第4話 町での買い物
城の下の町はとても賑やかだ。
大きな道の両端にいろいろなお店がズラッと並んでいる。
道はたくさんの人で埋まっている。
まるでお祭りみたいだ。
デリットさんからお小遣いをもらったので、私は今町で買い物をすることにした。
何にしようかな~と思っていると
グー
お腹が鳴った。
そう言えば、村での朝ごはんから何も食べてないや。
何か食べよう。
そう思って道を歩いていくと、何やら嗅いだことのある美味しそうな匂いがしてきた。
シチューだ。
匂いのしてくる方へ歩いていくと、お姉さが大きな鍋でシチューを作っていた。
お店に貼ってある紙には、シチュー一杯銅貨2枚と書かれていた。
「お姉さん、シチュー一杯ください」
「了解、自慢の味さ。美味しいこと間違いなしだよ」
お姉さんに金貨を渡す。これしかないからね。
「君、金貨なんてすごいね~おつりが沢山だ」
お姉さんは笑いながらおつりを手渡してくれる。
銀貨9枚と銅貨8枚だ。
それでも、まだここに金貨29枚あるんだよね。使い切れるかな……
「食べていくなら店の裏に席があるよ~」
お姉さんがお店から顔を覗かせて教えてくれる。
「ありがとうございます!」
店の裏に入ると、沢山の人がいた。
「これ、座れるかなぁ」
心配したが、席の数もとても多かったので、問題なく座ることができた。
席に座ってシチューを見る。
お母さんが作ってくれたシチューにそっくりだ。
もしかしたら、同じ味なのかな。
そんなわけないか。
シチューをスプーンですくって口へ運ぶ。
「おいしい!」
とてもおいしかった。
いや、でもその前にこの味は……お母さんのシチューの味だ。
甘くて、でもさっぱりとした不思議な味。
村でお母さんだけが作る不思議なシチューの味だった。
なんでだろう? たまたまかな?
でも本当においしい。
スプーンを動かす手が止まらず、気づけばシチューはなくなっていた。
「ごちそうさまでした」
私はお店の返却口に食器を返して店員さんのところへ行く。
「お姉さんのシチュー、私のお母さんと同じ味でした。とてもおいしかったです!」
そういうとお姉さんはにっこりと笑ってこちらをみた。
「そうかい、料理人にとっておいしいはとてもうれしい言葉だ、ありがとう。でも君のお母さんもこの味を作るのか。もしかして君のお母さんもカータ出身なのかな?」
「カータ?」
初めて聞く言葉だ。国の名前かな?
「カータっていうのは、ここよりもっと南にある小さな国さ。貿易が盛んで、カータの人たちは主に荷運び人の仕事に就いているのさ。で、カータの伝統的なシチューの味がここの味だ」
そうなんだ、今度お母さんに聞いてみようかな。
そう言えば私、お父さんとお母さんがこの国出身かと思ってた。
もしかしたらお父さんも違う国の人なのかも。
「じゃあ、ありがとうございました~ごちそうさまでした」
そういって私はお店を離れた。
次はどこへ行こう? そういえば門を入ってすぐの辺りに、綺麗なアクセサリーがあったなぁ。
よし、見に行ってみよう。
坂道を下っていくと、店の内容もガラッと変わった。
さっきまで食べ物を売っているお店が多かったけど、この辺りは服や靴のお店が多い。
見たことのない服や靴がいっぱいだ。
私たちの村とは、やっぱり文化も違うみたいだ。
服屋さんが並ぶ道を通り抜け、下まで降りてくると、今度はアクセサリーの店が沢山並んでいる。
着いた~。
私は早速、先ほど見つけたお店に入る。
「いらっしゃいませ……きゃぁぁぁぁ!」
え? 何!? びっくりして頭が真っ白になる。
私が固まっていると、店員さんが私に抱き着いてきた。
「かわいいぃぃ!」
え???
「どうしたの?アクセサリーを見に来てくれたの?」
店員さんは、とても明るい感じの人だった。
「はい、きれいだな~と思って」
「おや、うれしいこと言ってくれるね。綺麗でしょ。全部私の手作りだよ~」
手作り!? すごい。
どれもきれいだが、一番目を引くのは宝石を使っているアクセサリーだ。
宝石の持つ魅力を最大限魅せるデザイン、そしてそれに合うように宝石をカットする技術。
どうみても凄腕だ。
村でしかアクセサリーを売ることのなかった私は、自分の未熟さを思い知らされる。
「あの、この宝石たちってどうやってこんなに傷をつけずにカットするんですか!?」
私は気になりたずねてみる。商売にかかわることなので教えてくれないことも覚悟の上だったが、店員のお姉さんは、笑顔で答えてくれた。
「この宝石たちね、カットしてないんだよ」
え?カットしてない?
「ほら、カットすると。どうしても傷が入るでしょ?気にならないくらいの小さな傷でも、あたしはつけたくない。だから考え方を変えたの。アクセサリーに宝石を合わせるんじゃなくて、宝石にデザインを合わせようってね。もちろん、見た目が合うだけじゃダメ。宝石の元の形を、違和感なく、最大限魅せられるデザインじゃなきゃね」
すごい斬新なアイディアだな、と思った。
でも、お姉さんは、それをやってのけている。
世の中にはすごい人がたくさんいるんだな、と改めて認識する。
「よかったら君に会うのも作ってあげようか?お金によって綺麗に調整はするよ~」
もういっそここで全部使っちゃおうかな。
いや、何かあった時のために少し残しておこう。
「金貨二十五枚でお願いできますか?」
「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?金貨二十五枚!?」
店員のお姉さんはびっくりしすぎて飛び跳ねる。
「そんな大金どうしたのぉ?」
「えっと、いろいろありまして……」
デリットさんにもらいました、なんて言えないよね……
「じゃあ、ウチで一番いい宝石を使って作っちゃうよ!久しぶりに気合が入る~」
お姉さんは、やる気スイッチがオンになったようです。
「完成まで時間がかかるから、また明後日くらいに来てくれる?」
「わかりました、じゃあ金貨はここに置いておきますね」
金貨を置いて店を出ようとしたら
「いや、アクセサリーができてからでいいよぉ」
お姉さんに呼び止められる。
「いえ、前払いでお願いします。私の為にも……」
「?……わかった」
お姉さんはキョトンとした顔をしながらも、受け取ってくれた。
金貨が残ってると私が三十枚とられちゃうからね。
まぁ、デリットさんの冗談だろうけど。
さて、アクセサリーも見たし、この後はどうしよう? 金貨があと四枚残っている。
四捨五入したら五枚だけど……
どこに行こうか迷っていると、後ろから急に声をかけられた。
「やぁ、リアンちゃん」
「うわああぁぁぁ!?」
びっくりしすぎて飛び跳ねる。
「あぁ、びっくりさせちゃってごめん」
そこにいたのはデリットさんだった。
「会議が終わったから迎えに来ようと思ってね。お父さんとお母さんはもう部屋に案内したから、君も案内するね」
部屋まで用意してくれてるんだ。
何から何まですみません。
心の中でそんなことを思っていると、デリットさんが、私の持っている袋を見て笑う。
「金貨使い切れなかったね~。じゃあ、金貨三十枚もらおうかな♪」
え、本当にもらうの?私は少しぎょっとする。
そんな私の顔を見て、デリットさんはまた笑う。
「ハハハ、冗談だよ」
ムー、からかわれたな、今。
なんか少し悔しい!
「もう、デリットさん、あんな大金使い切れるわけないじゃないですかぁ」
「それを見越してのあのお金だよ。何か買いたいものがあっても買えないよりいいだろう?」
デリットさんは子供のように笑う。
デリットさん、うれしいですけど、誰にでもそれしたらダメですよ。
間違えた方向に進む人がいるかもなので。
そんな話をしているうちに、城まで登ってきた。
「君たちの部屋は七階の部屋だよ。一番景色のいい場所さ。君のお父さんには申し訳ないけどね……残りの部屋があそこしかなくて……ハハ」
なんとなく予想がついた。
「僕の部屋は二階だから、ここで失礼するよ。迷子になったら、歩いている係りの人に聞いてね」
そういってデリットさんとは二階で別れた。
七階まで上がって部屋を探す。
どこだろう?七階の廊下は窓が一つもない。
理由はおそらく、ここが屋根の部分だからだ。
七階は、ちょうど屋根の部分にあたるため、窓がないんだと思う。
下の階は天井が平だったのに対し、ここは天井が尖っている。
屋根の証拠だ。
私がデリットさんを探して上った部屋の一つ下だ八階はどこにあるのかというと、このお城は、南側の建物より少し高く北側の建物ができている。
だから南側の屋根の部分が七階。高い北側の屋根が八階となっている。
七階までは、北と南の建物はつながっている。
でも八階になると南側の建物は高さが足りないので、八階は北の建物だけとなっている。
だから八階は少し狭いし、南側の建物からはいけない。
七階を歩いていると、自分たちの部屋を見つける。ノックをするとお母さんの返事が聞こえた。
ここであってるみたいだ。
ギイィィと扉を開けると、部屋が見える。
部屋はとても広くて、きれいだ。
奥には窓があり、周りの山々が一望できる。本当にいい景色、なのだが……
「お父さん、こっち来て景色見ない?とってもきれいなのに」
「すまない、リアン。こんなお父さんですまない。だが、俺はどうしても高いのは無理だ!」
お父さんが泣きながら叫ぶ。
と言うか訴えてくる。
そう、私のお父さん高所恐怖症です。
高いの無理です。
デリットさんから七階、景色が綺麗と言われてもう想像がついた。
窓がなければまだしも、窓があって高いなんてお父さんにとっては拷問だろう。
「お父さん、怖がっても仕方ないよ。ほら、手前のベッドで寝ればいいから、早く起きて」
何をつかんでいるのか、地面にくっついたように倒れ、震えているお父さんを起こす。
「じゃあ、私はご飯の用意をするから、リアンはお風呂に入っておきなさい。廊下側の扉にあるそうよ」
「はーい」
ふ~今日は疲れたなぁ。私は遊んでただけだけど。
まぁ、子供の仕事だよね、遊ぶのは。
お風呂に入った後、お母さんの作ってくれたご飯を食べて寝ることにした。
お父さんによると、明日は村のみんなと今後について話すために集まるらしい。
今後……か。確かにずっとここでお世話になるわけにもいかない。
どうするか、はっきりしなきゃ。
「じゃあ、お父さん、お母さんおやすみなさい」
「おやすみなさい」
「おやすみ~」
いよいよ明日には、今後が決まる。
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