第21話 誕生日パーティー

 二ヶ月が過ぎた。

 

 しかし、ただ漠然と過ごしていたわけじゃない。


 この二ヶ月間、俺は各地を回り、魔法生物を狩り、経験値を稼ぎながら、メイク道具に使う素材を集めていた。


 これで作り上げたリップやファンデーション、マスカラ、そしてハイライトなどは、どれも世界で唯一の輝きを持つものだ。


 素材集めには骨が折れた。


 フェアリースライムから採ったエッセンスは肌に神秘的な光を宿し、ナイトバットの毛はリップの滑らかな伸びを実現してくれる。


 さらには、希少なゴールデンハイドラの粉末で色持ちの良さを、太陽の光を受けたサンシャインスケール(太陽魚)で血色感を引き出す。


 スターリーフィアフライの光の粉で肌にきらめきを加えるなど、贅沢な素材の数々を使って最高の道具が揃った。


 姿くらましの魔法を多用し、怪しまれずに人目を避けながらも、目指す素材を取りに山を越え、谷を渡り、昼夜を問わず飛び回った。


 身体中に疲労が溜まっていたが、訓練も怠らなかった。


 メイク道具を完成させることが目的の旅ではあったが、それと同時に自分自身の戦闘技術や魔力制御の技術もさらに磨き上げることができた。


 

 エマの誕生日がやってきた。


 俺はエマのために、仕上がったばかりのメイク道具を携えて、エマの家を訪れた。


 目の前でメイク道具を広げると、エマの瞳が期待に輝いた。


「エマ、今日は君のために最高のメイクをしてあげるよ」


 そう言ってメイクを始めた。


 今回は珍しいカラーにあわせて独特でインパクトのあるメイクにしてみよう。

 

 前世で俺が使っていたものより直径は小さいけど、デザインはすごく華やかな、ショップで買ったカラーコンタクト。


 ベースは強めのコーラスカラー。


 エマは少し色黒のためラメでシャドウを際立たせて。


 マスカラは下まつ毛にまでしっかり。


 そしてキラキラのハートのグリッターを乗せる。

 

 その繊細な肌触りに、エマは驚きの声を漏らした。


「わぁ、すごい!肌がつやつやして、まるで魔法みたい……」


 エマの瞳が輝いているのを見ると、俺も少し得意気になった。


 最後に細部を調整した。


「うん、これで完璧だ」


 メイクを終えたエマはまるで別人のように美しく変身していた。


 見違えるほど可愛くなったエマの姿に、俺は思わず微笑んだ。


 しかし、その様子を見ていたリリスが、少しすねたようにこちらを見ている。


「ちょっと、レオン。私にはメイクしてくれないの?」


 その声に気づき、俺はリリスに視線を向けた。


 いつもの生意気な感じも少し和らいでいて、なんだか無邪気な少女に見える。


 俺は笑顔で頷き、リリスにも同じようにメイクを施すことにした。


 すると、それを見た他の女児たちも、エマの姿に感動したのか、次々と「私にも!」「私も!」と列を作り始めた。


 しかし、誕生日パーティーが始まる時間も迫っていたため、全員にメイクするわけにはいかない。


 時間が限られている中で、リリスにメイクをしてあげることにし、手際よく仕上げていく。


 

 リリスは清楚系美人にしようか。


 潤いたっぷりのクッションファンデを軽くのせる。


 カラコンは明るめのブラウン。


 コーラルシャドウをアイホールに広げて、ラメ入りのブラウンで陰影をつける。


 三角ゾーンは暗めのブラウンで埋める。


 グリッターも少しのせる。


 ビューラーを少し温めた後。(火傷に注意しながら)


 まつ毛をカールする。


 アイラインとマスカラもブラウンでやる。


 ルースパウダーで仕上げをして、ピンクのチークを頬の中央に軽くのせて。


 完成!


「ありがとう、レオン!すっごく嬉しい!」と、リリスはメイク後の顔を見て喜びに頬を染めている。


 俺も心から満足感を覚えた。


 

 パーティーが始まった。


 パーティーの華やかな雰囲気の中、エマの父親が俺に近づいてきた。


 堂々とした風格を漂わせ、温かみのある微笑を浮かべているが、その視線には貴族らしい鋭さが宿っている。


「レオン様、本日はわざわざエマの誕生日にお越しいただき、ありがとうございます」


 彼の言葉には感謝が込められており、その声には心からの喜びが感じられた。

 

 俺も礼儀を守り、少し会釈して返す。


「こちらこそ、お招きいただき感謝いたします。エマのために少しだけ力になれたのなら、光栄です」


 エマの父親は、俺がエマに施したメイクに視線を向け、満足げに頷いた。


「エマに聞いておりましたが、レオン様の化粧の技術は実に見事なものですね。エマもとても喜んでおりました。あの子があんなに嬉しそうな顔をするのは、久しぶりに見た気がします」


 彼の言葉には、父親としての優しさがにじみ出ていた。


 俺は、エマが本当に嬉しそうにしていた姿を思い出し、少し微笑んで答える。


「エマの喜ぶ顔が見られたことが、何よりです」


 俺の顔をじっと見つめた。


「レオン様、これからもどうかエマのことをよろしくお願い申し上げます。エマの傍に、頼れる友がいることが親として何よりも心強いのです」


「もちろんです」


 その瞬間、エマの父親は少し考え込むようにして言葉を続けた。


「実は……今日の感謝の印として、ぜひ受け取っていただきたいものがありましてね」


 そう言って、彼はそっと手を差し出した。その手には、小さな宝石が埋め込まれた美しい指輪があった。

 

 驚く俺に、彼は説明を加える。


「これは、髪の色を変える魔道具です。ぜひレオン様にもお使いいただきたいと考えております。」


「ありがたく、頂戴いたします。これで、新しい変化を楽しむことができそうです」


 エマの父親は温かな笑顔を浮かべ、少し身を乗り出して静かに囁く。


「どうか、エマのことを末永く見守っていただければ、これ以上の喜びはありません。エマがこれからも安心して過ごせるよう、何卒、よろしくお願い申し上げます」


 彼の真摯な頼みに俺は頷き、心からの返事を返した。


「ええ、エマは大切な友人です。彼女のためなら、どんな困難でも乗り越えていくつもりです」


 エマの父親は満足そうに頷き、俺に向かって穏やかな微笑みを浮かべた。

 

 パーティーの日程はお偉いさんの挨拶から始まり、魔道具の展示、プレゼントの贈呈、最後にケーキの蝋燭を消すという感じだった。


 このパーティーでエマとリリスの関係も深まり、美しい少女の笑顔を見た。


 いい1日だった。


 

 さらに二ヶ月が過ぎた。だが、それまでの間に、どうにも気になることが1つあった。


 オーラを扱おうと試みるたび、何かが足りない。

 力がうまく引き出せないのだ。


 原因は……おそらくこの幼い身体にあるのだろう。


 この世界では、通常、肉体を極限まで鍛え上げ、精神的な悟りを得た者のみがオーラを操れるとされている


 だが、俺の場合、肉体を鍛える段階をすっ飛ばし、知識と技術で悟りに達していたせいか、この幼い体ではまだ十分な力が引き出せないのだろう。


「やはり、まだまだ道は遠いか……」


 そう呟きながらも、さらなる鍛錬と成長を誓う俺だった。

 


 ある日、父上から思いがけない知らせが届いた。フィリスフォードに長期滞在することが決まったというのだ。


「ダンジョンの攻略が思った以上に難航している」


 父上の書簡には、そんな言葉が綴られていた。

 

 何でも、通常の魔法生物だけでなく、希少種が多く出現し、どれも強大な力を持っているらしい。


 父上の率いる精鋭部隊ですら、想定以上の苦戦を強いられているとのことだ。


 俺はその知らせを受け取ると、すぐに部屋に戻り、荷造りの準備を始めた。


 いくつかのメイク道具と必要な魔道具、そして日々の訓練用の装備をまとめていく。


 フィリスフォードでの長期滞在が決まった以上、環境の変化に備え、用意を怠るわけにはいかない。


 父上からの指示によれば、これまでの拠点は3老帝の城に置かれていたが、今後はフィリスフォード内のアルブレイブ王国の支部へと移すことになるそうだ。


 この支部はフィリスフォード内でも特に厳重な警備が施され、アルブレイブの名を背負った要塞としての役割を持っている場所だと聞いている。


 そこなら、敵の襲撃にも十分に備えられ、さらにフィリスフォード内での活動がより円滑になる。


 支度が整い、馬車に乗り込むと、窓から見えるフィリスフォードの街並みが目に入ってくる。


 古き良き文化と活気あふれる商人たちが行き交うこの街には、懐かしささえ感じられた。


 賑わう広場では、旅人や商人が集まり、珍しい果実が並べられている。


 ふと見下ろすと、店先にはカラフルな香水瓶が並び、甘い香りが風に乗って漂ってくる。


「さて、しばらくここでの生活を楽しむとしよう」


 自分にそう言い聞かせながら、俺はこのフィリスフォードの地での新たな冒険に胸を膨らませていた。


 フィリスフォードのアルブレイブ拠点に到着すると、すぐに厳重なチェックが行われた。


 さすがは父上が選んだ場所だけあって、衛兵たちは皆、鋭い眼差しを向け、細心の注意を払っている。


 中へ通されると、豪華で重厚な内装が目に飛び込んできた。


 壁にはアルブレイブ家の紋章が誇らしげに掲げられ、広々とした廊下が続いている。


 各部屋も整備が行き届いており、戦闘の準備が整えられているようだった。


 そして俺の部屋も、すでに用意されていた。


 広々としたベッドに、豪華な絨毯、壁には大きな窓があり、フィリスフォードの街並みを一望できる。


 まるでこの国での生活が長く続くことを予感させるような快適さがそこにあった。


「ここが、これからの拠点か」


 そんな独り言を呟きつつ、窓から遠くの山々を眺めた。


 その奥には、父上が挑んでいるというダンジョンがあるに違いない。


 俺は拳を握りしめ、覚悟を新たにした。


 フィリスフォードでの生活は、これからの成長を促してくれるだろう。


 父上の任務が終わるまで、俺もここで力を蓄え、主要人物と仲良くなることにした。

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