物語通り魔王を倒した俺は自由気ままに生きていく、はずだった

たかみそくん

第1話 原作通りに


 転生ってこんな感じなんだ。


 日本で事故にあい、轢かれたと思った次の瞬間には転生していた。


 俺の読んでいた小説のほとんどはもう少し色々とあったはずだ。

 神様に会ったり、死にそうになっている時に来世への抱負を述べたり、その感覚を説明してくれるものもあった。


 だが実際の転生というのはこう言うものらしい。夢がないね。あいや、痛い思いをせずに楽して転生できるから夢はある……のか?


 まぁそんな誰の得になるかわからないような話はおいといて、この世界の話をしよう。

 結論から言うとこの世界は俺が前世で読んでいた小説の世界だと分かった。そして、俺はこの世界の主人公——フェロに転生していた。


 この小説の内容を簡潔にまとめると、主人公が旅の途中に出会った仲間たちと一緒に絆の力で魔王を倒すと言うもの。

 テンプレもテンプレである。特に最後の魔王の倒し方なんてものすごい。

 再現すると、


「みんな!!!僕のことを信じてくれ!!!みんなの信じる力さえあれば僕は魔王に勝てる!!!(主人公)」


 〜仲間が主人公に色々言う〜


「みんなありがとう!!くらえ魔王!!

 これが僕たちの力だ!!はあああああぁぁぁぁぁ!!!!!」


 よく分からんビームが出る


「グアァァァァ!!!!!(魔王が叫ぶ声)」



 である。

 もうさ、絆の力の範疇を超えちゃってるよね。想いだけでそんなに強くなれるなら是非とも前世で習得したい能力だった。

 それともあれか?異世界ならではの特殊能力なのか?

 もしそうだとしたらしょうがない。前世で習得できなかったのは仕方がないと割り切ろう。


 兎にも角にも、俺は主人公だから魔王を倒すと言う使命がある。とっても嫌だが、この仕事は誰かには任せられない。もし誰かに任せて世界が滅亡でもしたら笑えないし。

 なら絆パワーのおかげだとしても魔王討伐の実績があるこの体の方が絶対にいい。


 はぁぁ、よし、まぁ頑張るか

 

 こうして俺は、来るべき魔王討伐に向けて覚悟を決めるのだった———。



 —————



 そして今


「みんな!!!俺のことを信じてくれ!!!みんなの信じる力さえあれば俺は魔王に勝てる!!!」


 ん?と思った人も多いのではないでしょうか。なんで原作と同じなんだ、と。別に深い意図はありません。単純に原作改変していろいろくるって最終的にバッドエンドになりました、的なことを防ぐためです。

 後、別に原作通りやらないとは言ってないし。


「フェロ!!!頑張って!!!信じてるわよ!!!!」


「フェロ!!!頑張れ!!!魔王を倒しちゃって!!!!」


「がんば…れ!!!」


 そして、今声援をくれたのが俺の仲間たちだ。

 最初に応援をしてくれたのはルーナ、回復やバフをしてくれる。お貴族様だが別に言葉遣いが丁寧なわけでわない。

 次に応援をしてくれたのはリリー、格闘家で前線を支えてくれている。犬系の獣人でとても元気に溢れている子である。

 最後に応援をしてくれたのはアイリス、魔法使いで後衛を担当している。無口だが意思表示はしっかりとしている子だ。


 ——余談だがフェロくんは万能型である。


「みんなありがとう!!くらえ魔王!!

 これが俺たちの力だ!!はあああああぁぁぁぁぁ!!!!!」


「グアァァァァ!!!!!」


 ドッカーーン!!!


 俺の放った魔法が見事に魔王を撃ち抜き、その後ろにあった壁までも派手に壊す。

 それもそのはず、この魔法にはみんなの全力の意志が込められているのだ。

 仲間と過ごしてきた間に、俺は見事想いを力に変える能力を身につけたのである。


「はぁはぁはぁ、やった……のか?」


「えぇそうみたいね、ついに、ついにやったのよ………!!!!!」


「やった…!やったよ!!!」


「……うれしい…!」


 分かってるかもしれないが、旅の仲間は全員女である。こんなテンプレを全て詰め込んだような小説なのだ。もちろんご都合主義もあるに決まってる。


「これで世界は平和になる!!!!やったなみん…グハッ!!!!」


 突然胸に激痛がはしる。それもそのはず、俺の体にはぽっかりと穴が空いていた。



  —————計画通りだ


「ッッッ!!!フェロ!!!」


「え!!!???フェロ!!!」


「…フェロ……!!!!!」


 仲間たちの悲鳴が聞こえる。それはそうだろう、彼女たちはとても友達思いだから。


 魔王は瀕死になると最後の足掻きとしてこの光線を飛ばしてくる。

 原作でのフェロ君は見事にこれを避けて魔王に「不意打ちをしても勝てぬとは……完敗だ」みたいなことを言われるのだが、俺は避けれなかった。正確には避けなかったのだ。


「くそ………油断した……。まさかこんな力が残ってるなんて………」


「フェロ喋らないで!今治療を!!」


「いや、無理だ……。心臓をいかれた……。

だから、喋れるうちに……これだけ言い残させてくれ……」


「いやだよぉ……お別れなんていやだ

よぉ!!」


「ははっ、ごめんな……。けど、みんなと一緒にいれて……楽しかった……。だから、悲しい顔しないで、笑っててくれ……。やりたいこと見つけて、幸せになれよ……」


「……フェロ?」


「見守ってるからな……………………」


「フェロ?フェロ?ねぇフェロ?返事は?

フェロ!!!!!!」


「なんで、なんでこうなるよ……!!!」


 こうして主人公と仲間の戦いは一人の犠牲は出たものの、勝利という形で終了となっ

た———。



 —————



 と言う冗談は置いといて、いやべつに冗談ではないんだけど。


 フェロ君、もといい俺は見事原作通り魔王を倒してみせた。

 唯一原作と違うのはフェロ君が死んだことだろう。ここでみんなは思うはずだ。

 なんでここまで原作通りに進めてきたのに最後は死を選んだのか、と。


 理由は単純、めんどくさいからだ。

 このまま人の世界に戻ると、原作では担ぎ上げられてあれよあれよと気づいたら王女と結婚させられて国の王様になってしまう。


 そんなのは嫌だ。この旅で思い知らされたが俺に世界を救う勇者的存在は似合わない。

 魔王がいなくなった今、こんな立場すぐに捨ててやりたいのだ。

 

 それに、ここまでの人生死ぬ気で頑張ってきたのだ。使命を果たしたんだから自由になったっていいじゃないか。


 そう言う理由で、俺はあそこで死んでこの世に存在しない人にしてもらった方が都合がいいのである。


 だから俺はこれから自由に——っと、そう言えば俺が死んでない理由を話し忘れていた。

 たしかに俺はあそこで死んだ。心臓を貫かれ、意識がなくなったのも事実だ。しかし俺は生きている。


 それは、『神宝具アーティファクト』のおかげだ。『神宝具』とは、この世にごく少数存在している伝説の道具のことである。なぜそんなものがあるかは分かっていないが、その道具には凄まじい力が込められている。それはもうこの世の法則を書き換えるようなチート性能だ。


 俺が見つけ出したのは『使用者が死亡した場合、一度だけ別の場所で生き返る』と言うものである。仕組みは全く分からない。だが、俺にとってはその性能だけで十分である。

 

 当時の俺は魔王を倒した後どうやって逃げ出すか毎日のように考えていた。そんな時に見つけたのがこれ。

 俺はもうものすごく喜んだ。この性能がガセで死んでしまう可能性なんて一ミリも考えないほどには喜んだ。

 その事実に後で気づいた時は不安になったが、実際生き返ったわけだし結果オーライである。


 腕を見てみると、魔王と戦う前までつけていた『神宝具』の腕輪は綺麗になくなっていた。 

 無くなるのは分かっていたことだが、やっぱり残念ではある。死んでも生き返ると言う保険がなくなっちゃったわけだしね。

 まぁ腕輪一つでこれから自由に生きられるなら安いもんと考えよう。そう考えるしかない。

 

 何度も言うがこれからは自由なのである。好きなことをして、好きなように生きればいいのだ。

 そこに命の危険なんてものは存在しない。何かに襲われることはあるかもしれないが、俺は一応魔王を倒したのだ。この世界で戦いに負けることなんてそうそうないだろう。

 だから、そんな腕輪がどうのこうのだとかはもうどうでもいい。

 今はそんなことよりも——


「ここどこぉぉぉぉ!!!!!」


——この、よく分からん森にいることの方が問題である。



 —————

【補足】


 フェロが『神宝具アーティファクト』の効果を知っていたのは、それが置いてあった台座に書いてあったからです。



 


 

 

 




 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る