第3話 王妃と毒
前世の記憶が蘇るたび、思い出すのはいつも同じだ。
起きて、TODOリストを作り、それを元に反復練習をする。
シンプルだが、それが俺を世界1位にした。
目標を決めたら、徹底的に取り組む。
それが俺の日常であり、成功への道だった。
この世界に転生して、早くも10ヶ月が過ぎた。
肉体はまだ約1歳の赤子だが、心は32歳。
この幼い体での生活にも少しずつ慣れ始めてきた。
だが、問題はある。今のところ、魔力もオーラも使えないのだ。
何が原因なのか、探る必要がある。
(よし、今日もTODOリストを作るか)
俺は毎朝のルーチンとして、今日やるべきことをリストにまとめる。
前世と変わらぬこの習慣が、異世界での俺を支えている。
紙にクレヨンで、ゆっくりと文字を走らせる。
1. アイテムを買い、魔力とオーラを使えるようにする
2. スキルを試す
リストを確認し、深呼吸をする。このリストが俺の1日の指針だ。今日は、できる限りこの2つを進めていく。
朝の光が差し込む窓辺で、俺はふと手鏡を手に取った。
この世界での自分の顔を見るたび、毎回驚かされる。
黒く艶のある髪に、大きな赤い瞳、かわいいお鼻。
前世では手間暇かけたカラコンもアイプチもノーズシャドウもいらない。
この異様なまでの整った顔立ちに、思わず笑みがこぼれる。
「あぅあぅうー」
(くっっっっそイケメンや!最高や!)
この姿に惚れ惚れして、鏡を前に1時間は眺めていられるほどだ。
赤子の姿にしては確かに可愛すぎるが、それでも自分の美貌に酔いしれるのは止められない。
鏡を眺めるのもそこそこに、朝の準備を進めていると、軽やかなノック音が部屋に響いた。
ふと振り返ると、扉が開き、二人の人物が現れた。
まず最初に目に入ったのは、柔らかく波打つ金髪を持つ若い女性だ。
深いエメラルドグリーンの瞳が印象的で、穏やかで知的な輝きを放っている。
彼女の名はフレイヤ。
この国の王宮で働くメイドであり、俺の世話を一手に引き受けている存在だ。
「レオン様、おはようございます」
フレイヤは微笑みを浮かべながら優雅に一礼した。
その立ち居振る舞いには品があり、どんな時でも冷静さを失わない。
その献身的な態度には、俺も心からの信頼を寄せている。
次に現れたのは、銀灰色の髪を持つ男性だ。
きっちりとしたサイドパートに整えられた髪、鋭いが優しさを含んだ灰青の瞳が特徴的で、彼は冷静沈着で知られるセバッチャンだ。
メガネの奥からこちらを見つめ、深い紺色のスーツがその知的な雰囲気を引き立てている。
「おはようございます、レオン様」
セバッチャンの声には落ち着きがあり、どこか安心感を与えるものがある。
彼は俺の側近として常に冷静な判断力を発揮し、どんな場面でも頼れる存在だ。
「あうあうーあ、あ」
(おはよう、フレイヤ、セバッチャン)
二人に挨拶を返すと、セバッチャンはわずかに微笑み、頷いた。
その仕草に、今のこの生活に少しずつ馴染んできたことを感じる。
この二人がそばにいることで、異世界での孤独も和らいでいるようだ。
ちなみに俺の食事スケジュールは次のようになっている。
7:30離乳食1
10:00おやつ1
12:00離乳食2
15:00おやつ2
18:00離乳食3
朝食を済ませた後、俺は早速TODOリストにある「アイテムを買う」を実行するため、自室に戻った。
(アイテムショップ)
そう心の中で念じると。目の前が一瞬暗転した。
アイテムショップに転移した。
まず目に飛び込んできたのは、薄暗い店内に並ぶ奇妙な装飾品と怪しげな薬の瓶たち。
天井から吊るされた古いランタンが淡い青白い光を放ち、その光が奥の棚まで届くことで、店内はまるで別世界のような神秘的な雰囲気に包まれている。
棚には大小さまざまな瓶やポーションが無数に並んでおり、色とりどりの液体がそれぞれ異なる輝きを放っている。
その中でも、目を引いたのは美しく透き通る青色の瓶。
瓶の底には何かが渦巻いているように見え、まるでマナそのものを閉じ込めたかのようだ。
瓶のラベルには「オーラ増強剤」と書かれており、オーラの流れを活性化させる効果があるらしい。
隣には濃い赤色のポーションが置かれており、「魔力促進剤」との札が貼られている。
その深紅の液体は、揺らすとぼんやりとした光を放ち、まるでポーション自身が生きているかのように見えた。
さらに、棚の隅には古びた巻物や錬金術の本が置かれており、そのいずれもが封印のように厳重に布で巻かれている。
その巻物からは何か重厚な気配が漂い、手に取れば触れた瞬間に魔法の知識が頭に流れ込んできそうな錯覚を覚える。
中には、特に神秘的なエネルギーを放つ宝石のような物体もいくつか見える。
それらの宝石は、透明度が高く、宝石の内部で小さな星屑のような光が瞬き続けていた。
「魂の保管石」や「精霊の結晶」と書かれたラベルが貼られており、魔力を長期間保存するために使われる高価なアイテムだという。
奥の方に目をやると、錬金術で作られた特殊な道具もいくつか置かれている。
例えば、手のひらサイズの小さな金属の箱は「自動治癒の箱」と呼ばれており、傷を負ったときに箱を開ければ自動的に治癒魔法が発動するらしい。
その隣には「無限の水筒」と呼ばれる革の水筒があり、底のない不思議な構造で、いくらでも水が湧き出るという。こういった道具たちは、冒険者や戦士たちに重宝されるもので、この異世界でもかなり貴重な品々だ。
俺はそんなアイテムたちをひとつひとつ眺めながら、必要なものを選んでいく。その度に、異世界に生まれ変わったという現実が改めて実感される。
俺はそこで「オーラ増強剤」と「魔力促進剤」を初心者ボーナスで貰った10000
どちらも飲めばオーラや魔力が増強されるらしい。
(さて、効果のほどはどうだろうか)
そう思いながら、俺は一気に薬を飲み干した。少し体が軽くなったような気がするが、それ以上の変化は感じられない。
試しに気張って魔法を使おうとしたが、屁がでた。
オーラや魔力は使えないようだ。
ステータスを確認してみよう。
ステータス
・名前:レオン・アルブレイブ
・ 年齢:0歳(生後10ヶ月)
・ 職業:第2王子
・レベル:1
・力:15
・素早さ:10
・体力:10
・魔力:25
・オーラ:35
・呪力:15
・ 魔法:C
・ 剣術:A
・ 呪い:S
・加護:女神の祝福
・状態:疲労困憊
・スキル:変幻自在 lv.1
・スキル:高速治癒 lv1
・
魔力とオーラは上がっているようだった。
――
俺はベッドに横たわりながら今日の出来事を振り返っていた。
日々の活動を通じて少しずつだが、この異世界に慣れてきている。
それでも、まだ解けない疑問がある。なぜ俺は魔力やオーラを使えないのか。
そんなことを考えていると、やがて睡魔が来て、俺は意識を手放した。
翌朝、起きたと同時に異変に気づいた。昨夜の疲労が全く取れていないのだ。
さらに、顔を触ってみると何か湿った感触がある。
手を見てみると、そこには鮮やかな赤い鼻血がついていた。
「ううあぁぁ」
(……あれ、俺、また鼻血出てんじゃん)
寝ぼけた頭でそう呟いた瞬間、セバッチャンが部屋に入ってきた。
俺が鼻血を出しているのを見るやいなや、ベビーベッドにしゃがみ込み、持っていたハンカチで俺の鼻血を拭い取った。
セバッチャンは険しい顔をして立ち上がり。
慌てて部屋を飛び出していった。
その尋常じゃない慌ただしさに。
何か違和感を覚えた。
何か重大なことが起きたのかもしれない。
(後をつけてみるか)
リストにある「スキルを試す」を思い出し、俺は試しに「変幻自在」のスキルを発動してみた。
(後をつけるのに最適な姿は何かな。うーん。まぁこれでいいか)
頭の中で姿を変える対象のことを考えた。
体が小さくなり、柔らかな毛が体を覆っていく。
猫を思い浮かべていたが、どうやら子猫の姿に変身したらしい。
子猫の姿になって、静かに部屋を抜け出し、セバッチャンの行動を探ることにした。
猫の視点から見る世界は新鮮で、少し不思議な感覚だ。こうして猫の姿で歩き回るのも悪くない。
セバッチャンの足音を追っていくと、やがて奥まった部屋に彼が入っていくのを見つけた。
その部屋の中には、深紅の髪とルビーのように赤い瞳を持つ女性が座っていた。
彼女はロザリア・アルブレイブ、王国の第一王妃であり、この国に大きな影響力を持つ人物だ。
その横には、彼女と同じ深紅の髪を持つ赤子がいた。彼はセバス。
ロザリアの息子であり、この国の第一王子である。
俺より1つ年上の彼は、冷たい瞳でこちらを見つめ、何か企んでいるような表情を浮かべていた。
銀灰色の髪を揺らしながらセバッチャンがロザリアの前に立ちはだかる。
柔らかい口調だが、視線には冷たい鋭さが宿っていた。
「ロザリア様、レオン様とリディア様にちょっかいを出すのをやめていただきたいのです。」
ロザリアは小さく笑いながら、深紅の髪を指先で弄ぶ。その瞳には、まるで全てを見通したかのような落ち着きが漂っている。
「セバッチャン、私はこの国の秩序を保つために最善を尽くしているだけよ。分かるでしょう?」
「ですが、リディア様とレオン様に害をなす行為が秩序を保つための手段だと仰るのですか?」
セバッチャンの声には、微かな怒りが滲んでいた。
ロザリアはその言葉に一瞬眉をひそめ、次の瞬間には笑みを取り戻す。
けれど、その笑顔の裏には冷ややかな計算が透けて見える。
「リディアの健康は、私も、もちろん心配しているわよ。けれど、彼女の存在がこの王宮での勢力にどれだけ影響を与えているか、考えたことはあるかしら?」
「それが理由で、リディア様とレオン様の食事に
ロザリアは微かに肩をすくめ、表情を崩さないまま答えた。
「証拠でもお持ちなのかしら?ただの噂を真に受けて私を問い詰めるのは、少々浅はかではないかしらね」
「噂だとしても、今後もリディア様やレオン様に危害が加えられれば、私が黙っていると思いですか?」
セバッチャンの鋭い視線を受けて、ロザリアは少しだけ目を細める。
「あなたの忠誠心はよく知っているわ、セバッチャン。しかし、覚えておいて。私もアルブレイブのために動いているのよ。あなたが忠誠を尽くす相手が、この国にとって最善とは限らない。」
その言葉には、一抹の威圧感が含まれていた。
ロザリアはすっと立ち上がり、セバッチャンの前を通り過ぎながら、静かに言い放つ。
「私のやり方が理解できるようになるのは、もう少し先のことね。いつかあなたも私に感謝する日が来るかもしれないわ。」
ロザリアは優雅な微笑みを浮かべたまま去っていく。
セバッチャンは彼女の背中を見つめ、胸の奥にわだかまる不安を抱きつつ、静かにその場に立ち尽くしていた。
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