3.2


 三度目の人生は、フリッカにとって順調すぎるほど良い生活になった。

 一つ目。命を落とす確率を少しでも減らすため、リレイオと遊ぶことを止めた。これは二度目の人生のときと変わらない姿をしたリレイオを不審に思ったことと、一度目のとき牢屋の中でルヴィンナが辛そうな顔をしていたと覚えていたから。その結果、ルヴィンナから純粋な恋愛相談をされる仲になった。

 二つ目。三度目の人生のため、文字の読み書きはすでに完璧。魔術講義も自分から積極的に教えを請い、フリッカ史上最大の魔力量になっている。

 三つ目。独り立ちするときに困らないよう、エイクエア諸島の人たちの手伝いをして小銭を貯めていった。フリッカが十歳になるときに通貨単位が変わり、持っていた小銭をリリイに変更。その後も手伝いを続け、十年間で十五万リリイ貯めることができた。


 そして今日。フリッカは今まで手伝いをしてきた島の人たちに見送られて、ディーアギス大国へ出発する。

「フリッカ。早く部屋に行こう」

「うん。今行く」

 肩をポンと叩かれて促され、フリッカは友人のエドラ・オドゥムトと一緒に船に乗り込んだ。三度目の人生は、貨物室の隣の部屋じゃない。相部屋だ。

「ディーアギス大国ってどういうところかな」「貴族がいる国なんでしょ。それならもしかして見初められて、なんて」「待って。確か王子様もいるよね。私ってば、未来の王妃……!」

 きゃっきゃっとはしゃぐ女子達。二度目の人生で三部屋に二人ずつだと思っていたが、フリッカが見落としていたらしい。六部屋に二人ずついて、その内の九人が女子だ。一部屋に集まって、ずっと同じ話題で盛り上がっている。

「ねぇ、フリッカは? 貴族様って憧れるよねぇ?」

「そうだね。すごく優しい人もいると思う」

「なになに? もしかして誰か会いたい人でもいるの? フリッカってば、ディーアギス大国へ行く前から頑張ってお金貯めていたもんね」

 一度目は十七歳、二度目は十六歳で死んでいる。しかし三度目の人生だからか、フリッカは同じ年なのに友人らのように盛り上がれない。それが大人だと言われたり、冷静だなんて言われていた。

 そんなフリッカが、会いたい人がいる。それは恋愛絡みかと、友人らがきらきらとした目を向けてきている。

 同い年の友人と、こんな風に他愛のない話をできることが嬉しかった。

「あのね、ノエル・フォレットさんていう人なんだけど……」

 フリッカが勇気を振り絞ってノエルの名を出すと、七人が黄色い声を上げる。しかし残りの一人エドラが、何か言いたそうな顔をしていた。

「ねぇ、ちょっといいかな」

「どうしたの」

「フリッカの恋を応援したいとは思うんだけど……フリッカは四属性を使えるでしょ? だから私たちみたいに夢見がちな妄想じゃなくて、実際に貴族様や王子様と縁があるかもしれない。小柄でかわいいしさ。だからわざわざ、野蛮な人を選ばなくても良いんじゃない?」

「野蛮……? どういうこと?」

「私も噂でしか聞いたことないんだけどさ、そのノエル・フォレット? さんって、魔物討伐隊の隊長なんだって。何だったかな、五年前ぐらいから魔物と見れば容赦なく討伐しちゃうんだって」

「魔物って、悪い魔術師が魔力を吸わせるんだよね」「魔術師が精霊様に力を借りた後に魔力を提供するけど、その全てを回収しきれなくて集まってできるんだよね」「魔物自体が悪いわけじゃないのに」

 エドラが反対すると、まるでノエルが悪者のように次々と口を合わせる。

「ノエルさんは、優しくて強いの! 悪い人じゃない!!」

 フリッカは、思わず叫んでしまっていた。そんなフリッカに友人らは驚き、不思議そうな顔をする。

「まるで知り合いみたいな言い方だけど、私たち魔術師は慣習の前には島を出られないよ? 島にディーアギス大国から人が来るときは族長達が対応しているし……フリッカ。いつその人と会ったの?」

「そ、それは……その、噂で」

「噂かぁ。確かに、私も噂でしか聞いてないしね。ごめん。フリッカが会いたい人を悪く言いたかったわけじゃないんだ。フリッカは私たちの憧れだから、自分の妄想を実現してほしかったんだ」

「わたしも、いきなり怒鳴ったりして、ごめん」

 まさか時を遡っているだなんてことは言えるわけもなく、誤魔化してしまった。その後は何となく重たい雰囲気になってしまい、解散。

 翌朝ディーアギス大国へ着き、友人らと別れた。


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