7.2
ノエルと一緒に夕食を取り終えたフリッカは、借りている部屋へ行く。マリンには早く寝ると伝えて一人にしてもらった。そして買ってもらった服を脱ぎ、ローブなど元々来ていた服を着る。荷物は、小さな鞄一つ。移動もしやすい。
フリッカは扉越しに廊下の様子を窺う。まだ時間が早く、何人も働いている音がする。元々そちらから出る予定はなく、バルコニーへ向かう。
フリッカが居る場所は二階。飛び降りる瞬間風属性の簡易魔法紙を出せば行けるだろう。懐に手を入れて飛び降りようとしたとき、隣のバルコニーに部屋着に着替えたノエルが出てきた。
「フリッカ? どうしたんだい」
「あ、えっと、星空が綺麗だなって」
「本当だね。満月も大きい」
「ノエルさんは、まだお仕事ですか」
「もう少しね。夜が冷える季節になってきたから、風邪を引かないように気をつけて」
「ノエルさんも、お仕事のしすぎには注意です」
「了解。おやすみ、フリッカ」
「お、おやすみなさい」
ノエルがバルコニーから部屋へ入っていく。隣の部屋がノエルの部屋になっているのかと思い、出ていくと決めたのにドキドキする。
(……ノエルさんが寝るまでは、バルコニーから出るのも危険かもしれない)
ノエルを巻きこみたくない。だから家を出ることを、誰にも邪魔されてはいけない。
ノエルが就寝するまでの間、フリッカは簡易魔法紙を量産しておくことにした。区切りの良いところでノエルの部屋をバルコニーから覗き、暗くなったことを確認して飛び降りる。着地の寸前に風属性の簡易魔法紙を地面にぶつけた。
遠回りして行かなければ、敷地外へ出られない。暗がりの中進もうとして、後ろから声をかけられた。
「フリッカ、どこへ行くのかな」
「ノ、ノエルさん……どうしてここに」
「フリッカが鞄を持って、ローブも着ていたから。まさかこんな夜中に出かけるなんて思いもしなかったよ」
ノエルとバルコニー越しに会ったときの服装を見て、フリッカが外へ出ようとしていたと気づいたのだろう。
「夜じゃなくても、一人で外へ出るのは危険だ。フリッカの部屋へ侵入した犯人がまだわかっていないんだから」
ノエルがまだリレイオの精神魔法の支配下ならば、今フリッカを止めないだろう。リレイオがフリッカと話すことを求めているのだ。止めるのは不自然ということになる。
(どうする!? リレイオが犯人だって伝える!? いや、でも、伝えたら一人で行けなくなる)
ノエルを巻きこみたくない。だから、夜中まで待ったのだ。ここでリレイオが犯人だと伝えてしまったら、ノエルの性格上、絶対に一人にはさせてくれないだろう。
「ほら、フリッカ。部屋へ戻ろう。一人でしようとしないで。僕を頼ってほしい」
ノエルに促されるまま、フリッカは部屋に戻ることになってしまった。
「それじゃあね、おやすみフリッカ」
「お、おやすみなさい……」
ノエルに見送られ、部屋に入る。そのままバルコニーに走るが、隣の部屋のノエルも同じように出てきた。
「フリッカ?」
「お、おやすみなさい」
行動がばれていて、フリッカはすぐに部屋へ戻る。
(どうしよう……今夜中にリレイオと話をしないといけないのに)
フリッカに執着しているリレイオが、約束を反故にされて黙っているわけがない。ノエルの家はばれているし、もし何か仕掛けられてしまったらノエルだけでなくマリンや他の人たちも巻きこんでしまう。
(うぅ……恥ずかしいけど……)
フリッカは意を決して、隣のバルコニーへ移る。そこには当然のようにノエルがいて、腕を組んでいた。
「フリッカ? 夜中に男の部屋に入ってはいけないよ?」
「どうしてですか?」
「ど、どうしてって、それは……」
「それは?」
質問をしながら、ノエルに近づく。するとノエルはフリッカと一定の距離を保とうとして後退していく。
フリッカはノエルに気づかれないように、背中で手を組む振りをして四属性の力を練り上げる。
「と、とにかく、夜中に入ってはいけないんだ」
「昼間ならいいんですか?」
「ひ、昼間も、密室に二人きりになってはいけない」
「どうしてですか?」
「そ、それは……」
どんどん追いつめ、ノエルを寝台まで移動させた。背後を確認した隙をつき、ぐっと距離を詰めてノエルの胸を押す。ノエルが、寝台に倒れた。
「
両手をノエルに向ける。即効性の高い催眠魔法で、ノエルは言葉を発する間もなく眠りに落ちた。
「ごめんなさい、ノエルさん」
ノエルに頭を下げ、バルコニーから飛び降りる。そしてリレイオが何か仕掛けてきても防御できるように、屋敷の四隅に四属性の簡易魔法紙を埋めた。
「
詠唱すると屋敷全体を覆うように薄い膜が展開した。リレイオに狙われたときにばれないように、効果を保ったまま膜を地面に埋める。四隅を繋ぐように土が盛り上がることを確認し、フリッカはリレイオが待つ岩山へ向かった。
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