幼少期
第1話 もしかしてゲーム世界?
息が……できない。
暗闇の中で息苦しさが襲い、身体が燃え上がるような熱を感じる。
意識はぼんやりとして、何も見えないし、聞こえない。
どこにいるのか。
何が起きているのか。
全く分からない。
頭の中には、最後の記憶――トラックに轢かれた瞬間がちらつく。
ここはあの世か?
俺は死んだんじゃ?
それとも夢を見ているのか?
生きているとすれば後遺症をもつほど酷い怪我だっただろう。
あの時のバグなのか?
色んな考えが頭をよぎる。
必死にもがき続けていたら、圧迫感が俺を包んできた。
まるで何かに押し潰されているかのようだ。
意識が途切れかける。
心臓がドキドキと音を立ていた。
死の恐怖が頭をよぎる。
どれくらい時間がたっただろうか。
息はしなくても大丈夫なようだった。
依然として目も耳も聞こえない。
意識だけがあるようだった。
数時間ほど経った時だった。
空気が押し寄せてきた。
「おぎゃああっ!」
それは、自分の声だった。
か弱い、赤ん坊のような泣き声が自分の喉から出たことに驚きながら、どうにか目を開けた。
視界に映るのは、どこか見覚えのない光景。
周りからは歓声が上がる。
初めて聞く声がする。日本語のようだ。
薄っすらと見えたが、俺を見て母親らしき人物は安堵の表情を浮かべていた。
その人々の中に、頭に冠を乗せた男やメイドのような女性もいた。
周りにたくさんいるようだが、どれだけの人数に囲まれているのかさえわからない。
まだ、目も耳も発達してないっぽいな。
そんなことを考えていると。
ぬるま湯のようなものに入れられた。
ピロリンッ!
それは、エクサリウム・オンラインが起動する音だった。
その瞬間、目の前に不思議な光が広がり、視界が一変した。
暗闇の中から、眩い光が差し込み、視界に浮かび上がるのは「初心者ボーナス」の画面。
画面の中央には、金色の文字で大きく書かれていた。
「WELCOME TO EXSARIUM ONLINE」の文字が
周囲にはカラフルなエフェクトが飛び交い、まるでお祝いの花火のようだ。
さらに、画面の下部には「デイリーボーナス」と書かれたアイコンが踊っている。
アイコンの周りには、宝石のような輝きを放つコインやアイテムが散りばめられ、まるで魔法のような雰囲気を醸し出している。
目の前に現れた初心者ボーナスの画面に、どこか懐かしさを覚えた。
「ここは……まさかエクサリウム・オンライン?」
呆然とする俺の頭の中に、「それ」が浮かんでくる。
この世界は、俺がかつて地球で熱中していたゲーム「エクサリウム・オンライン」に酷似していた。
俺が一位のプレイヤーとして君臨し、PvP負けなしの世界。
信じがたいことに、俺はゲームの世界に転生していた。
俺が以前、世界一位の座を獲得した世界だ。
お、お
「おぎゃあああ!」
涙が自然に溢れ出し、嬉しさが溢れてくる。
小さな手足をチャプチャプと音を立てながら動かした。
赤子の俺は感情を抑えきれずに泣き狂った。
メイドは慌てふためいているが、そんなことにはお構いなしだった。
お湯から出され何かふわふわとした物にくるまれ、落ち着きを取り戻す。
泣き疲れた俺は迫る睡魔を片手に、周囲を見渡そうとしたがやはり良く見えなかった。
諦めて寝ようとしたその時。
俺は台座の上に置かれた。
そして、2度目となる歓声が湧き上がった。
その歓声は俺が生まれた時よりも大きいものだった。
たぶん、ステータスを表示する機械になっているのだろうか。
(そんなにいいステータスだったのか?)
しばらく経って、徐々に記憶が整理され始めた。
俺は今、赤子として新しい人生を始めている。
目の前にいるメイドたちは、俺が何もわからない赤ん坊としていることを良いことに、あれこれと世話を焼いてくれている。
(しかし、ゲーム内の人物に転生したとして、いったい誰に転生したんだろうか。)
ストーリーは主人公のダミアンが15歳でアカデミーに通う所から始まる。それ以前のことは全くと言っていいほど分からない。
(せめて5歳ぐらいから転生させてくれよ!)
そんなことを考えていると、眠気が襲う。
お腹が空けば「おぎゃあ」と泣いてしまうし、お漏らしもする。そして、眠くなれば深い眠りに就くのであった。
――
7ヶ月が過ぎ、あたりの様子を窺いながら日々過ごしてきた。目と耳は生まれたころよりは、見えるようになり、聞こえるようになった。
そして、この7か月で分かったことがある。瀬戸悠二はレオンという名前になった。性別は男の子で、体には特に異常はない。
俺がいる部屋は子供部屋として見ると、とんでもなく広かった。
まるで最上級ホテルのスイートルーム並みだった。
時折フラフラとメイドに介抱されて、部屋に訪れる女性がいた。また、男性もいた。
まだ20歳にもなっていないように見える。
黒い艶々の髪をセンターで分け、赤い瞳、優しそうな顔、とても美しい女性だ。
どうやら俺の母親「リディア」という名前らしい。
そして国王である、アルドリック・アルブレイブ。
50代前半ぐらいで、鍛えられた体つきと堂々とした佇まい。灰色がかった濃い髪を短く整え、鋭い青い瞳が特徴。眉は太く、威厳ある顔立ちだが、時折見せる柔らかな表情が親しみやすさも感じさせる。
王の象徴として、重厚感のある黄金の王冠と、威厳を引き立てるダークブルーのローブを身に纏い、肩には王家の紋章をあしらった豪華なマントがかかっている。
「リディア、体は大丈夫か?レオンはメイドに任せて休みなさい。」
アルドリックがリディアに声をかける。リディアは少し疲れた様子で、微笑みながらアルドリックを見つめ返した。
「大丈夫よ、心配しないで。」
その言葉には、母としての強い意志が込められていた。アルドリックは優しく頷き、リディアに寄り添うようにして言った。
「それでも、無理はしないでほしい。お前が健康でいることが、レオンにとっても一番大事なんだから。」
二人の会話を傍で聞いていると、リディアの表情に隠れた不安を感じた。
リディアとアルドリックは話をしてすぐに各々の部屋に戻っていた。
どうやら俺を産んだ日からリディアは体調が優れないらしい。
とても心配だった。
だが、メイドや兵士の皆が俺のことを神童と呼ぶことに2人は、まんざらでもない顔を浮かべていた。
自分でお座りや寝返りができるようになった。
そして。
なんと言ってもハイハイができるようになった。
ので。
王宮の中を徘徊しまくった。
徘徊するたびにメイドと執事が慌てた様子で飛び出してきて。
部屋に連れ戻された。
その度に部屋から脱走しまくっていたが。
俺は周りの状況を観察し、この世界の歴史や文化について知識を蓄えていった。
この世界でストーリーに登場する国は主に4つしかない。
・剣士の国、アルブレイブ。
・魔法使いの国、エルメティア。
・中立国、フィリスフォード。
・聖騎士の国、アルカティナ
ゲーム内での主人公のダリアンやヒロインのエマ、その友人のリアムの3人は全員フィリスフォードの出身のため土地勘や国の事情などが全くと言っていいほどわからない。
アルブレイブ、エルメティア、アルカティナはストーリーでも一部のエキストラが出てきた程度だ。
これから国のことをもっと調べていくつもりだ。
ふぅ。
一息ついて。
ベビーベッドの上で。
「ステータス」と心の中で唱えると、目の前に淡い光のウィンドウが浮かび上がった。
ステータス
・名前:レオン・アルブレイブ
・ 年齢:0歳(生後7ヶ月)
・ 職業:第2王子
・レベル:1
・力:15
・素早さ:10
・体力:10
・魔力:5
・オーラ:10
・呪力:15
・ 魔法:C
・ 剣術:A
・ 呪い:S
・加護:女神の祝福
・状態:疲労困憊
・スキル:変幻自在 lv.1
・スキル:高速治癒 lv1
・ログインボーナス:
「やはり第2王子か」
メイドや執事達が口を揃えて「第2王子」の話をするので、もしかしたらと思っていたが。
ゲーム内で「アルブレイブ」という名は、剣士の王国、名門一族を意味していた。
つまり俺は、アルブレイブ王国の王族として転生したということになる。
うわぁお、まじかよ。
案の定、ログアウトのボタンはない。
死後の世界がエクサリウム・オンラインで、しかも王族だと?
勝ちましたな、ガハハ。
ってか、呪い、?だと?
エクサリウム・オンラインで呪いを使えたプレイヤーは誰1人としていない。
なぜなら呪いとはNPCのみ使用してくるという要素だったのだ。
つまり、俺はこの世界のNPCとして生まれ変わったのか?
だが、そんなことはどうでいいレベルに俺はとんでもなく強くなれる。
呪いは使い方わかんないし魔法は低レベルだから置いといて。
剣術だけでこの世界を破壊できるレベルだなこれ。
ゲームの世界では才能が8割だった。
才能があるかないかは前提として、PvPにおいては、PSにより差がかなり開いていた。
剣術がCだが、ランカー入りする変態もいたっけな。
また、力・素早さ・体力は成人男性が50程度である。
レベルを上げることによってステータスはあがる。
ゲーム内では二百が上限。PvPエリアでは100に固定。
この基礎能力値は職業によって成長の仕方が変わるのだ。
俺の場合王子は
あっ。
そういえば。
呪いと剣術が非常に高ランクの存在は俺の知る限り、NPCは1人しかいない。
そして、身元がアルブレイブ出身の王子であること。
変幻自在というスキルがある。
「ノーフェイスか」
このレオン・アルブレイブはエクサリウム・オンラインにおいて最恐のNPCと謳われた「ノーフェイス」だろう。
色んな職業の人物へと姿を変え主人公と同行をしながら、後ろから死の呪いを打ち込んでくるまさに最恐と名高い初見56しのNPCだった。
ノーフェイスの素性を知ろうと躍起になって探しているプレイヤーは多くいた。
だが、誰一人として答えに辿り着かなかったみたいだな。
俺はノーフェイスの素性を知り、そのあまりに高い才能に頭からイケナイ物質がでてきて、背筋にゾクリときた。
「ははっ。ゲームの主人公なんか屁でもないかもな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます