第20話 モーリス・オーレヴィル
問いかけに、俺は内心で冷や汗をかきながら、咄嗟の言い訳を考える。
エマも父親も、兵士たちも、全員の視線が俺に集まっている。
この状況での失敗は許されないし、怪しまれるわけにもいかない。
俺は一瞬、息をついた。
エマの父親から鋭い視線が向けられ、部屋には静寂が流れている。
「レオン様?ここで何をしていらっしゃるのですか?」
ごもっともな質問だと自分でも思いながら、俺は表情を整え、何とか言い訳をひねり出した。
「えーと……
すると、モーリス男爵は一瞬だけ驚いたように眉を上げたが、次の瞬間には穏やかな笑みを浮かべ、俺に頷いた。
「なるほど。そのお歳で転移魔法をお使いでしたか。では、せっかくですから、どうぞ夕食でもご一緒に。」
こうして、俺はエマの家で夕食をご馳走になることになった。
テーブルには豪華な料理が並び、あたたかい雰囲気が漂っている。
エマも同席しており、特に父親のモーリス男爵は興味津々といった表情でこちらを見つめている。
「レオン様、改めて自己紹介させていただきます。私はエマの父、モーリス・オーレヴィルと申します。フィリスフォードで魔道具店を営んでおります。かの有名な英雄様に出会えて光栄です。」
彼の紹介に、俺も一礼しながら応じた。
「レオン・アルブレイブです。エマさんにはお世話になっております。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
「とんでもない!」と、モーリス男爵は明るい笑顔を見せる。
「エマと仲良くしていただけて、こちらとしては感謝こそすれ、迷惑だなんて思っておりませんよ。これからもエマと仲良くしてやってください。」
「はい、もちろんです。」俺も真剣に頷いた。
少しして、俺はふと思い出し、訊ねてみた。
「ところで、あの部屋に仕掛けられていたのは何だったのでしょうか?」
モーリス男爵は少し誇らしげに答えた。
「あれは一種の防犯魔道具です。最近、ネクロムの影響で世の中が物騒になってきているので、屋敷の重要な場所にはいくつか仕掛けてあるのです。ひょっとすると、その魔道具の魔力に引き寄せられてしまったのかもしれませんね。」
「なるほど……」と、俺は感心したように呟く。
確かに、強力な魔道具でなければ変幻自在を解除するほどの影響は及ぼせない。
これも、エマへの深い愛情からなのだろう。
「エマは私たちの宝ですからね。エマを守るため、こうしてできる限りの手を尽くしています。」
その言葉に、俺は胸の内で、モーリス男爵の親心に敬意を抱いた。
誤解も解け、テーブルの向こう側でエマが少し照れたように視線を落としている。
素顔を見られたことが恥ずかしいのかもしれないが、彼女は終始俺を気にしている様子だ。
俺もエマが何を考えているのかが少し気になった。
夕食も終わり、今夜はエマの屋敷に泊まることになった。
フィリスフォード城の豪華な客間で、俺は一日の出来事を振り返りながら、静かに窓の外を眺めていた。
暖かな光が差し込み、屋敷内は穏やかな雰囲気に包まれている。
突然、コンコンとノックが響き、部屋のドアが静かに開き、エマが優雅に姿を現した。
エマは少し緊張した様子を浮かべていた。
「レオン様、少しお話ししてもいいですか?」
俺は微笑みながら頷いた。
「もちろん、どうぞ。」
エマは少し恥ずかしそうに肩をすくめながら、部屋の隅にあるソファに座った。
「あの、レオン様。素顔を隠す女の人について、どう思いますか?」
その言葉に一瞬戸惑いを感じた。
(おいおい、それはゲーム内でしかも10年も先のイベントのセリフじゃないか)と心の中でつぶやいた。
エマが主人公ダリアンとの恋人フラグの一片を俺にぶつけてきたのだ。
まあ、悪い気はしないが、この場面ゲーム内では選択肢を選ぶような状況だった。
無難な回答をしなければならない。
「エマはどんな時でも可愛いよ」と、俺は穏やかな声で答えた。
「もう。私の話じゃないですよぅ」と、エマは少し顔を赤らめて言った。
エマの照れくさそうな表情に、俺も思わず微笑んでしまった。
「そうだ。俺はメイクという化粧をする技術を持っているんだ。エマにもしてあげるよ」
「本当ですか!ぜひお願いしたいです!」
エマの目が輝き、嬉しそうに頷いた。
エクサリウム・オンラインではキャラメイクが1つの大きなコンテンツとなっており、ヒロインを自分好みの容姿へと変更できたり、自身のアバターを細かくカスタマイズできる。
これにより、この世界でも多彩なメイク道具がアイテムショップで購入できるようになっているようだ。
「ちょっと道具を取って来るね」と、俺はそう言い残し、アイテムショップへと転移した。
エクサリウム・オンラインではメイク道具のアイテム名は「身だしなみ道具」となっており、さまざまな種類が揃っていた。
数分後、道具を手に取り戻った俺は、再び部屋に戻った。
エマは興味津々の表情で待っており、俺が道具を取り出すと、エマは目を丸くして見つめた。
「ただいま」
「お父様も言っていましたが、姿くらましを使いこなしているのですね」と、エマは驚いたように言った。
(まぁまだ姿くらましを使ったことないけど)と心の中で呟いたが、エマの視線は真剣そのものだった。
「まだまだ、だけどね」と、俺は笑顔で答え、エマに化粧を始めた。
手際よく道具を使い、エマの顔に優しくメイクを施していく。
少しずつ変わっていくエマの表情に、俺も満足感を覚えた。
「わぁ、すごい!別人みたい!」エマは鏡に映った自分の姿に驚きと喜びの声を上げた。
(うーん。なんというか。デフォルトの道具じゃこんなもんかぁ。前世のメイク道具を持ってきたいなぁ。メイクののりも悪いし、発色もいまいちだった。俺基準では納得のいくものではなかった)
その時、エマが嬉しそうに再び話しかけてきた。
「あのレオン様!3ヶ月後に私の誕生日パーティーがあるのですが、お越しいただけませんか?」
俺は即答した。「もちろん行くさ。」
エマは満面の笑みを浮かべ、感謝の意を示した。
「ありがとうございます!楽しみにしています!」
「どんなパーティーになるんだい?何か特別なことがあるのかい?」
俺は興味を示しながら尋ねた。
「えっと、私の誕生日を祝ってくれるだけじゃなくて、魔道具の展示会も開く予定です。私の家の魔道具も色々見せたいし、みんなで楽しく過ごせたらいいなって思っています」と、エマは嬉しそうに説明した。
「それは楽しそうだな。ぜひ、力になれることがあれば言ってくれよ」と俺は笑顔で答えた。
「はい、レオン様。ぜひメイクもお願いします!」
エマは再び頷き、喜びを隠せない様子だった。
その後、俺たちは少し話を続け、エマの誕生日パーティーの準備について情報交換を行った
俺はエマとの交流を深めることで、この世界での立場を強化しようと考えていた。
こうして夜は静かに更けていった。
デフォルトのメイク道具じゃ、やっぱり満足できない。エマのメイクをしているときから頭をよぎっていたが、あの程度の道具で理想の姿を作り上げるのは難しい。
そこで決意した。自分でメイク道具を一から作ることにした。
そしてせっかくなら、経験値稼ぎも兼ねて徹底的にやる。
無茶苦茶俺好みのヒロインに仕立て上げられるくらい、細部まで調整できるメイク道具がほしい。
そう決まったら行動は早い。
俺はメイク道具に使えそうな素材を求め、2ヶ月間、各地を旅して回ることにした。
翌朝、城へと戻り、早速父上の執事に尋ねる。
「父上はいつお戻りになられる?」
執事は少し困ったような顔で返答した。
「え、えーと……まだダンジョンの攻略を終えておられません。いましばらく、お時間がかかるようです」
「どこの、なんていうダンジョンなんだ?」
執事は一瞬たじろぎ、答えに窮する。
「そ、それは……陛下の指示で、申し上げられぬようになっております」
その表情は渋く、なんとも言い難そうだ。
父上がダンジョンにこもる理由や、その内容を知ることは今のところできないらしい。
どうにも釈然としないが、今は仕方がない。「そうか」とだけ言い残して、俺はその場を後にした。
廊下を歩きながら自室へ向かっていると、前方に見覚えのある姿を見つける。セバッチャンだ。
「セバッチャン!ちょっと俺、2ヶ月ほど出かけるから」
セバッチャンは一瞬、目を見開き、驚いた様子で聞き返してきた。
「また何をやらかすおつもりですか?」
その問いに、俺は少し笑って応えた。
「ダンジョンへ行くわけじゃないさ。ちょっと、作りたいものがあってね。魔法生物を狩りながら素材を集めに行くんだ」
しかし、セバッチャンは疑念を隠せないまま、呆れ顔になる。
「……危険であることに変わりはないのではありませんか?」
「今回は危険とはいえないさ、大したことないってば」
と軽く手を振って見せる。
「そう……ですか。レオン様、どうか無茶をなさらぬようにお願いします」と、諦めたように言う彼に。
俺は軽く手を振りながら「じゃ、行ってくるわ!」とだけ言い残し、翌朝、準備を整えて城を後にした。
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