第5話 始まりの歴史
目をこすりながら寝室から出るとお母さんが朝ごはんを作っていた。
「ふぁ~、おはようお母さん」
「あ、起きたのね。おはよう」
「あれ?お父さんは?」
まだお父さんも朝ごはんは食べていないはずだけど。
もう行っちゃったのかな?
「お父さんは下で話し合の準備をするっていう建前でここから逃げたわよ~」
なるほど、相変わらずだな~。
「もう少しでご飯できるから待っててね」
「はーい」
その間暇だから、本でも読んでいようかな。
寝室に戻ってベッドの横にある本棚を覗く。
いっぱいあるな~。
横の長さ六十センチほどの本棚には、隙間なくぎっしりと本が詰められている。
全部初めて見る本だ。
動物図鑑に、星座の図鑑、魔法の起源……図鑑がいっぱいだ。
これでいいや。
半ばてきとうに選んだそれは、他の本の二倍ほどの厚みのある大きな本だ。
題名は「魔族虐殺の始まり」だ。
魔族虐殺……未だ続く教会による魔族殺し。
昔からあるのは知ってたけど、詳しくは知らないな。
一ページ目をめくると、目次だった。
たくさん内容があるのだろう。見出しが沢山ある。
まぁ、急いでるわけでもないから、最初から読もう。
もう一ページめくると、「魔族の始まり」と書いていた。
文は特に魔族について説明するわけでもなく、何やら昔話が書かれている。
てっきり説明文などが書いてるのかと思ってたや。
どれどれ、内容は……
かつて、この世界は二つに分かれていた。
人々はそれを楽園と地獄と呼んだ。
人々は11の集団に分かれて暮らしていた。
そして、その集団のリーダーとして皆を率いていたのが”神”。
十一人の神々の力は人間の想いによって存在し、そして力を得る。
神々がその想いから生まれる条件はわからず、神々自身も分からない。
神々の中で特に強い力を持っていたのがラモール、デゼポワール、エスポワールの三人だった。
彼らは大陸のほとんどを自分たちの土地とし、支配していた。
残りの八神々は、残った土地で皆と平和に暮らしていた。
他の神々は、ラモール達の三強を気にすることはなかった。
今ある地で、自分を慕ってくれる人々と共に幸せに暮らせるだけで十分だったから。
でも、自分たちの信仰する神が下なのが気に入らなかったのだろう。
集団は、団結し三人の神を倒すことを決めた。
「今度、皆さんで宴をしませんか?」
人々は八神を宴に招待する、といい一つの拠点に集めた。
そう、もしも計画を知られれば反対されてしまうと思い、八人の神がいないうちに三人を倒してしまおうと考えたのだ。
それを八人の神は知る由もなく、用意された宴を楽しんでいた。
そのころ、八の集団が結集した大群が三神の一人、ラモールの土地へ進軍してた。
その途中、エスポワールがそれに気づいた。
ラモールの土地へ進軍しているのが、外交目的の集団でないと判断したエスポワールは、ラモール、そしてデゼポワールへ使者を向かわせ、知らせた。
使者から話を聞いた彼らは、自分たちの集団をエスポワールの土地へ避難させる準備を行った。
「心配するな、何も問題はない。安全になったら、また知らせに行く」
「ラモール様、どうかお気をつけて」
エスポワールの土地へ避難したのは、彼の土地が一番安全だからだ。
彼は戦闘力こそ低い神だが、神の中では群を抜くほどの治癒魔法の使い手だった。
治癒の他にも防御魔法や加護など、多くの守護魔法を持ち、強大な神とされていた。
「ラモール、デゼポワール。どうか、なるべく平和にな……」
「時には、力でも成せない平和があるのだ」
エスポワールの土地に集団が移り終わって数時間が経過したとき、ついに八集団がラモールの土地に到着した。
自分たちの土地に攻めてきた、八集団の前に立ちラモールとデゼポワールは言う。
「早々に消えろ。我々に危害を与えることは断じて許さぬ」
その声から伝わる圧倒的威圧感。
普通ならば戦意喪失してもおかしくないが、決意の固い八集団は引かない。
各々の魔道具、武器を用いてラモールとデゼポワールに攻撃を仕掛ける。
「はぁ、そうやって自分たちを大切にしてくれている主を裏切り、悲しませるか。愚かだな」
「愚かかどうかは、結果を見ればわかる!」
ラモールの言葉も届かない。
デゼポワールの張った結界を、必死に叩き壊そうとしている。
「己の能力を知らず結果だけを夢見る者に、成功など来るはずもない!」
ラモールは、一発の爆発魔法を放つ。
その一発で、八集団は全員が消し飛んでしまった。
後も残らず、粉々に……
「奴らに……あとで謝らねばな……」
「ああ。この戦い、奴らが計画したものではないだろうからな」
そう言ってラモールとデゼポワールは去っていきました。
何も成せずに消えてしまった人々。
しかし彼らの魂は消えなかった。
三神を恨む気持ちが具現化し、神へ背いた罪を背負い、自我を失った魂の成れの果て、魂魔となり、大陸に降り注ぎ始めた!
魂魔によって殺された人々も魂魔になってしまう。
その連鎖によって大陸はあっという間に、魂魔となった人々で溢れる地獄へと変ってしまった。
八神は自分たちの民がが魂魔となった光景を見て絶望した。
彼らは、何とか自分たちの集団を解放してあげられないかとエスポワールへ頼みました。
自分たちの民が苦しみ、さまよい続けるのを見たくなかったのだ。
この結末は想像もしていなかったエスポワールも、これには心を痛めた。
どうにか助けてあげたい、そう思ったエスポワールは、ある場所へ向かう。
エデンだ。
エデンには原罪という未知の生命体が住んでいた。
伝説では、一番最初に神に背いた罪人と言われている。
だが、彼が背いた神が誰なのかは分からない。
十一の神が生まれる以前から、原罪はエデンに存在していたからだ。
エスポワールは、原罪に頼んだ。
「魂魔となった彼らを、解放してやれないだろうか? せめて、安らかな死を与えてやれないか?」
原罪は、真っ黒な人型のシルエットだけの姿をしていた。
ゆらりと立ち上がると、エスポワールの元へ近寄る。
魂を私の中に吸収し、罪と魂を分断し、罪を俺の中に抑えておく。
そして罪と分離した魂を解放することができると提案した。
「八神に確認させてくれと」
「ああ、そうっしてくれ」
エデンから戻ったエスポワールから話を聞いた八神は同意しました。
彼らが苦しまなくていいならどうかお願いする……と。
「原罪、頼む」
「ああ。あとはこっちでしよう」
原罪は魂魔を自分に取り込み始めた。
そして取り込み終わると、原罪から人々の魂が飛び出た。
彼らはしばらく周りを漂った後、静かに消えて行った。
「解放されたのか……」
「ああ。魂と罪の分離は成功した」
エスポワールは安堵した。
そして
「原罪、ありがとう。この恩は、必ず返そう」
といいエデンを去ろうとした。
去っていくエスポワールに原罪は一言
「守ってやってくれ」
と言った。
エスポワールは何のことだろうと思いながらもうなずく。
エデンから戻ったエスポワールは、目に入った光景に驚いた。
魂魔になるのを逃れ、生き残っていた人々が苦しんでいたからだ。
「何があったんだ!?」
エスポワールは八神に問う。
「恐らく、呪いが人々に移った」
呪いとは、罪を背負った者たちが罪を償わずに解放されると、現世に出てくると言われていたものでだ。
無理やり罪と魂を分離した影響で、呪いが発生してしまったのだ。
しかし、呪いは本来、エデンにいる原罪が封じている。
それが彼の罪を償う方法だからだ。
呪いは人々に宿り、そして魔族と呼ばれるものに変えてしまいました。
「どういうことだ、呪いは原罪によって封じられるはずじゃ……」
エスポワールはエデンに行き、原罪に会おうとする。
しかし、エデンへの扉は塞がれてしまっていた。
何もできないまま、大陸には呪いが蔓延した。
そして大陸は二つに分かれた。
魔族にならなかった人々の暮らす楽園。
魔族の暮らす地獄。そ
して魔族と人、魔族を守る神、魔族を脅威とみなし排除する神。お互いが殺し合い、大地は血に染まってしまった。
争った末に、神々は滅び、魔族は人々から離れて暮らすようになったのだ。
あまりにも衝撃すぎる。
魔族は……もともとは人だった? おそらくこの物語は大部分を省いているのだろうが、それでも悲惨な過去だったということが分かった。
この本に書いていることが本当なのかはわからない。
でも一つの可能性として頭に入れておこう。
機会があったらデリットさんに聞いてみよう。
もともと聖教会にいたなら何か知ってるかも。
「リアン~ご飯できたわよ~」
「あ、は~い」
机に向かうと、顔を真っ青にしてバクバクと朝ごはんを食べるお父さんがいた。
「お父さん、ゆっくり食べないと詰まらせるよ」
「いああないあろ!?おあいんらあら(約 しかたないだろ!?怖いんだから)」
はぁあ、お父さんったら。
私を守ってくれた勇敢な姿はどこへ……
私も椅子に座って朝食を食べる。
お父さんは食べ終わると、疾風のごときスピードで降りて行った。
食べ終わった後、準備をして下に降りる。
お母さんは、準備に時間がかかるから先に行ってとのことだ。
広間に向かうと、もうすでに、デリットさん、アーブデューペさん、そしてもう数人の仲間さんかな? がいた。
席に座って全員が集まるのを待つ。
十分ほど待つと、全員が集合した。
村長さんの指示で、まずは家族たちで話し合う。
ここに残るか、どこかへ行くか。
お父さんたちは、ここから少し東に行ったところにある村に行くらしい。
仕事で知り合った友達の鍛冶屋が、いっしょに働かせてくれるそうだ。
でも私は……
「お父さん、お母さん。その……私はここに残りたい」
「え?何かあるのか?」
「その……本でね、魔族の話を少し見たの。だから、ここに残ってもっと魔族のことを知りたい。そうしたら、いつか魔族が幸せに暮らせる方法が見つかるかもしれないし。あと、デリットさん達を手伝いたい。助けてもらった恩返しとして」
お父さんたちは、しばらく黙って考えた後、口を開いた。
「わかった。だが私たちは残れない。なぜならもう友達のところで就職決めてしまったからな。自分で考えて、迷惑をかけないように行動するんだよ?それができるなら残っていい。」
娘がどうするか決める前から就職を決めているところは疑問を覚えるが、残っていいとの許しが出た。
話し合いの時間が終わってみんなが決めたことを発表する。
結果は……私以外は他の村に行く、だ。
いやなんかおかしくない!?
自分で決めたことだから文句は言えないけどさぁ、普通もう少しくらい残る人いません!?
そんな驚きの結果で今日の会議が終わった。
はぁ、なんか複雑な気持ちだなぁ。
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