第8話 エスポワール

「そこを退けエスポワール、退けないのなら命の保証はできない」


全身に鎧をまとった男の人が、こちらに向かって叫んでいる。エスポワール?誰のこと……?


「断る。ラモール、なぜそこまで魔族を嫌う。人間となにも違わぬではないか。感情も、感覚も、意思もある、我々が共に暮らしてきた人々と何も変わらぬではないか」


私……?が叫ぶ。もちろん私の意志ではない。そもそもこの体は、私の身体じゃない……




「魔族はいずれ、世界を滅ぼす脅威となる」


「私たちを慕い、ついてきてくれていた者たちだぞ!?死にたくないともがいている、逃げている、抵抗している。なのになぜ殺すのだ。そもそも彼らは今まで一度も災いも起こしていないだろう!?」




「そうだ、今はまだ起こしていない。だがいつか来るぞ、奴らが大きな災いを起こす時が。人間として残った者たちも、魔族の殲滅を望んでいる。確実な平和を望んでいる!」




「かつての仲間たちを、そんな簡単に見放せるのか……人間は」


エスポワールは絶望したようにそうつぶやく。




「だが、それでも私は魔族を守る。死にたくないと、生きたいと必死にもがく者たちを見捨てるわけにはいかない」




ラモールと呼ばれた鎧の男は、すこし下を向き黙った後、こちらを向いた


「そうか、もう我々は分かり合えないのだな……」




殺意のこもった低い声だった。背筋に何か冷たいものが走るのを感じる。


「全てをとることなどできぬ、絶対にな。我々は、残った人間だけでも守らねばならぬ。そんな甘い心では、何も守れぬのだ!」




そう叫ぶと同時、ラモールは大剣を振り上げ、こちらに突っ込んでくる。エスポワールは手を掲げ、魔法を発動する。ラモールが大剣を振り下ろす。エスポワールは防御魔法でそれを受ける。普通なら防御魔法は砕けていただろう。だがエスポワールの防御魔法は、ラモールの大剣を防いでみせた。すかさずエスポワールは炎魔法を使い、ラモールに攻撃を仕掛ける。しかしラモールは、それが当たっても意に介さない。




「エスポワール、お前は加護魔法は神々の中で飛びぬけている。だが攻撃魔法は苦手だ。その程度の攻撃は、私の神器の前では無意味だ。防ぐだけでは勝てぬぞ!?」




ラモールは、さらに攻撃を加速させる。エスポワールは防ぐのが精いっぱいだ。攻撃魔法を発動しても、それはラモールの鎧に無効化される




しばらくそれぞれの攻防が繰り広げられたが、しびれを切らしたのか、ラモールが攻撃をやめ距離をとる。




「お前とは分が悪い。本気を出さねば倒せぬようだ」


そういうとラモールに魔力が集まり始める。




そして魔力が集まると、ラモールの存在感が一気に増す。


「行くぞ」




ラモールがそういうと同時、エスポワールの周りに無数の魔方陣が展開される。エスポワールはとっさに防御魔法を何重にも展開する。




ラモールの魔方陣から、何本もの剣が生成されエスポワールに向かって飛んでくる。


「ぐうぅ!?」


相当にきついのか、エスポワールが声を出す。




エスポワールの防御う魔法にひびが入る。ラモールは、さらに何個のも魔方陣を発動したさらに剣の攻撃のスピード、数が上がりエスポワールの防御う魔法が完全に壊れる




「ぐあぁぁぁ」


防御う魔法を突き破った剣は、エスポワールに突き刺さった。エスポワールは血を流してその場に倒れる。




意識が遠のく中、ラモールの声が聞こえる


「残念だよ、エスポワール。お前がもしこちらの道を歩んでいれば、きっと我々は良くやれたはずだ」




そこでエスポワールの意識は切れた。




私が目を覚ますと、そこは洞窟だった。体を起こすと、目に痛みを感じた。とても痛いわけではないけど、すこしズキズキする。


「大丈夫かリアンちゃん!?デリットさん、リアンちゃんが目を覚ましたよ」


トウさんが叫ぶ。




奥からデリットさんが走ってくる


「リアンちゃん、よかった。体に異常はないかい?」




「目が、少し痛いです」




デリットさんが見せてごらん、と言うので抑えていた手をどける


私の目を覗き込んだデリットさんが、目を見開き、信じられないという顔をした。




「エスポ……ワール?」


さっき夢に出てきた名前だ。




「エスポワールだ!ついに見つかった」


デリットさんは子供のように喜んだ。




「これでやっと……みんなが助かる」




何が何だかキョトンとしている私に、トウさんが教えてくれる。


「今、お前の中にはエスポワールという神の神能が宿っている。おそらくはさっきの青い光だろう」




話によると、青い光は向かってきた後、私の中に入り込んだらしい。そして私は意識を失って倒れたのだ。




「エスポワールは加護魔法に長けた神でな、様々な病気からケガ、制限はあるが蘇生まで行える神だ。


デリットはエスポワールをずっと探していたんだよ。理由は……デリットさんに直接聞いてくれ」




まぁ、いったん休みなと言い、トウさんはデリットさんのところへ行った。


少しして、デリットさんが戻ってくる。




「リアンちゃん、目は大丈夫かい?」


忘れてた。でも痛みはもう消えている。




「大丈夫です」


そうか、とデリットさんは安心した様子だ。




予定よりずいぶん遅くなった、早く帰らなきゃな。デリットさんはそういうと、私を負ぶる。


遠慮したが、ゆっくり休まなきゃと言われた。神能の定着は負担が大きいらしい。急なこと過ぎて、もう訳わかんないよ~。




城に帰ってくると、小さい子供たちが待っていた。


「デリットさんが帰ってきた~」


と大はしゃぎだ。




「こら~もう寝ないとだろう?」


デリットさんが注意する。




「だって~デリットさん、言ってた時間に帰ってこないんだもん」


子供にそういわれると、デリットさんは笑った。


「はは、確かにそうだね。ごめんね、遅くなって。でももう大丈夫だよ。さ、もう遅いし寝よっか」




「は~い」


安心した子供たちは、それぞれ自分の部屋に戻っていった。




「じゃあ、僕らも部屋に戻ろう。お疲れ様」


みんな解散して部屋に戻る。私も部屋に戻ろうとしたとき、デリットさんに声をかけられた。




「リアンちゃん、体調が悪くなったらすぐに言ってくれ。あと、明日城の前に来てほしい」


「わかりました」




部屋に戻ると、お弁当と手紙があった


リアンお姉ちゃんへ。まだあったことがないから、お姉ちゃんは私のこと知らないけどリエといいます。保護区で看護の手伝いをしているよ。今日は採掘お疲れ様です。栄養沢山のお弁当を選んだから食べてね。次見かけたらお話ししようね。




ここにはこんな優しい子がいるのか。心温まる出来事に疲労が飛んだ気がする。お弁当を開けると、温かかった。この容器には加熱の魔法、いや保温の魔法でもあるのかな?


「ん~美味しい!」




ご飯を食べた後、シャワーを浴びてベッドへ転がる


はぁ、疲れた。疲れてるときにベッドに転がると、とても気持ちい。共感してくれる人いるよね?




今日もいろいろあったな~。アクセサリーももらい、神様が宿りと。この体に神様が宿ってるなんて信じられないなぁ。




明日朝デリットさんに呼ばれてるし、今日はもう寝よう。


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