第三話 三度目の人生
3.1
フリッカの腹部に、棒が刺さっていた。血が流れ、そこから魔力が零れているような感覚になる。
早く、治療しなければ。そう思うのに、四属性の力を両手に練り上げようと思うのに、できない。こんなときのための簡易魔法紙だと思うのに、懐に手を入れられなかった。
エイクエア諸島を出てから、たったの四日で、フリッカ・サージュは二度目の人生を終えた――――――はず、だった。
(え? え??)
目の前に、少し前まで元気だった野鳥がいる。また時を遡った。それも、フェンゲルドムに入れられる原因となった出来事の時間だ。
「ぴーちゃん……」
家族を呼ぶフリッカの声は、かなり幼い。十六歳のころから十年も前に時を遡っているのだ。それも当然。
「ぴーちゃん」
フリッカが呼びかけても、野鳥はぴくりとも動かない。それはそうだ。野鳥は、死んでしまっていたのだから。
「フリッカ」
呼ばれ、振り返る。するとそこには、記憶の中のリレイオとさほど変わらない姿があった。ただぼんやりと、リレイオの周囲にだけ霧がかかっているようにぼんやりとしている。
(……青緑の髪?)
フリッカを気遣うような暗紅色の瞳の色は変わらないが、三つ編みにして片方に流している長い髪の中に、青緑色の房が混じっているように見えた。
(待って。十年前に戻ったということは、わたしが六歳。リレイオは確か十二歳のはず。でも、どう見ても二十歳以下には見えない)
フリッカが疑問に思っていると、リレイオは死んでしまっている野鳥を掬い上げる。
「死んだ生き物は蘇らない。フリッカの家族だ。きちんと埋葬してやろう」
「うん……」
頭の中に浮かんだ疑問は晴れぬまま、フリッカはリレイオと一緒に野鳥を埋めた。
「これでいい」
「ありがとう、リレイオ」
「一緒に保護した責任があるからな」
ぽんと、まるで気遣うように頭を撫でられた。野鳥との別れの時間を提供してくれたのか、リレイオは一人でどこかへ行く。
フリッカが三度目の人生ではなかったら。もしかしたら、リレイオに惚れてしまっていたかもしれない。しかしフリッカはノエルを知っている。優しくて強い男性を。
それに、一度目の記憶を辿れば、今の時期はすでにリレイオはルヴィンナと婚約しているはずなのだ。そしてディーアギス大国での暮らしを経て、二人は夫婦となる。
そんな状態のリレイオを万が一にでも好きになっていたら、ルヴィンナがまた何かするかもしれない。あんな人生は、二度と経験したくない。
「ぴーちゃん。あのときは無理やり生かそうとしてごめんね」
土の中で眠る家族を撫でる。そして気づいた。こうして野鳥が埋葬されているということは、フリッカは魔物を生み出していない。それは、フェンゲルドムに収監されないということだ。
「……あの人に、ノエルさんに、会いに行ける……?」
一度目の人生では大切な家族を魔物にしてしまいそうになり、収監された。脱獄して、自分の力に驕って死んだ。
二度目の人生では、すでに収監された後でフリッカは罪人。その事が原因で宿屋から追い出され、困っている人に手を差し伸べて死んだ。
しかし、三度目の今はもう、フリッカは罪を犯していない。一度目の人生と同じように処刑されようなんてことは全く思わないが、ノエルには会いたい。
「今、わたしは六歳でしょ? だからディーアギス大国へ行くまでまだ十年もある。その内にやりたいことも見つかるだろうし、もっと魔力を極めて、できることを増やそう」
明るい未来が開けた。三度目の人生は、ここから始まっていく。
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