第10話 凍てつく覇気

翌朝

「ん……。もう朝か…。」

8時半にセットしたアラームで目覚めたわたしは、顔を洗って寝惚けた頭を覚醒させて行く。

…そうだ、模擬戦。今日は丁度土曜日だし、朝食を食べたら、早速水麗に提案してみよう。


「ねぇ、水麗。今日って、時間あるかな?」


「…? 特に予定は無いけど。」


「そっか。それなら1つ、提案があるんだけど_」



「…模擬戦? 分かった。それで涼音が満足するなら、良いよ。」


「ありがとう。それじゃ早速、またあそこに飛んでもらえないかな。」


「うん。」



「それで、私はどうすれば良いの?」


「えっと、直接撃ち合うのは危ないかな…?」


「…余程強い魔法じゃなければ、多分相殺出来ると思う。」


「そ、そっか…。わかった。じゃあまずは、私の攻撃を防いで見て欲しい。」


水麗は表情を変えずに頷いた。


「…よし。行くよ_」


"海霧"ハール


これは…霧?


「水麗、目眩しは戦闘の基本だよ。」


白い霧に紛れて涼音が魔法を放とうとしているのが分かる。それなら_


"凍てつく盾"スヴェル


"水晶の夜"クリスタルナハト!」


凄い数の水晶が嵐の様に向かってくる。でも___


「…防がれた?」


「…この程度なら、問題無い。」


「っ!ふふっ、そっか。なら、もっと楽しめそうだね。」


何だろう。涼音、楽しそう…?


「これなら、どうかな。"大湾流"ガルフストリーム!」


巨大な…水の壁。辺り一帯を飲み込む様に押し寄せて来る。

また盾で防ぐのは厳しい。なら、凍らせる?

…やってみよう。


"絶対零度"アブソリュート・ゼロ


「…止まった。」


2人の少女の間に、巨大な氷塊が出現した。


"愚者の炎"ウィルオウィスプ


それを茶色い長髪の少女が一撃で焼き払う。


「流石だね、水麗。この調子でどんどん試して行こう。」


「………。」


「…?どうしたの?」


「私も、撃ちたい。」


「え?」


「涼音の魔法を見てたら、私もやりたくなって来た。__ちゃんと受け止めてね?」


今、水麗が少し笑った?

…なんだろう。わたしは何か変なスイッチを踏んでしまったのかも知れない…。


"氷晶弾"アイスクリスタル


まずは、軽いジャブ。

防がれる事は織り込み済み。


「んっ!」


氷の弾丸は涼音の作り出した水の壁に吸収される。でも、隙は生まれる。


"極低気圧"ポーラーロウ


水麗は間髪入れずに次の魔法を放って来る。…速い。かなりの連射性能だな…。


急速に発生した猛烈な風雨と吹雪が涼音を襲う。だが__


「…これが本命?」


先程よりも大きな水の壁を展開させた涼音は、涼しい顔をして立っている。


やっぱり、このくらいは防いで来る…。

それなら__


"聖夜の大彗星"コメット・ラブジョイ


「なっ_」


空から向かって来るのは…隕石!?

それに今、水麗から怖いくらいの殺気を感じる。

これが本当に、一介の高校生が放つ魔法なの?


「まだ足りない。"崩雪崩"アヴァランシェ


「っ!」


まずは雪崩を押し返さないと!


"離岸流"カレント!」


「まだ、本命は残ってる。」


これが実戦なら今すぐ退避すれば良い。まだ間に合う。でも__


「ふふ、そうだね。ここで逃げるのは、違うよね。」


「行くよ。__"魔女の夜"ヴァルプルギスナハト




「次のニュースです。現地時間午前1時半頃、ドイツのヘッセン州で巨大な隕石の落下が確認され__」


「…やり過ぎちゃったね。最後の方、実戦を想定した練習でも無くなってたし…。」


「……うん。でも、楽しそうな涼音の顔を見られた。」


「…え?そ、そうかな…。」


「うん。あんな顔するんだって、思った。」


「…ふふ。それは、こっちの台詞だよ。」


「?」


「一瞬、本気で殺されるかと思ったくらい。」


「そんなつもりは…。」


「きっと水麗は、魔法が好きなんだね。我を忘れちゃうくらい。」


「…それは、涼音だと思う。」


「……、ふふ、そうかもね。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る