仲間に裏切られた魔法使い③
牢屋から一時的に出され取り調べのために狭い部屋へと連れていかれていた。 まさか犯罪者と同じような場所へ入れられるなんて思ってもみなかった。
これでは本当に今まで何のために努力してきたのか分からない。 不満が爆発しそうになるのを抑えていると、早速とばかりに事情聴取が始まった。
「盗んだ石はどこへやった?」
「だから俺じゃないんですって!!」
「お前の仲間が見せてくれた映像が何よりも証拠だろう!!」
「確かに恰好は今の俺と同じだったけど顔までは見えなかったでしょう!?」
「盗まれた時刻は『寝ていた』と言っていたらしいがその証拠は?」
「そんなものありません、って・・・。 ただ昨晩は飲み屋でお酒を飲んでいました。 その量や状態を居合わせた人は見ているはずです」
そう言うと怪訝な顔をされる。
「・・・酔った勢いでやらかしたんじゃないのか? 記憶は残っているのか?」
「そ、それは残っていませんが」
懸念していたことを言われてしまったが、そればかりはどうしようもない。 エルヴィス自身も記憶がないため、心の奥底では“もしかしたら”なんて気持ちも僅かにある。
ただもしそうなら魔法石はどこへいったのだろうか。 エルヴィスが盗んだのだとしたら、エルヴィスが持っていないのはおかしい。
「なら寧ろ容疑は深くなるだけだ」
「待ってください! 映像では普通に歩いていたでしょう!? もし俺が酔った勢いでやったなら千鳥足だったりその痕跡が残っているはずです!!」
「だが普通に歩けなかった証明はできない」
「そ、それはそうですけど・・・。 とにかく信じてくださいよ!! 本当に俺じゃないんです!!」
「調査は行うが最有力容疑者であることに変わりはない。 もし嘘をついているんだとしたら絶対に吐かせてやるからな!!」
「どうして誰も俺のことを信じてくれないんだよ・・・。 そもそも魔法石がなくなって困っているのは魔法使いの俺じゃないか」
身に覚えは本当にない。 自分は二重人格ではないし記憶はないが、それはあくまで眠ってからのことで自宅で床に着くところまではハッキリと憶えているのだ。
絶望にうちひしがれているうちに埒が明かないと牢屋へ戻された。
「まさか本格的に牢屋へ入ることになるとは思ってもみなかったな」
―――でも俺は絶対に冤罪だ。
―――どうにかしてここを出て本当の犯人を捕まえないと大変なことになる。
―――こういうのは捕まっている時間が長くなればなる程俺のイメージが悪くなるものだ。
警察は既に犯人はエルヴィスだと決め付け調査もおざなりになっているに違いない。 時間もないため脱出を試みることにした。
―――やっぱり魔法石が盗まれたから魔力が全然出ねぇ・・・!
―――でもつまりこの牢屋の結界も薄まっているっていうことだよな・・・。
色々試した結果魔力を溜め一気に解放すればそれなりに魔法を使うことはできそうだ。 魔力を一つに集中させているとそれを見ていた向かい側の牢屋の男が言った。
「もしかして脱獄でもしようとしているのかい?」
「あぁ、冤罪だからな」
「冤罪ならそのまま牢屋に入っていてもいいんじゃ」
「いや、事はそう単純じゃないんだ」
「冤罪って詳しく教えてほしいな」
「悪いな、外部の情報は教えないよう言われている」
「・・・そっか」
男はやせ細っていて声もか細かった。 それに同情し私情を少し口にしてしまう。
「・・・まぁただ仲間に疑われ捕まえられてしまってな」
「え? ・・・それは辛いね。 仲間を大事にしている俺にとっては考えられないことだ」
「俺も。 グループのメンバーは信頼していて大切な人たちだと思っていたんだけどな」
―――というかコイツ見たことがある顔だな。
―――・・・あ、半年前にニュースになっていた殺人事件の犯人か?
―――歳も近くて真面目で大人しそうな見た目なのに人は見かけによらないんだな。
魔力を溜め続けいくらかの時間が経過した。
「よしッ、そろそろいいだろ!」
たくさん集まった魔力を一気に解放させ檻を開けた。 大きな音に周囲の捕まった者は気付くが幸い看守には気付かれていなそうだ。
「見たところアンタも魔法を使えるんだろ? お前もこうして脱出したらどうだ? 逃げるなら状況的に今のうちだぞ」
先程話しかけてきた向かい側の男に言った。
「ううん。 魔法を制限された牢獄生活で魔力がほとんど練れないんだ。 食事もあまり食べていないし、体力もない」
「・・・そうか」
「それに俺にはもう時間がないから」
「・・・? 分かった。 可哀そうだけど俺も人を気にしている余裕はないんだ。 急ぎの用事があってな」
「構わないよ。 ただ一つ、脱獄できたら俺の仲間に『俺のことはもういなくなったものとして扱ってほしい』と伝えてくれたら嬉しい」
「・・・分かった。 そんな偶然起きるのかも分からないけど会えたらな」
そうして一人で脱出することにした。 向かいの男の仲間に伝えるとは言ったが仲間がどんな人間なのかは全く分からない。 詳しく聞かなかったのはエルヴィス自身出会うことなんてないと考えたためだ。
未だに牢屋に入っている者たちは羨ましそうにエルヴィスを見ているが、騒ぐ気力すらないのか何も反応してこない。 忍び足で探索していると窓のようなものを発見した。
「見つけた! そこからなら出られそうだな」
しかし窓を開け外を見下ろして絶望した。
「って、高ッ・・・!」
相当の高さのある牢屋へ入れられたようだ。 このまま降りれば間違いなく無事では済まない。 下手をしなくても死ぬだろう。 ただどうやら下には人がいるように見える。
「おーい! 俺を受け止めてくれー!!」
看守に気付かれない程度の声で叫ぶも下の者が聞こえている様子はない。
―――普通に飛び降りれば自分も受け止めた相手も死んじまうよな・・・。
幸い身に着けていたものはそのままだったためマントを細く裂いて結びロープを作った。 ただ上手く引っかけるところがない。
「・・・ここでいいか」
端に大きく結び目を作り石壁の隙間に引っかける。 どうやらこれでいけそうだ。
―――強度は不安だけど俺のマントだってただの布切れじゃなくて魔力の籠った防具だ。
―――聞こえるくらいの距離になったらまた受け止めてもらうよう頼めばいいよな。
高過ぎて怖い気持ちはあるがエルヴィスは決心して降りていく。
「・・・わッ、マジか!?」
しかしエルヴィス自身失念していたが、魔力の籠ったマントは魔法石がなくなった今ただの布切れと変わらず石壁との摩擦でロープが破れてしまった。
―――簡単に引き裂くことができたのにどうしてそう思い至らなかったんだよ・・・ッ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます