第3話 決着とあれから


 1話のルーナの設定を少し変えました。


 —————


 俺は『暴喰龍ぼうしょくりゅう』がボーっとしている隙に薔薇のつたをこいつの体のとこまで伸ばし、接触させていた。


 この薔薇が放つ冷気は何もかもを凍らせる。たとえそれが世界最強格の魔物だとしてもだ。まぁさすがにこのレベルは直接触れないと凍らすことはできないが。


『グガアアァァァァ!!!!』


 体の大半が凍った今でも、『暴喰龍』は必死に抜け出そうと暴れる。もし俺がこの森に迷い込んだばっかりだったら、おそらくこの氷は砕け、『暴喰龍』に反撃をもらっていただろう。そう考えれば森の魔物のレベルが高かったのは幸運だった。

 いやけどそもそもこんな場所で生き返らなきゃこいつとも戦わなくて済んだ訳で、前言撤回やっぱり俺は幸運ではない。

 だがまぁここで世界五大恐魔の一体を倒せるのだ、ポジティブに考えよう。


『グア…ア……ァ……ァ………ァ…………』


 そんな話をしていたら決着が着いたようだ。結果は見ての通り、俺の勝ちだ。

 流石にこいつの耐久力でも俺の『ホワイトローズ』には耐えられなかったようだ。


 ズドーーン!!!


 凍りついた『暴喰龍』の死体が落ちてくる。落ちた衝撃で死体もろとも氷は砕け散った。


「ふぅ、強かったな」


 俺は『ホワイトローズ』を消して呟く。


 最近は俺自身が強くなったおかげでこの森の魔物も結構余裕で倒せるようになってきていた。だから、こんなに苦戦したのは久しぶりなのだ。


「あぁー、今日はもう動きたくねー」


 それくらい疲れた。現世で例えるなら、学校の授業全てが座学だった時くらい疲れた。


 ただ止まるわけには行かない。使命と人間関係から解放された俺はさっさとこんな森抜けて自由な生活をしたいのだ。


 よしっ、もうひと頑張りするか。


 そうして俺は、また森の出口を探して歩き出すのだった。



 —————



 〜1年前の魔王城〜


 

 魔王城が倒壊しだした。


「ッッッ!!!!!リリー!!アイリス!!逃げるわよ!」


 フェロが放った魔法は魔王城にも甚大なダメージをもたらしていた。その影響で、魔王城は倒壊を始めたのだ。


「でも!!!フェロが!!!!」


「フェロは私たちに幸せになってって言ったでしょ!!!!ここで倒壊に巻き込まれて死ぬのがあなたにとっての幸せなの!!??」


「けど!!!!」


「私だって置いて行きたくなんてないわよ!!!けど、けど!!!今は逃げてあいつの想いを無駄にしないほうが先でしょ!!!」


「ッ!分かったよ……逃げよう」


「理解してくれて良かったわ。アイリスも行くわよ」


「……ん、分かった。……ごめんフェロ、お葬式は盛大にする」


 そうして3人は走り出す。

 

 流石の英雄たちもこの倒壊に巻き込まれて生きていられる保証はない。しかも今は先程の戦いで体力も魔力もほとんど使い切ってしまっている。

 

 だから、必死に走る。大切な人を捨ててまで逃げているのだ。ここで死んでは合わせる顔がない。

 

 必死に、必死に走る。そしてついに脱出を果たした瞬間、魔王城は完全に倒壊した。



 —————



 ——魔王が討伐された。


 そのニュースは瞬く間に世界中に広がり、ルーナ達はあちこちで世界を救った英雄として讃えられた。


 世界を救ってくれてありがとう、これで人類は平和だ、もう怯えて生活しなくて済む、あなた達は史上最高の英雄だ、など色々な言葉をもらった。

 だがルーナ達は、その言葉を心から受け取ることはできなかった。

 自分たちは犠牲を出してしまったのだ。それも、自分たちに取って最も大切な人を。


 辛い時は支えてくれて、危ない時は何度も助けてくれた、そんな心優しい仲間を。

 旅をしている最中に会った人達は彼のことを正義感に溢れていると言うが、長く一緒に旅をしてきたから分かる、彼は別に正義感に溢れてなんかないと。

 なぜかそんなフリをするが、ルーナ達は言わないだけでとっくに気が付いていた。


 だが、そんなことは些細なことだった。正義感が有ろうが無かろうが、世界を、そして自分たちを救ってくれたことに変わりはないのだから———。


 

 —————


 ルーナside


 私は、フェロが大好きだった。もちろん恋愛的な意味で。

 

 貴族として生まれ、膨大な魔力と高い支援系属性への適性に恵まれた私は、幼い頃から期待され、それに応え続けていた。

 その結果、近づいてくるのは下心のある大人だけ。なまじ見た目も良かった私はあちこちから縁談の話が舞い込んできた。


 何回かはしてみたのだが、全員私の才能と見た目にしか目がいっておらず、内面まで知ろうとはしてくれなかった。


 両親も両親だった。才能ある私を家の発展道具にしか見ておらず、ルーナと言う人物を見てくれはしなかった。


 だが、フェロだけは違った。私の内面を見て話してくれた。才能や外見にとらわれず、

一人の”ルーナ”として話をしてくれた。


 そんなフェロに、いつしか私は恋をしていた———。


 



「フェロ…………」


 世界で一番大切な人の名前を口にする。

 人生で初めて、”ルーナ”として話をしてくれた、私の初恋の人。

 

 だがこの世にはもういない。魔王との戦いで、命を落としてしまったから。


「私が、私が油断さえしなければ……!!」


 あの一撃は、もし私が警戒していたなら防げていた。

 なんで私はあそこで油断してしまったのだろう、なんで倒したと思ったのだろう、なんでなんでなんで………。


 考え出してはキリがない。後悔をしたってフェロは生き返らない。それでも考えてしまう。

 もしフェロが生きていたら、と。そんなことないと分かっているのに。


 それでも、それでも、もし生きているとしたら———






    



   





    



   









    ———今度こそ離さない。絶対に。




 




 


 


 


 

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