第2話 世界五大恐魔


 ——あれから一年ほどの月日が経った。

 

 当初の俺は、まぁ森くらいすぐ抜けれるやろとか思っていた。だがこの森の広いこと広いこと。

 一年ほど彷徨っているがまだ抜けれる気配がしない。しかもこの森の魔物は異常なほど強いのだ。

 それこそ魔王軍四天王と戦ってもそこそこ戦えるんじゃないか?と思うほどには。

 

 そんな奴らと毎日のように戦っている俺の身にもなってくれ。やっと自由になれると思ったらこんな森の中を彷徨うだけの1年間。

 おかげで今では魔王でも1人で倒せると断言できるほどの力がついてしまった。


 唯一の救いはこの森には食べれる果物や魔物が多かったことだろう。

 食べるものに困らないと言うとはとても良いことだ。

 

 まぁ、こんな状況になるなら食べれるものがある利点なんて消し飛ぶんだけどね。


『グオォォォォォ!!!!!』


「うっせぇ………」


 今俺の目の前でバカみたいにでかい声量で叫んでいるこいつ。

名前を『暴喰龍ぼうしょくりゅう』と言う。世界五大恐魔として数えられており、名の通り凶暴で生きるもの全てを喰らい尽くす恐ろしい龍である。

 俺も旅の途中に遠目で見かけたことがあったが、あの時は別に戦ってはいない。


「はぁ……なんで俺はこんなにも運が悪いのかねぇ。仮にも世界を救ったんだけどなぁ……」


 いやマジで本当に。そろそろ俺に自由な生活をさせてくれてもいいと思う。


『グオオォォォォ!!!』


「だからうっせぇ!!」


 叫ぶと同時に放たれたブレスを俺はヤケクソ気味に魔法で凍らす。

 凍ったブレスはそのまま地面に落下し、粉々に砕け散った。

 

 俺の魔法の属性は氷。何かを凍らせることに特化しているこの魔法は、遠距離攻撃に対して圧倒的有利になれる。まぁ込める魔力が相手より多くないと凍んないけどね。


『グオオオォォォォ!!!!』


 自分のブレスが防がれたことに怒ったの

か、『暴喰龍』は先ほどよりも威力の高いブレスを連射する。

 俺はそれを冷静に凍りつかせる。


『グアアァァァァ!!!!!』


 そんな完璧な防御を見せつけると『暴喰龍』はブレスは効果がないと悟ったのか、その巨大な体躯を使って物理攻撃を仕掛けてきた。切り替えが早い。

 俺はそれを横に飛び退いて避ける。


「うわぁ……えぐ」


 ついつい声が漏れた。

 それもそうだろう。俺がさっきまでいた場所はもともと何もなかったかのように更地となっていたのだから。

 

 ただ通り過ぎただけでこれかよ………規格外なやつだ。なんで俺はこんな奴と戦わないといけないんだ。

 本当に、この世界に来てからの俺はついてない。


『グアアアァァァァァァ!!!!!』


 『暴喰龍』は先ほどと同じように俺に向かって突進してくる。しかし速さは先程とは段違いだ。


「ちっ!」


 それを俺は危なげに避ける。物理攻撃に苦戦している俺を見た『暴喰龍』は、いい気になって何回も突進をしてきた。

 しかもこいつ途中から不規則な動きで近づいてきたり、馬鹿みたいにでかい爪で引き裂こうとしたりもし出した。

 単調な攻撃でさえここまでの脅威なのに、工夫をされては流石に死にそうである。

 

 だがそれでも、何回も見てる攻撃には慣れてくる。


 俺は『暴喰龍』の攻撃を避けたタイミングで魔法を発動する。


「『アイスランス』」


これは氷属性の上級魔法だ。

魔法には階級がある。下から


初級

中級

上級

究極

超越

その後に固有魔法というものもあるのだが、その話はまた今度しよう。


閑話休題


 本来上級魔法程度では龍にかすり傷をつけることすらできない。龍自体がそれくらい超常的な存在なのだ。


 だが俺は仮にも世界を救った英雄。込める魔力さえ多くすれば、龍くらい貫くほどの威力が出るはず———だった。


 そう、それが普通の龍ならば。


『グオオオォォォォ!!!!!』

 

「えぇ……かすり傷ひとつないとか転生者の俺よりチートですやん………」


 だが残念ながらこいつは普通じゃない。この感じを見るに、超越魔法を使ってやっとダメージを与えられる。

 

「さすが世界五大恐魔、笑えねー」


 この圧倒的攻撃力と防御力が、こいつを世界五大恐魔たらしめている理由なのだろう。


 はぁ、やっぱり本気でやらないとだめか。


 まず、こんな強敵相手に手加減してたのがおかしかったのだ。まぁそこは今から本気を出すと決めたから許して欲しいところではある。


 ふぅ………。俺は呼吸を整え、自分の中に流れている魔力を精密にコントロールしていく。一切の乱れは許させない、そんな規模の魔法なのだ。

 そして———


「『固有魔法 ホワイトローズ』」


 ———俺の真後ろに美しき氷の薔薇が咲き誇る。そこからは数多のつたが伸び、周囲をゆらゆらと漂っている。

 薔薇が発する冷気は凄まじく、それが現れた瞬間周囲にあった木々は一瞬にして凍りついてしまった。


 ——固有魔法。

 一つの属性を極限まで追求したものだけが辿り着ける魔法の極地。形式上超越魔法の1つ上の位となっているが、威力や性能は1つ上どころの話ではない。例えば究極魔法使いが5人もいれば超越魔法使い1人倒すぐらいのことはできるだろう。

 しかし、超越魔法使いが何人集まろうとも固有魔法使いには絶対に勝てない。そのくらいの差がそこには存在してるのだ。


『グオ!!!!????』


 『暴喰龍』は俺の魔法を見て驚き、そして一瞬で最大火力のブレスの準備をする。


 やはり第六感的な何かがあるのだろうか。ブレスから物理への攻撃の切り替えや、この魔法の危険性の理解、その一つ一つがとても早い。だがまぁ理解したところで対抗できるかは別問題である。


『グアアアアアァァァァ!!!!!!!!』


『暴喰龍』は口を大きく開き、先程までの攻撃とは比べ物にならないほど速く、巨大なブレスを吐いた。

 そのブレスはおそらく小さな国の首都くらいなら燃やし尽くすことができるだろう。

 

 ———だが、足りない


 ブレスはだんだんと俺の方に近づいてくる。しかし、俺が作り上げた薔薇のつたに触れた瞬間———そのブレスは凍りついた。


『グオ????』


 理解ができていないようだが、それはそうだろう。なにせ自身最強の攻撃がこんなにもあっさりと塞がれたのだから。


 だが、敵との戦い中にボーッとするのはあまり感心しない。


 ———パキッ


 ———パキパキ


『グオァ?』


 こうやって、自身に致命傷となることが起きてしまうのだから。



—————


次回から死に別れした仲間たちの方も書いていきます!

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