5.4
フリッカに言われた通り待っていた魔術師二名の元へ行く。
「お待たせしました、改めて、フリッカ・サージュです」
「ナタリー・ソパーとその弟、オロフです」
「ナタリーさんとオロフ君ですね。二人はわたしと話したいということですけど、何を聞きたいですか」
「世界の至宝魔術師であるフリッカ様が、一般魔術師に敬語を使う必要はありません! どうか、ナタリー、オロフと呼んで下さい」
「それなら、わたしのこともフリッカと」
「ぅぐぬっ……そ、それは世界の至宝魔術師教の構成員としては、大変ありがたいお申し出でありますが……」
「姉さんが呼ばないなら、ぼくは呼ぶよ。何てったって、ぼくは虹色の純白魔術師世代だからね! フリッカさん、と呼ばせて下さい!!」
「あっ、オロフずるい! 私も! 私もフリッカさんと呼ばせて下さい!!」
「何だったら、口調も砕けてもらえれば。オロフ君はわたしと同じ年なんだよね? そのオロフ君のお姉さんということは、ナタリーさんは年上だし」
「さすがに口調は、畏れ多いです」
「ふっふっふ。オロフよりも年上であることが、こんなときに役立つなんてね! 私は、フリッカちゃんって呼んじゃうもんね!」
オロフに向かって、手を腰に当てて言い放つナタリー。しかしそんな態度を取ったのに、自信なさげにフリッカを見た。
「もちろん。ナタリーさんは年上だから、どんな呼び方でも大丈夫」
「やった!」と手を上げて喜ぶナタリーと、羨ましそうにしつつ対抗しない様子のオロフ。その二人に、改めて聞く。
「それで、二人はわたしに何を聞きたいの?」
「鳩の」「鳩魔法の」
二人が一緒に話し始める。お互いに見合ってどちらが聞くかという顔になっているところを見ると、姉弟だなと思う。
鳩合便のことを聞きたいということがわかったので、フリッカなりの言葉で説明する。
「簡易魔法紙を四種類用意して、それを内側に向かい合うようにして魔力を込めればできあがるよ」
「んんっ? ちょっと待って下さい、パラーマイスカって何ですか」
オロフから質問され、簡易魔法紙はフリッカが作り出したものだということを思い出す。
懐から四属性分の簡易魔法紙を取り出した。
「えっと、これなんだけど……」
ナタリーとオロフが手の平大の紙四枚を見る。
「E、V、J、L? なに、これ」
「姉さんは精霊様の名前も知らないの? この四文字は全部、精霊様の頭文字だよ」
「バ、バカにしないでよね。もちろん知っているわよ。エルド様、ヴァッテン様、ヨド様、ルフト様でしょ!」
「フリッカさん。ただの頭文字というわけではないんですよね?」
「そう。これが、さっき言った簡易魔法紙。これ一枚で、一属性分の精霊魔法が使えるの」
「「えっ!?」」
姉弟は驚くときも息が合っている。仲が良いなと思っていると、ナタリーがLの紙を持って自分の手を翳した。
「……本当だ。こんな小さな紙に、風の力が込められてる……」
「そうだ、もしかしてナタリーさんとオロフ君がわたしの部屋のことを担当してくれているのかな。それなら、犯人の痕跡を追う方法を教えてほしいんだけど、門外不出?」
ナタリーとオロフが顔を見合わせている。二人の心境を想像するとしたら、簡易魔法紙を作れるほどの魔術師が今さら何を聞くというのか、というものだろうか。
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