5.2
マリンから声がかかり、小部屋で服を脱ぐことになった。というか、脱がせられてしまった。マリンとアルマが二人がかりでフリッカの服を脱がし、準備を進めていく。
エイクエア諸島の年末の行事では、同じ時間に何人も入る。同性同士だから特に恥ずかしがることはない。しかし自分で脱げないとなると、途端に恥ずかしくなる。
さらには、髪を洗うのも体を洗うのも、マリンとアルマが行った。これが仕事だと言われてしまっては、何も言えない。
風呂から出て、マリンが十歳のころの服を貸してもらった。マリンは年上だと思っていたが、フリッカと同い年の十六歳らしい。そのマリンが十歳のころの服がぴったりということに、少なからず衝撃を受ける。
丁寧に髪を乾かしてくれているマリンが言う。
「サージュ様の髪色は、不思議な色をしていますね」
「魔術師は、髪や瞳に使える属性が出るんです。赤は火、青は水、黒は土、緑は風の属性を使えます」
「ということは、サージュ様は全属性ですか」
「そういうことになりますね」
「魔法って、どういうことができるんですか」
「色々とできますよ。使える属性によりますが、術者の想像次第で何でもできます。例えば、乾け!」
両手に風の力と少しだけ火の力を練り上げて、フリッカは自分の髪に当てる。温風で髪を乾かし、火の代わりに水の力を加えれば、冷風に変わる。
「すごい! サージュ様の髪が艶々になりました!」
「わたしは全属性使えるので、こういう感じで応用がききます」
「魔法って、便利なんですねぇ……」
風呂に入ると、長い髪は乾かすのが大変だ。エイクエア諸島でも、フリッカは髪の毛を乾かす役だった。
髪の毛が乾き、マリンが緩やかに編み上げてくれる。いつも三つ編みばかりだったから首の横に髪の毛がないのは不思議だ。
「この髪型なら、ノエル様も喜ぶと思います」
「そうなんですか? それなら嬉しいです」
フリッカが素直に喜んでいると、マリンが耳元に顔を寄せてきた。
「サージュ様は、ノエル様のこと、どう思っていますか」
「えーと……」
「あぁ、申し訳ありません。もしサージュ様がノエル様を良く思って下さっているなら、全力で支えさせていただきます」
きらきらとした目を向けられている。
(……ノエルさんのことは好きだけど、ここで正直に伝えたら、ノエルさんが大変そう)
ノエルにこれ以上の迷惑はかけたくなかったため、現状の気持ちを伝える。
「えーと、ノエルさんには感謝しています。鳩合便を利用してくれたり、送迎してくれたり……今日のことだって、ノエルさんが来てくれなかったら魔物に襲われていたかもしれません」
「魔物に遭遇したんですか!?」
「はい。ノエルさんも言っていましたけど、やっぱり街中で遭遇するのは珍しいですよね?」
「えぇ、滅多にないです。でも、ノエル様が現場にいたから対処できたのですね」
「さすが、討伐隊の隊長さんです」
マリンと話していると、夕食の支度ができたとアルマがやってきた。ノエルはまだ帰宅していないらしく、通された部屋に食事を持ってきてもらう。そこでマリンからの給仕を受けながら、夕食を取った。マリンも一緒に食べようと誘ったが、侍女らは別途食事を取るらしい。
(……ふかふかすぎる。この柔らかさに慣れたら、寝袋生活に戻れなさそう……)
調査の進捗を聞きたくてノエルを待っていたが、フリッカが寝るまでに帰ってこなかった。
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