第13話 大好き

「久しぶりだね、学校。まぁ、誰もいないんだけど。」


 誰もいない学校にシオンと二人で訪れた。あれから数日、ニュースで大々的に放送されるほどあの事件は深刻なものになった。シオンが警察に捕まるのも時間の問題だろう。彼女に罪の意識は無い。明日からの沖縄旅行を楽しそうに無邪気に待っている。

 

 私はもう耐えられない。


 ある場所に向かった。昔、私達の出会ったクラス。窓を開けてベランダに身を乗り出した。


 やることはもう決めていた。

 

「ねぇ、シオン。聞いてくれる?」


 シオンがくるりとこちらを向く。

 

 私はしっかりと彼女の目を見つめる。シオンも私の目を見つめる。じっと二人とも目を合わせているとなんだか笑えてきた。


「ちょっと、笑わないでよ!」

「ハルこそ。そっちが笑わせてくるから!」


 あぁ、やっぱり私はシオンが好きだ。

 だからこそ怖い。このままの関係でいることが。

 私は彼女の手をぎゅっと握る。


「じゃあ、言うね。私のために尽くしてくれてありがとう。」


 シオンは何が始まったか飲み込めないでいた。けれど、普通の雰囲気で無いことは察した。


「私のせいでこんな状況になってしまった。ごめんなさい。」


 目が潤んできた。やっぱり悲しいな。


「これからあなたは罪を償うの。そして罪を償いきったら私に会いに来て。」


 夕日が二人を照らす。赤色の光が虹彩を彩る。

 

「あなたはあなた。自分の人生を生きるべき。私なんかに縛られないで。」


 頬が暖かい。流れる涙がそれを少し冷ましてくれる。


「私はここでお別れ。元気でいてね。」


 ベランダの安全柵の上に立つ。ふらふらとなかなか身体が安定しない。

 

 シオンが何か叫んでいる。手を伸ばして私を引き戻そうとする。


 けれど、私はそれを足で払った。


 そうだ、これだけは最後に言っておこう。


「シオン!!」


 さようなら。


「大好きだよ!!」


 ごめんね。

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