仲間に裏切られた魔法使い②
牢屋に入ったエルヴィスは静かに魔法力を溜めながら昨日のことを考えていた。 決定的な亀裂は夜に起きたが、その前段階は昼間のクエスト中に遡る。
「エルヴィス! ボサッとしてんじゃねーよ!!」
ブレントがエルヴィスへ向かって激しく言う。 エルヴィスが魔法の発動のために力を溜めていたところを魔物に狙われた。
大きな狼様のモンスターの口が肉薄したところでグループのブレントが受け止めてくれたのだ。 もしそれがなければ軽装で肉体能力も高くないエルヴィスでは致命傷となったのかもしれない。
「あ、ありがとな!」
自分は攻撃されずに済んだが慌てた拍子に魔法の発動を停止してしまい再度力を溜める必要があった。
「うわ、やり直しだ・・・」
「はぁ!? 何してんだよ、早くしろよ!! いつもエルヴィスはやることが遅ぇんだよ!! ちんたらちんたらと!!」
「わ、悪い! これでも懸命に溜めてはいるんだけど・・・」
「ほらエルヴィス、今のうちに早く!!」
「あ、あぁ!」
オスカーの言葉で魔力を溜めるのに集中した。 とはいえこれはグループとしての魔法使いの一般的な役割でエルヴィスが魔法使いとして特段鈍臭いといったことではない。
もちろん魔法の習得を速度重視にしていればその限りではなかったが、それなら魔法である必要があまりないのだ。 遠距離からの攻撃を得意とする職業なんて魔法使い以外でもいくらでもいる。
魔法はその威力の高さから大規模殲滅や致命的な攻撃を与えることに重きを置いた技術なのだから。 オスカーが魔物の隙をついて剣を振う。 飛び散る血しぶき。
攻撃を受ければアーリンが即座に回復する。
「よし、できた!!」
「ようやくかよ」
そして魔法の発動の準備が整ったところで大きな炎が飛び出していく。 魔物は弱った体で逃げようとするが追尾性能の高い魔法から逃れることはできなかった。
遮蔽物などで防がれないようにするのもグループとしての役割で見事魔物を仕留めることができたのだ。
「時間はかかってしまったけど無事今回も終わったわね」
「あぁ、クエスト達成だ」
アーリンの言葉で皆武器をしまう。 エルヴィスはこの仲間が理想的なグループだと思っていた。 仕事を終え皆がいる方へ笑顔で振り返る。
「今回もいい仕事だったな! ブレントが防御、オスカーが弱らせ、そしてトドメが俺。 アーリンも回復を適度に入れてくれて本当に有難いよな! 俺たちは最ッ高のグループだ!!」
「・・・」
「まぁ、そうね」
「本当にそうか・・・?」
「え・・・」
皆の反応が悪い。 ブレントに限ってはいつにも増して機嫌がよくなかった。
「ど、どうしたんだよ」
「俺が守らなかったらエルヴィスは死んでいたのかもしれない。 いや、その軟弱さを考えれば間違いなく死んでいた。 回復魔法だって死ねば意味がないって分かってんのか?」
「だ、だから感謝しているじゃないか」
「感謝なんてされた憶えはねぇけどな?」
「いや、回復が有難い、って・・・」
「・・・あ、そう。 回復のアーリンのことな」
「ブレントもありがとう、って! 庇ってくれなかったら俺は無事では済まなかったし」
「そりゃあ、そうだろ。 紙装甲で男のくせにアーリンよりも脆いんだから。 本当によく今まで生き残ってこれたもんだな。 俺たちがまるでママのようにお守りして、手柄だけ掻っ攫っていきやがる。
冒険家稼業なんて目指したからこうあってたくさんの人間に迷惑をかける。 てか、もうちょっと身体を鍛えようとか思わないのか?」
エルヴィスは魔法に全てをかけているため身を守るものを簡易的にしか付けていない。 重いものを身に着けていたらいざという時に疲労で魔法が使えないのだ。
回復も似たようなものだが最も負傷しては駄目な役割であるため重点的に良質な防具を与えられていた。
「で、オスカー、今回の分配はどうなってる?」
「トドメを取ったエルヴィスが4割で残りの6割を俺たちが3等分っていう形だな」
トドメを取った者が一番報酬を多くもらえるというのは誰もが理解しているルールだ。 ただこのグループの場合は大半をエルヴィスがトドメを刺すことになっている。
最後しか活躍していないエルヴィスがこんなにもらってもいいのかと少し気が引ける時もあった。
「じゃ、じゃあこの後はみんなで飲みに行かないか? 俺が奢るからさ!」
「いや、俺はもう休むわ」
「俺も明日早いし」
「そうね。 今日は解散にしましょうか」
「え、ちょ・・・」
皆はそう言って解散していった。 何となく嫌な空気になってしまったのはエルヴィスも分かっている。 だから無理に止めることはなかった。
―――魔法使いの特性上仕方がないだろ・・・。
―――きっと報酬の配分について不満があるんだろうな。
―――その報酬の配分を変えようと提案したことはあったけど、それも『世界共通ルールを変えることはよくない』ってみんなが断ったんじゃないか。
それ以降エルヴィスがトドメを刺し報酬を多くもらうというのが当たり前となった。 ただそれでもグループのために必要とあらばエルヴィスのお金で何かを買い貢献していた。
―――施しを受けているようで気分がよくない、とも言われたっけ。
―――他のグループで魔法使いがこんな扱いを受けているなんて聞いたことがないのに。
―――そもそも俺がどれだけ努力して魔法を習得したのか理解してんのか?
―――ブレントが鋼の肉体を手に入れるのと同じように努力して魔法を習得しているんだぞ。
―――・・・何なんだよ、それでも俺が悪いのか?
エルヴィスは気分の晴れないままでは寝られないと酒場へと繰り出した。 そこで酒を煽り夜深くになってから寝床へと着いた。 それで翌朝からあのようなことになるなんて思ってもみなかったのだ。
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