6.5
今日最初に案内された、魔術師たちの仕事部屋へ急ぐ。しかしそこには暗紅色の髪を三つ編みにして片方に流しているリレイオはいない。というか、部屋で仕事をしていた魔術師たちはのきなみ倒れ込んでいた。
その中で、フリッカはエドラを見つける。
「ねぇ、リレイオがどこに行ったのか知らない?」
「えぇ、リレイオさん……えっと、ちょっと前に一度戻ってきたけど、どっか行っちゃったよ。私たちが回復していなかったから、帰っちゃったのかも」
話してくれたが、エドラもまだ完全には回復しきっていないように見えた。フリッカは疲労が回復するような精霊魔法を作り出す。
「
部屋全体に効果が行き渡るように精霊魔法を発動し、リレイオを追う。しかし玄関ホールへ行ったときにノエルに腕を掴まれてしまった。木杯は置いてきたらしい。
「フリッカ。どこへ行くんだい」
「すみません。ちょっと急いでいるので、手を離してもらえますか」
「疲れているんじゃないのかな。休まないとフリッカが倒れてしまうよ」
(今のノエルさんは、本当に心配してくれている? それともリレイオの所へ行くことを妨害している?)
恐らく、ムールビーが現れたあの日にノエルはリレイオと接触した。そして何らかの精霊魔法を使われたかもしれない。今は変化がわからないが、もしかしたらノエルの精神に影響を与えてしまうかもしれない。そんな心配が頭をよぎり、一刻も早くリレイオの元へ行きたかった。
ノエルはフリッカの腕をしっかりと掴んで離さない。ノエルは筋力がある。やろうと思えば、細っこいフリッカの骨なんて容易く折れてしまうだろう。しかし今、フリッカの力がなくて振り払えないだけで、痛くはない。
(どうしよう……早く行かないといけないのに)
もしリレイオが侵入者で、ムールビーを作り出していたとしたらノエルもいた方がいいかもしれない。リレイオの脅威を伝えれば、ついて行くといってくれるだろう。しかしフリッカに執着するリレイオが、ノエルを目の敵にしないとは言い切れない。
ノエルは強い。魔物と遭遇しても隊長らしく、毅然と立ち向かう。しかし、魔術師ではない。精霊魔法を使われたら、対処できない。
(……ノエルさんを、守らないと)
一度目の死に際のように、精霊魔法を扱えないただの人は魔術師の前では無力だ。そんな危険な場所に、ノエルをつれては行けない。だから考える。ノエルをここに置いていく方法を。
(えーっと、ノエルさんが手を離してくれる方法……)
これまでのノエルの反応を思い出す。ノエルは、どんなときに平静を崩していたか。
(……んー、間違っていたらすっごく恥ずかしいけど……)
フリッカは手首を返して振り返り、フリッカの腕を掴んでいるノエルの腕ごと抱きしめた。そして、より確実に事を進めるために、羞恥で顔を真っ赤にしながら、ノエルの大きな手に頬をすり寄せる。
「ノエルさん。離してくれませんか」
「っ!!」
結果的には身長差があるからできているのだが、フリッカは上目遣いでお願いをした。その瞬間、ノエルはボッと湯気が出そうなほど顔を真っ赤にしてゆっくりと倒れていく。
「あっ!!」
危ないという間も惜しみ、フリッカは急いでノエルの背後に回った。体格差から支えることはできなくて気絶しているノエルに潰される形になってしまったが、ノエルが頭を打つことは回避できた。どうにかこうにかノエルの下から這い出たフリッカは、そのまま外へ行く。
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