第22話 手合わせ
6歳を迎えたその朝、俺は目を覚ますと、体がどこか違うとすぐに感じた。
成長した自分の肉体を、隅々まで確かめるように伸びをする。手足が少し長くなり、筋肉が硬く引き締まっているのがわかる。
胸の奥で、まるで溢れ出るような力が脈打っていた。
俺は一度深く息を吸い、体の中心に意識を集中させる。
オーラが自然と体に馴染む感覚がした。
かつては頭で理解しても実際にうまくできなかったが、今やその感覚は驚くほど滑らかで、まるでオーラそのものが体の一部になったようだった。
俺は拳を握りしめ、湧き上がる力を感じた。成長した体がこの力を受け入れ、より自由に操れるようになったのだ。
ダリアンとはますます親しくなっていった。
ダリアンとは毎日のように手合わせをし、ダリアンは俺から多くの技や戦術を学んでいる。
ダリアンの鋭い剣筋は俺の身体能力を大いに鍛え、少しずつだが互いにぶつかり合う仲にまでなった。
一方、エマにはメイクの方法を教えている。
エマはとても器用で、少しの工夫でエマの顔つきがまるで別人のようになるのが面白い。
俺たちは互いに笑い合い、親しい友人のような関係を築いている。
そんな穏やかな日々が続いていたある日、突然魔道具からメッセージが届いた。
「3老帝が揃った。レオン王子よ、挨拶に来なさい」
メッセージを聞いた瞬間、緊張感が走った。
3老帝とはいわばこの国の守護者であり、絶大な権力と知恵を持つ存在だ。
俺は身なりを整え、心を引き締めて三老帝たちの元へと向かった。
3老帝の前に到着すると、彼らの威厳に圧倒された。
まず目に飛び込んできたのは、アリオン・グレイム。
アリオンは流れるような長い白髪を背中にまでたなびかせ、青く鋭い瞳でこちらを見つめている。
アリオンの顔には年齢が刻まれているが、魔法の力によって実際の歳を遥かに若く保っている。
白と金色のローブをまとい、頭には小さな冠が輝いていた。
アリオンが持つ杖には魔法の石が埋め込まれており、その光が淡い青い魔力となってアリオンの周囲を包み込んでいる。
見ているだけで、アリオンがどれほどの知恵と魔力を持っているのかを感じ取ることができた。
「英雄よ、よく来たな」
アリオンは冷静な表情で俺に声をかけた。
アリオンの声には、長年の経験と知恵が染み込んでいるようで、俺はただ黙って頭を下げるしかなかった。
アリオンの隣には、たくましい体格のベルガ・アイゼンロードが座っていた。
肩までの黒髪には白髪が混じり、顔には戦場で刻まれた無数の傷が見える。
銀の鎧に身を包んだ彼は、堂々とした立ち姿で俺を迎えてくれた。
「小さき英雄よ、久しいな」
ベルガの声はまるで雷のように重く響き渡り、その豪胆な態度に俺は思わず敬意を抱かずにはいられなかった。
ベルガは剣士としての誇りと、フィリスフォードを守る覚悟が全身から滲み出ている。
そして、3人目の老帝である神秘的で冷静な表情のセレナ・ルシフェリア。
黒髪を一本の長い三つ編みにまとめ、深い紫色の瞳でこちらを見つめていた。
セレナはまるで冷たい霧のようなオーラを纏っており、豪華な黒と紫のローブがその神秘的な雰囲気を引き立てている。
静かに俺を見つめていた。彼女は冷静沈着な表情で、どこか遠くを見るような視線をしている。
だが、その瞳の奥には深い洞察と計り知れない力が宿っているのを感じた。
「レオン、その力量を見せてもらおうか」
セレナの言葉は冷ややかだったが、敵意というよりは試すような眼差しを向けられているのが分かる。
俺は少し緊張しながらも、セレナの視線を正面から受け止めた。
「それなら、おれの出番だな!」
ベルガが立ち上がり、手合わせを申し出た。
訓練所へと足を運び。
ベルガとの手合わせが始まった。
ベルガは巨大な剣を手にし、軽く構えるだけで周囲に威圧感を放つ。
俺も剣を抜き、神経を研ぎ澄ませてベルガの動きを見つめた。
「来い、レオン。俺に一発でも入れたらそなたの勝利だ」
ベルガの一言が合図となり、俺はベルガに向かっていった。
ベルガの剣筋はまるで嵐のように荒々しく、それでいて寸分の狂いもなく的確だった。
(ちょっ。6歳児にこれはやばくね?)
剣を交えるたびに、俺の腕に伝わる衝撃がベルガの力量を物語っている。
(
ベルガの動きはPvP経験豊富なエクサリウムの中級者の上位レベルに匹敵していた。
(
俺も技術では一歩も譲らないつもりで戦ったが、圧倒的なステータス差があり、時折追い詰められる場面もあった。
それでも、俺は食らいつき、ベルガの剣筋に対して機敏なステップで応戦する。
剣を交える度に、俺の中のオーラが高まっていくのがわかる。
まるで体が闘争本能に応えるように、集中力が研ぎ澄まされていく。
「や、やるじゃないか、レオン」
ベルガが満足そうに笑みを浮かべた。
直後、ベルガは全力で剣を振り下ろし、俺は
その瞬間、俺の剣がベルガの防御を崩し、ベルガの背中に一撃を入れた。
「……俺の負けだ」
ベルガは剣を下ろし、俺に敬意を込めた眼差しを向けた。
(ちょっとヒヤリとしたな。ステータス差のゴリ押しは割としんどかったし、魔法をもっと使っていれば楽に勝てただろうけど)
俺は息を切らしながらも、自分の成長を実感し、ベルガの前でしっかりと背筋を伸ばした。
3老帝たちはそれぞれの視点で俺を見つめ、何かを感じ取っているようだった。
ベルガもアリオンも、俺に対して英雄としての敬意を持ってくれているようだったが、セレナだけはどこか敵意に近い視線を俺に向けていた。
ベルガとの手合わせを終えた俺は、三老帝たちに改めて敬意を表し一礼をした。
彼らの目が輝き、俺の成長を喜んでいるのが伝わってくる。
「さすがアルドリックの息子よ」
アリオンが低く唸るように言った。
「剣術だけでなく、魔法も扱えるとはな。リディアの血も濃く受け継がれておるのじゃろう」
ベルガが豪快に笑い、腕を組みながら俺を見つめた。
「おめぇ、今でもこれだけ強ぇんだ。15歳にもなったら、タイトルでも取るんじゃねぇか?」
俺は少し照れくさくて頭を掻くが、彼らの言葉が自分の内側に確かな自信を芽生えさせた。
「かの有名なマギエールですね。アルブレイブとエルメティアを結ぶ橋になり得る唯一の存在かもしれませんね」
セレナが静かに呟くように言い、視線を俺に向ける。
その瞳には未来を見通すような深い光が宿っていた。
アリオンは頷き、どこか遠い目で未来を思い描いているようだ。
「ふむ、将来が楽しみじゃ。これから先、お前の成長をこの目で見届けたいものよ」
そのとき、アリオンがゆっくりと立ち上がり、少し険しい表情を浮かべた。
「セレナ、ベルガと話がある。先に戻っておれ」
「レオン、今日はよくやったぞ。セレナと共に先に退席しておれ」
セレナは一瞬、何かを考えるようにアリオンを見つめたが、やがて「ええ、わかったわ」と短く答え、その場を後にした。
セレナにレオンも続く。
レオンは短く礼をし、セレナに目を向けた。
セレナはその整った顔立ちに微かな微笑を浮かべ、優雅に身を翻してレオンの横に並ぶ。
セレナと共に部屋を出ると、静寂とともに冷んやりとした廊下の空気が二人を包んだ。
歩きながらレオンはちらりとセレナの横顔をうかがった。
いつも落ち着いた表情を浮かべ、何を考えているのか分からない神秘的な雰囲気を纏うセレナは、他の老帝たちとは違った印象を持っていた。
しばらく沈黙が続いたが、セレナはふと口を開き、落ち着いた低い声で言った。
「今日の手合わせ、見事だったわ。特に最後の瞬間、あれほど冷静に魔法を使いこなすとは思わなかったわ」
その言葉にレオンは少し照れながらも、どこか誇らしげに微笑んだ。
「ありがとうございます、セレナ様。まだまだ未熟ではありますが……」
セレナは微笑みを崩さず、レオンの成長を感じ取るようにじっと見つめた。
「未熟、ね。でもその成長速度は異常だわ。これからのあなたに期待している者は多い。その重圧に耐える覚悟はある?」
その問いにレオンは一瞬考え込んだが、やがて真剣な瞳でセレナを見つめて答えた。
「はい。俺には成すべきことがあります。そして、それを果たすための力が必要なんです」
セレナはその答えに満足したかのように、再び歩みを進めながら言った。
「……そう。あなたがその信念を持ち続ける限り、私もあなたを見守るつもりよ。気をつけて、レオン。あなたはこれから大きな波に飲み込まれることになるでしょうから」
セレナの言葉は謎めいていて、少し、含みを感じた。
その言葉の真意を探ろうとしたが、レオンはあえて深追いせず、静かに頷いた。
セレナもまた、この中立国を守るために抱えるものがあるのだろう。
その思いを理解しようとしたが、セレナの冷静な表情はその真意を隠していた。
廊下を抜け、二人は外へ出ると、レオンは一礼してセレナに別れの挨拶を述べた。
「本日はありがとうございました。またいつか、お会いしましょう」
「ええ。"またいつか"会いましょう、レオン。あなたの成長を楽しみにしているわ」
セレナは穏やかな笑みを浮かべ、その場を去っていった。
その後ろ姿を見送りながら、レオンは彼女の言葉を胸に刻みつけるように深く息を吸い込み、自らも次の試練に備えて再び歩き出した。
――
セレナとレオンが去った後、アリオンとベルガは顔を見合わせ、空気が緊張感に包まれる。
しばらくの沈黙の後、アリオンが口を開いた。
「ベルガ、ネクロムについてどこまで知っておる?」
ベルガは少し驚いた表情を見せたが、すぐに表情を引き締めて答えた。
「あぁ?あまり詳しくはねぇよ。連中が裏で何かを企んでいるってのは知ってるが、詳しい情報はつかんでない」
アリオンは鋭い目つきでベルガを見つめ、低い声で続けた。
「ネクロムの勢力拡大のペースと、各国の重要拠点への襲撃。それが偶然とは思えぬ。どこかの国の高位の者が、ネクロムに手を貸しておる可能性が高い」
「なっ……!」
ベルガの顔が強張り、目を見開いた。
「最近の動きを考えれば、ルカもこのことには気づいているだろう。だからこそ、今回セレナを退席させたのじゃ」
「まさか……」
ベルガはアリオンの言葉の真意を悟り、思わず絶句した。
「セレナの動きがおかしいっていうのか?」
アリオンはゆっくりと頷いた。
「ああ。どうも最近のセレナの行動には、以前と異なる不自然さを感じておる。セレナの出自に関して、そなたはどれほど知っておる?」
ベルガは眉をひそめ、考え込むように拳を握った。
「知らねぇよ……セレナはずっと俺達と一緒に中立国のために戦ってきたじゃねぇか。そんなこと、信じられるか?」
「そなたが知らぬのも無理はない。だが、ネクロムとセレナの繋がりが完全に無いとは断言できぬ。それほどまでに、今回の件は複雑で難しいのじゃ」
ベルガは苛立たしげに地面を一歩踏み鳴らし、拳を固く握りしめた。
「……マジかよ。そんなことがあってたまるか」
アリオンは沈黙を破るように口を開いた。
「さらに、各国の貴族にも内通者がおる可能性が高い。ネクロムは、想像以上に深く入り組んでおる」
「くそっ……!」
ベルガは怒りをあらわにし、拳を振り上げた。
「じじい、ネクロムの目的はなんだ?」
アリオンは首を振り、顔をしかめた。
「それが分からぬ。そこが一番の問題なのじゃよ。奴らの動機と真の目的が掴めぬ限り、我らは防戦に回るしか手が無い」
「はぁ……やめだ、やめだ!」
ベルガは急にその場を離れ、剣を振り下ろすような動作を見せた。
「考え込んでるだけじゃ気が済まねぇ!俺は剣士だ。剣で語り、剣で答えを見つける。頭を使うのはあんたに任せたぜ」
アリオンは呆れたようにため息をついたが、その目にはどこかベルガへの信頼の色が浮かんでいる。
「ならば、頼んだぞ、ベルガ。剣の力で、この陰謀に立ち向かってくれ」
ベルガは大きく頷き、力強くその場を去っていった。
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