第3話
すこし泣いて落ち着いた。
涙を拭き、あたりを見渡す。
そこにはみんないた。
いや、ほとんどみんな……だ。
あの襲撃の時に騎士団に抵抗して時間を稼いだ勇敢な人たちの姿は、そこにはない。
でもあの規模の襲撃での被害の”数”としてはとても少ないと思う。
少なくて……重い被害だ。
「そういえばお父さん、あのピエロは?」
あの場所に戻った時、ピエロはいなかった。
床を染めていた血が、ピエロの者なのかはわからないけど、死体がなかったから倒したわけではないだろう。
「アーブデューペさんが助けに来てくれたおかげで、ピエロを撃退することができたよ。まぁ、お父さんは完敗だったけどね」
私が逃げた後、お父さんは、私が逃げる時間を稼ぐために必死に抵抗した。
でも戦闘経験の差は明白だった。
いや、経験だけでなく基礎も。
ピエロに追い詰められたときに、兵士を率いたアーブデューペさんが来たという。
彼は剣でピエロと応戦した。
彼もデリットさんと同じで、何もないところから剣を出したとのこと。
アーブデューペさんの剣はすごく、ピエロを追い詰めていったらしい。
アーブデューペさんの剣がピエロを捉える直前、ピエロは逃走を図ったらしい。
魔法なのか神能なのかはわからないが、一瞬でその場から消えたそうだ。
また、ピエロは襲ってきた奴だけでなく、大勢いたらしい。
おそらくは「隊」なのだろう。
全員ピエロの仮面をかぶっていたらしい。
ほとんどのメンバーはよくサーカスでみるピエロのお面だったという。
だが、数名は模様が入っていたらしい。
幹部核だろうか。
デリットさんなら何か知ってるかもしれない。
お父さんの話を聞いた後、私たちは一度別れることにした。
おとうさんは 怪我をしていたから病室に行くらしい。
お母さんもその付き添いで病室へ行った。
私はデリットさんを探す。
ピエロのことも踏まえていくつか聞きたいことがあったからだ。
城の中を探してみる。
とても広くて迷子になりそう。
白い壁、天井からぶら下がる綺麗な灯り。
色のついたガラス。
すべてが見たことないものだらけだ。
城の中を歩き回り、探しているうちに、だんだんんと上に来た。
上はほとんど部屋になっていて、ドアばっかりだ。
デリットさんはどこにいるんだろう。
まず城の中にいるのかな。
そんなことを考えながら歩いていると、気づけば最上階まで来ていた。
最上階には窓がなく、名前だろうか……文字がいっぱい刻まれた木の板が壁に掛けてある。
一つ下の階までは大量にあった部屋も、ここにはない。
「誰だ!?」
急に奥から声がする、私はびっくりして固まってしまう。
「……リアンちゃんか……ごめんね、驚かせてしまって」
奥から出てきたのはデリットさんだ
「いえ、私こそごめんなさい。勝手にこんなところまで来てしまって」
デリットさんは首を横に振る。
「いや、大丈夫だ。別に来ちゃダメなんてことはないからね。ただ、ここに来る人が珍しいからびっくりしたんだ。それで、どうしてここまで来たんだい、見学かい?」
「いえ、デリットさんを探してたんです」
「僕を?」
「聞きたいことがいくつかあるので」
デリットさんは少し考えた後、こっちを向いた。
「話すならいったんここを出ようか。ここだと、話に集中できないかもしれないから……」
そう言ってデリットさんは周りに刻まれた名前を見渡す。
ここには何かあるのだろうか。
私は引き返して下に降りようとする
「あぁ、待ってリアンちゃん、下よりもっといいところがあるんだ」
そういうとデリットさんは、奥へ歩いていく。
デリットさんの後ろをついていくと、さらに上へ続く階段があった。
ここが最上階だと思ってた。
デリットさんは階段を上っていく。
デリットさんの後に続いて私も階段を上る。
階段を上っていくと鍵のかかった扉がある。
「このドアを開けたら、きっと忘れない思い出になるよ、開けてごらん」
デリットさんは鍵を外すと、私を先に行かせ扉を開けてみるようにと言った。
私は扉を恐る恐るあける。
開けて外を見ると、そこはお城の屋上だった。
「わーぁ!すごい!」
私は小さい子供のように飛び跳ねる。
目の前には、ここに来る前に見た大自然が広がっていた。
でも下から見るのとは違う。
山を越えた遠くまで見える絶景。
湖、川。村の山から見た景色とはまた違うものだ。
「綺麗でしょ」
デリットさんも横に来て景色を眺める。
本当にきれい。
まるで別の世界にいるような感覚だ。
「そういえば、このお城はデリットさんが建てたんですか?」
質問すると、デリットさんは少し答えずらそうだった。
「すみません!変なこと聞いちゃいましたか!?」
私はしまったと思いデリットさんに聞く。
「いや、そんなことないよ。ここはね、十一の魔の一人である女の子の城だったんだ。僕を変えてくれた、僕の恩人……」
十一の魔。
聞いたことがある。
魔族の中でも、特に強い十一人の魔族。
とても長く生きているらしく、十一人の内の五人は最初の魔族らしい。
先代が死んだ場合、他の魔族がそれを受け継ぐらしいが、今誰が受け継いでいるのかは分からない。
「すごい人だったんですね。その人はいまどこに?」
「……」
デリットさんは黙って答えない。
「ごめんなさい、また嫌なこと聞いてしまいましたか!?」
またやらかしてしまった。デリットさんに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「いや、教えてもいんだけど、また今度でいいかな?君はまだ知るべきじゃない。隠すつもりはないよ。また、時が来たら教えるね」
何かあったんだろう。
そう心の中で思いつつもそれ以上は聞かない。
いや、聞けなかった。
「本題に入ろうか。僕に聞きたいことって?」
あ、そうだった。
「二ついいですか?」
「いいよ、答えられることならなんでも答える」
「エンヴィーと呼ばれてた、私を襲った人とデリットさんって、何か関係があるんですか?」
「……そうだね、かつての同僚、いや共犯者かな」
……え?
共犯者?
「君は怒っちゃうかもね。僕、昔は聖教会の騎士団の隊長をしてたんだ。そう、君たち魔族を殺す仕事だ。その時に一緒だった知り合いだよ、彼は。決して長い付き合いじゃないけどね。僕と長く一緒に居たのは、彼の前の二番隊隊長だ。僕は聖教会を裏切ってその人を殺してしまったから、彼は僕を恨んでいるはずだ」
デリットさんが騎士団の隊長だった?
こんなに優しくしてくれるデリットさんが?
「今は詳しくは教えられないけど、ある出来事があるまで、僕は魔族を残虐な生き物、と見ていた。そう教えられてきた。だからいっぱい殺したんだ。家族がいる人も、子供も、女性も見境なく。大虐殺だよ。今思えば」
きっとつらい過去だったんだろう。
デリットさんの温かい声は、少し震えていて悲しそうだった。
「もう一つの質問は何かな?」
デリットさんの声は、もう震えていない。
「ピエロの仮面の方々を知っていますか?」
デリットさんは少し黙った後、口を開く
「君、いや、君以外の誰かがあいつらにあったのか」
アーブデューペさんからはまだ聞いていなかったのだろうか。
私たち、いやお父さんがピエロにあったのは知らなかったみたいだ
「はい、お父さんが。アーブデューペさんが助けてくれて助かったみたいですけど」
「あいつらは聖教会の三番隊、通称”道化”。隊長の名前は僕も知らない。ただ、彼らは僕が騎士団にい時から有名だったよ。でも、意外にも僕が聖教会騎士団の隊長になった時よりも少し前に入団した人らしい。スピード出世ってやつだね」
デリットさんが騎士団にいたときにはすでに居たのか。
「道化は隊長一名、副隊長一名、班長四名、他数百名で構成される隊だ。隊長の仮面にはキングのマーク、副隊長にはクイーン、そして班長にはそれぞれハート、ダイヤ、クローバー、スペードが彫られている。トランプがモデルなんだろうね」
お父さんの言ってた模様は隊長たちだったんだ。
そういえば私たちを小屋で襲った道化にも模様があった。
なんの模様だったんだろう。
「彼らは騎士団で唯一、隊をさらに細かく分けた班を作っていてね。いくつもの集団で連携を取り、活動をするからとても厄介なんだ。一つの班がおとりになって他が作戦を実行する、なんてこともあるしね」
デリットさんは床に寝転ぶ
「はーぁ、道化まで来たのか。とにかく、あいつらとは戦いたくないよ。きっと甚大な被害が出る。それに、道化の隊長は最強格の一人だ。尚更戦って勝てる保証はない」
そんなに厄介なのか。
「質問が終わりなら降りようか。そろそろアーブデューペ達との会議の時間だ」
アーブデューペ達、ということは他にも何人かが会議に参加するのだろう。
下に降りる途中、デリットさんから袋を渡された。
「ここに来た時、すごくお店に興味持ってたよね?見てきな。少しだけど、ある程度の物なら買えるはずさ」
そういってデリットさんは走り去って行ってしまった。
袋を確認すると……え?金貨30枚!?
こんな大金……デリットさん、これは使えませんよ!
そんな私を予想してました、と言わんばかりに一枚の紙が入っている
「リアンちゃん、金貨全部使ってね。使わなかったら、30枚逆にもらっちゃおうかな~♪
デリットより」
ぐぬぬ、ならば遠慮なく使わせてもらいますね、デリットさん。
優しすぎる。
私は袋をもって城の下にある町に向かって歩き出した。
いったいこの町には何があるんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます