1.2

 牢屋に入れられたフリッカに、リレイオが毎日三食の食事を持ってきた。食事の時間は、精霊魔法を研究する一族シィルルエ族による魔術講義だ。それはリレイオだったり、族長だったり、他の大人だったりと様々だった。

 父や母に続き、野鳥も失ったフリッカは、無気力で、ただ時間を無駄にしているばかり。食事も残すフリッカに、リレイオが忠告する。

「フリッカ。食べないと生き残れない」

「ぴーちゃんをころしたリレイオとなんて、はなしたくない」

「話しているじゃないか。まあ、ボクと話したくないならそれも仕方ない。ボクはフリッカに生きて欲しい。だから、ボクが無理やり食べさせても文句は言わせない」

 パンを掴んだリレイオが、フリッカの口元へパンを運ぶ。そのまま食べさせられるのは嫌だったため、両手で奪い取り、フリッカはふてくされながらも収監されてから初めて自分の意思で食事をした。

 それからというもの、フリッカはきちんと食事を取っている。家族を殺された恨みは消えないが、毎日三食持ってくるリレイオを許してもいいかもしれないと思い始めていた。食事に罪はない。



 そんな浅はかな考えが変わったのは、フリッカの従姉妹であるルヴィンナが来てからだ。

「リレイオはあたしの婚約者なの」

「族長の長子同士の結婚はとても重要で、あんたなんかがどうにかできるものじゃないの」

「人よりちょっと力があって可愛いからって調子に乗るんじゃないわよ」

 四つ上のルヴィンナは、フリッカを女として見ていた。だから嫉妬心丸出しで罵倒するのだが、如何せんフリッカは六歳だ。恋愛が絡む感情なんてまだ理解できない。

 牢屋へ入れられる前から顔を合わせれば睨まれていたし、足を掛けられることもあった。しかしリレイオが来て有耶無耶になることが多く、フリッカ自身、ルヴィンナからなぜそんな仕打ちをされるのかわかっていなかった。

 ルヴィンナが牢屋へ来るのは、フリッカを罵倒するときかリレイオの不満を愚痴るときだ。食事以外は暇を持て余すフリッカは、ただ話を聞いていた。その内、ルヴィンナという婚約者がいるのに放置しているリレイオに嫌悪感を抱くようになった。

 それからはリレイオのことを無視している。フリッカの態度にリレイオは困惑しているようだったが、毎年フリッカの誕生日を唯一祝ってくれていた。しかし婚約者を大事にしない男という認識には変わりなく、祝われても礼はしない。

 毎日のようにルヴィンナから愚痴を聞き、フリッカの中でリレイオは悪者という固定概念ができあがった。

 だからだろうか。一度はしぼみかけた家族を殺された恨みが再燃。それどころか固定概念も加わり、憎悪と変化した。

 だから、フリッカは待つ。エイクエア諸島の慣習を。

 エイクエア諸島では、十六歳から二十歳になるまではディーアギス大国で生活しなければいけないという昔ながらの決まりがある。エイクエア諸島は島国のため、隣の国がディーアギス大国だ。エイクエア諸島よりも大きいディーアギス大国でも島国なのだから、他の国がどれだけ離れているかわかる。

 二十一歳の誕生日を迎える日までは自由で、その後は島に戻るか大国で暮らすかを選択する。島で暮らすなら島の発展のために子作りに励めと。そして無事に子供が産まれてから、婚約者から正式な夫婦となる。

 その慣習は収監者も同じかどうかはわからないが、同等の権利を持てるのならば十六歳になるときが牢屋から出る絶好の機会だ。

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