第2話 夕日

 彼女と初めて会ったのは去年の春、新学期が始まって間もない頃だった。

 美人で、活発で、皆から好かれる理想的な人物。しかし、どこか冷たい雰囲気を醸し出す彼女は、密かに男子たちから人気があった。

 

 ある日の夕方、用事があり教室に戻ると、椅子に座ってただ夕日を眺め続ける彼女の姿があった。

 赤い陽に照らされた白い頬。虹彩の向こうには外の景色が反射して映る。しとやかで、美しくて、どこか色気を感じさせるその姿に私は時間を忘れるように見惚れてしまった。

 

 彼女は気味が悪くなるほど微動だに動かなかった。まるで抜け殻のように。いや、本当に抜け殻だったのかも。

 私は恐る恐る彼女に近づいた。全く動かない彼女に対して本当に人なのか、置物なんじゃないかとありもしない疑いをかける。

 

 声をかけてみる。彼女は動かない。

 

 顔の前に手をかざしてみる。彼女は動かない。

 

 頬に指を押してみる。彼女はゆっくりとこちらを向いた。

 

 急に動いたので少したじろいでしまった。そんな私を見て彼女は「何?」と気だるそうに答える。

 なにも反応しないものだと思っていたので、言葉に詰まる。吃音気味になりながらも、なぜそんな奇行をしたのかの説明をした。

 彼女は「バカじゃないの?」と至極真っ当な反応をした。そして、カバンを背負いそそくさと教室を出てしまった。

 

 残された私は夕日を眺めた。彼女が見惚れるほどの魅力があるのかと疑って。

 

 しかし、どうやらそんな力はないらしい。

 


 そんな奇妙な出来事。それが彼女「ハル」との出会いだった。

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