使い⑤
使い魔ということもあり先程のダメージはすぐに消え、かなり揺れはするが街にはあっさり辿り着くことができた。
「よし、お疲れ。 大人しくここで待っているんだぞ」
ここへ来る間にドラゴンの背で自己紹介を終えた。 アルセはドラゴンを街の外で待機させる。
「乗せてくれてありがとな。 じゃあ早速行くかー!」
「あ、ちょっと待って」
「何だ?」
「流石にその恰好はマズいだろ」
エルヴィスは今朝と変わらない恰好のため一発で逃亡者だとバレてしまう可能性がある。
「あー、そうか。 どうしよう・・・」
「俺が代わりとなる服を買ってくるよ。 ここで待っていてくれ」
アルセは数分で代わりとなる服を買って戻ってきてくれた。 早速着てみることにした。
「おぉ、サイズがピッタリだ! だけど何だこれ、粉袋に穴でも開けたのか?」
「普通に売っていたものを買ったさ。 安物だけどな。 今は地味な恰好をしている方がいいだろ?」
「確かにそうかもしれないな。 いくらだった? 今払うよ」
「安物だから別にいいさ」
アルセはそう言ったが流石にこう世話になりっぱなしもマズいため数枚のお金を手渡し、早速街の中へと足を踏み入れた。 魔法が使えないというのに街は至って普通で活発だった。
そもそも魔法を使える人間は数少なく、魔力を必要とする人間も同様にそれ程多くはない。
「ちょっと聞き込んでくる」
そう言って適当にそこら辺で暇している人にエルヴィスは近付いた。
「あの、すみません。 お尋ねしたいんですが」
「・・・何それ、わざと?」
声もバレないようわざと高くしたり低くしたりして尋ねてみた。
「声で勘付かれるかもしれないだろ!」
「流石に声までの情報は出ていなかったと思うけど・・・」
この後もバレることなく複数人に尋ねてみたが有益な情報は得られなかった。
そもそも魔法石が盗まれたというニュースを知らない人も多く、盗まれた街から離れたここで有益な情報が得られる可能性は低い。
とはいえ犯人が魔法石を盗んでいつまでもそこに滞在しているとも思えない。 結局何も進展しないまま時間ばかりが過ぎていく。
「まぁ午前4時に外を出歩く人なんて普通はいないか・・・」
「さっき寝ていたから記憶がないと言っていたが、寝る直前までの記憶はあるのか?」
「もちろんだ。 と、言いたいところなんだけど昨夜は深酒してしまってね。 朧気な記憶はあるんだけどハッキリとはしないんだ」
「酔った勢いでつい、みたいなことはないんだよな?」
「つい、で盗んでその魔法石は落としました、って? 流石にないと言い切れるぞ、それは」
「そうか。 しかしどうして疑われたんだ? 冤罪で捕まるとしたら現場で姿を見られていたとかじゃないと捕まらないと思うんだけど」
「仲間が俺を売ったんだ。 ・・・あ、いや、どうだろう。 他人を俺だと勘違いしたのかもしれない。 俺と格好が全く同じだったし仕方がないのかも」
「今の格好と全く同じだったと・・・? 仲間とは長い付き合いなのか?」
「三年はずっと一緒にいるよ」
「それなのに仲間はエルヴィスの話を聞いてくれなかった?」
「あのリーダー、オスカーの切羽詰まった表情、手を出す程心に余裕がなかったんだろ。 仲間が罪を犯せばグループに疑いがかかってもおかしくはないし憤っても・・・」
「・・・手を出す? 殴られたということか?」
そこまで言ったところでふと昨夜の出来事が頭に浮かんだ。 些細なことだと思っていたが確かにいい雰囲気だとは言えなかった。 今も殴られた後頭部はコブができていて痛みが残っている。
しかしエルヴィスは首を振った。
「まぁちょっとした過ちだろ。 少なくとも俺は三人を信頼している。 きっと何かの間違いだから俺の手で犯人を捕まえて無実を証明して仲間のもとへ戻りたいんだ」
エルヴィスの話を静かに聞いていたアルセは難しそうな表情を浮かべた。
「・・・あまり言いたくはないんだけど。 それって仲間に裏切られたんじゃないか?」
「ッ、止めてくれ! 俺は裏切られてなんかいない!!」
「そう信じたいのは分かるさ。 でもいきなり仲間を殴ったりするか?」
「それは仲間だからこそッ・・・」
「もし俺がエルヴィスの仲間なら何かの間違いじゃないかと思ってまず信じようとするだろう。 エルヴィスの話をしっかりと聞いて事実を確かめる。
もしその上で本当にエルヴィスがやったのだとしたら何か事情があったんじゃないかと考えるはずだ」
「・・・」
「仲間はエルヴィスを本当に売って見捨てたんじゃないか? ・・・賞金をもらうために」
「ッ、そんな縁起でもねぇこと言うなよ!! 俺は今でも仲間を信じてんだ!!」
今にも手を出してしまいそうなエルヴィスに気圧されアルセは一歩後退った。
「・・・まぁ、俺はエルヴィスたちが過ごした年月を知らないからな。 仲間たちにも会ったことはない。 ただどうもその頭の傷を見ると仲間に対するものとは思えなくて。
・・・気を悪くさせてしまってすまなかった」
そう言ってアルセは小さく頭を下げた。 エルヴィスも謝られはしたが、胸の内でもしかしたらと思っていた思いが少しずつ膨らむのを感じていた。
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