3.3
族長支給のローブを着て小さな鞄を持って、フリッカは貸部屋店へ行った。三度目の人生では、初めから部屋を借りると決めていたのだ。
ルヴィンナから女子でも安全に住める場所を貸してくれる店を聞いたおかげで、住居はすんなりと決定。一階が大衆食堂になっていて、仕事を始めるときに宣伝もしてくれるという。その建物の、五階がフリッカの部屋だ。建物は各階に一部屋という作りになっている。最上階だから借り手がおらず、家賃は割安になっているらしい。
フリッカは、十年間で見つけたやりたいことがある。それは、配達事業だ。島で手伝いをしているとき、一番多かったのが手紙を届けたり荷物を届けたりすることだった。
「まずは、街の中を覚えないとね」
腹ごしらえをしてから行こうと、一階の大衆食堂へ行った。漁師は早朝に来るのだろうか。港がある三番街の昼食時は、それほど人が多くない。十ぐらいの席が半分埋まっているぐらいだった。その内の、厨房に近い場所へ座る。
「あら、新しく来た子だね」
「フリッカ・サージュと言います」
「フリッカだね。フリッカはもう仕事を決めたのかい?」
「やりたいことは決まっているんですけど。その前に食べておこうと思って。お勧めは何ですか」
「そうさね、今日はちょっと肌寒いからシェパードパイなんてどうだい」
「それをお願いします」
「あいよ。竈で焼くからちょいと時間をもらうよ」
「わかりました」
大衆食堂の女将が、厨房へ注文を告げる。威勢の良い声が聞こえて驚いてしまったが、それはフリッカだけのようだ。他の客は、何事もなかったかのように食事を続けている。
ディーアギス大国は島国で、三番街は漁師が多くいる街だ。もしかしたら仕事は早朝や深夜になるかもしれないと思っていると、シェパードパイが運ばれてきた。
「あいよ。熱いから火傷しないようにね」
「ありがとうございます」
木匙を持ち、パイに入れる。瞬間、サクッと小気味良い音がした。そしてもわんと湯気が立ち上り、少し甘い香りが鼻に届く。ぐぅ、とフリッカ的には控えめな空腹音に従う。
「はふっ、はふっ」
中に入っていた芋が熱く、慌てて口の中へ空気を入れる。少し塩みもあり、木匙を持つ手が止まらない。
あっという間に食べ終えて、四十リリイを支払った。シェパードパイ一つで、フリッカが島で手伝っていた一日の駄賃と同じ。
(これが、都会価格か)
少し高いと思ってしまったが、店を出るころには満腹になっていた。十年間で、フリッカは人並みに食べられるようになっていて、こうして満腹になれるなんて幸せだと思う。
「よし。腹ごしらえもしたし、街を探索しようかな」
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