第八節 孤高
一つの街に五日も滞在すれば、冒険者ギルドで有名な人間はだいたい分かってくる。総じて、強い者、美しい者、厄介な者と分類できるだろうか。
冒険者たちの間では何人かで一つの組を作り、共に活動する者たちがいる。それをパーティと呼ぶようだ。私には到底関係のない話ではあるが、パーティは有能なものが集まるほど有名になっていくというものなのだろう。
〈金獅子〉という大仰な名のパーティが、シウサのギルドでは最高権力を持っているようだ。彼らは前述した有名な人間の特徴の三拍子をそれぞれ揃えているが故、面倒だ。
皆強く、美しく、それでいて性格に難がある。権力者によくある種の人間ではあるな。
なぜ私がこんなことを思っているかといえば、それは今〈金獅子〉の連中に絡まれているからだ。それは今より数分前に起こった。
いつものように依頼を終え、ギルドを出ようとしていたときだった。後ろの複数の気配の注目がこちらに向いていることを感じ、私は思案した。面倒事に絡まれたくはないが、超人的な所業をして目立ってしまうことは避けたい。遠からず誰かに絡まれそうなことは分かっていたため、あえて彼らの接触を受け入れよと決め、視線を意に介さず歩き始めた。
案の定、〈金獅子〉の人間どもはこちらに近づき、声をかけてきた。
「君、ずいぶんと強いようだね。」
第一声を上げたのは彼らのリーダーらしき男だった。
「うちのパーティに入らないか?」
難癖か勧誘かどちらかだと思ってはいたが、こうまで予想通りなのは少し笑えた。
「申し訳ないが、断る。私は一人で行動するほうが楽であるが故。」
もしも予想通りなら、ここで賄賂か脅しをかけてくるだろう。
「給金は高く支払うからさ。君みたいに強い人が入れば、完璧だと思うんだよね。」
賄賂か。無論拒否するが。
「考えを変えるつもりはない。他をあたってくれ。」
頑なな私に苛立つ者、気色ばむ者、反応はそれぞれだが、確実に不審に思っていることは確かだろう。こういう連中は自分の美貌やカリスマ性というものを信じて疑わないからだ。
「あんた、こっちが下手に出ればいけしゃあしゃあと......」
女が我慢できずにつぶやいた。言わぬことはない。無視が最適だ。
「悪いけど、こうなったら力ずくでも......」
なぜ人間はすぐに暴力行為に走るのだろうか。私は我が右腕をつかもうと迫ってきた手を目にも留まらぬ速さで振り払った。牽制のために鉤爪で奴の手を引き裂いて。
「な......」
そして今に至る。こういった連中は後々面倒だ。今夜のうちに街を発つとしよう。
私は彼らを冷たく見下ろし――私のほうが平均的な身長の人間より頭二つ分背が高いからだ――魔法で一瞬で牽制のためにつけた傷を治し、毅然と歩いてギルドを出た。もうシウサの街に来ることはないだろう。私はそのままつかつかと南門を出、西の旅路に就いた。いずれ王都に行き、大教会でフローデについて探るつもりだ。それは早いほうがいい。次の目的地は王都に二番目に近いカートの街だ。
と、後ろから何やら叫ぶ声が聞こえ、火の玉が飛んできた。十中八九魔法か。私は悠々と避けた。迎え撃てば面倒なことになる。
するとどたどたと走る足音が聞こえ――人間の耳には音もなく走っているように聞こえるのだろうが、ドラゴンの耳にはうるさい――剣を振りかぶる音が聞こえた。私は降ろされようとした刃を振り返らずに指先で止めた。
「死ね!」
断る。
「そうだ、俺達を舐めてかかった報いを受けろ!」
私は肉食故多くの生物を食すが、鎧はどうにも鉄の味しかせぬので是非とも武装した人間を舐めることは避けたいのだが。
「そうよ!〈孤高のヴィルア〉なんて気取っちゃって!」
む?何だ、それは?異名か?初耳だな。異名がつくほどのことをしたか?
「そのフードを取ってやろうか?屈辱なんだろ?ええ?」
いや、別に?この赤子並みの牙で噛んでやるだけだが。
此奴ら、何がしたいのだ?挑発とも言えぬ言葉を羅列するだけで、振り下ろしてくる刃の軌道はずれすぎているし、これに当たれというほうが難しい。おまけに太刀の軽いこと、たとえ当たったとしても気づくかどうか分からぬ。この様では私には傷一つつけられぬわ。
「くっ、こうなったら.....ティトリス家秘奥、[
ご丁寧に何をするかの説明どうも感謝する。魔力の流れを隠そうともしないため軌道が丸見えだ。発動する前に魔力の流れを断ち切り、魔法を発動させることを許さない。
「う、嘘......何で?[
何度も馬鹿丁寧にどうも。それしきの魔法、格上との戦いの上では役にも立たぬ上、発動すらできぬわ。こんな弱さで私に勝とうなど、百五十万と二千年早い。赤子の私にすら勝てぬだろう。
もうそろそろ終わらせてやるか。弓を取り出して矢をつがえ、次々に射った。矢は狙いに忠実に彼らの袖を地面に縫いつけた。
私は彼らを一瞥するまでもなく、その場を去った。次の街まで、飛べば半日もかからぬだろう。何とか夜が明ける前に街に着きたいものだ。
〈金獅子〉の奴らが見えなくなってから、私は丸めてマントの中に隠していた尾を出した。これをやると尾が攣りそうになるが、仕方があるまい。私は翼を広げ、夜空に飛び立った。
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