ああ、困ったやつだ。

睡魔人太郎

夢で死にせど現実で死せじ

 僕は桜川斗真さくらがわとうま。小学四年生だ。

 感じる。後ろからの視線。誰かが俺を見ている。もしかして、俺のことを狙っている猟奇的殺人者か? 俺は怖くなって暗い夜道を全走力で走る。途中にある街灯は、ぱちっ、ぱちっと

明滅を繰り返す。リュックが走るたびに腰にぶつかり少し痛い。重さで肩も疲れる。

 マンションの小道に入るため後ろを確認し、まだ距離があると分かると左の角を曲がる。数メートル走るとそこにはマンションの敷地に入るためのドアロックがある。急いでボタンを押す。


「あ、やべっ」


 慌てた押したため暗号を間違えてしまう。もう一度後ろを確認。まだ来ていない。

 次は落ち着いてロックを解除する。


「よし!」


 扉を開ける。しっかりとロックをかけ階段を数段駆け上がる。家まではあと二十メートルもない。舗装された道を無視し土の道を走りショートカット。

 あと少し。あと数メートル。あとちょっと。


 リュックのサイドポケットに入っている財布を取り鍵を取り出す。手が揺れるせいで鍵をうまく取り出せない。財布を両手に持ったまま部屋の前の階段まだ着いてしまった。一旦取り出すことを諦め、三段飛ばして上がっていく。

 扉の前に着くと落ち着いて鍵を取り鍵穴に向ける。走ったせいか息が上がり手が震えなかなか差し込めない。左手で右手を押さえゆっくりと差し込む。

 カチッと鳴った瞬間にノブを握り素早く時計回りに動かし、思いっきり引く。

 家の中に入ると足跡がないのを確認し、どこの部屋に入ったか分からないようそっと閉めた。

 

 ふうぅ。一息つき玄関の電気を付ける。靴を脱ぎリビングにいる母ちゃんに声をかける。


「ただいまー」

「おかえりー。すぐに手洗いなさいー」

「はーい」

 

 そう言ってからリュックを下ろし引きずりながら自分の部屋へ行く。

 あぁ、疲れた。リュックを隅に置きベットにダイブする。そして頭を抱える。

 

 

 またやってしまった。

 俺には特殊な癖がある。人には言えないものだ。昔からミステリーが好きでアニメや漫画をたくさんみてきた。ーちなみに小説は難しくて手が出せていない。

 そのせいか、日常的に殺人に関する妄想をしてしまうのだ。

 例えば今日みたいに普通に自分の後ろを歩いてる人を殺人鬼と想定して勝手に、追われていると妄想をしてしまう。

 普通の小学生はもっとヒーローになるとか魔法使いになるとかそんな可愛いものだと思う。しかし、俺は家族で旅行した時には旅館内で殺人事件が起きそれを見事に解決する探偵になったりと小学生っぽくない。

 今日もそんな自分が恥ずかしくなる。





◆◇◆◇

 今日は学校の委員会活動で帰りが遅くなった。学校を六時くらいに出たが、もうこの時間でもだいぶ暗い。町中の街頭が灯り闇に染まった道を照らし帰路を導いてくれる。

 

 今俺はとても焦っている。いつもは普通の人を悪いやつにして妄想するのだが今日の人はおかしい。

 暗くて影すら見えないが足音で人がいるのに気づき今日もやろうと思っていたら途中で違和感を覚えた。それは足音のテンポだ。



 トコトコトコトコトコ......。

 トコトコトコトコトコ......。

 

 トコトコトコトコトコ......。

 トコトコトコトコトコ......。

 

 タッタッタッタッ...ピタッ。

 タッタッタッタッ...ピタッ。



 その足音は俺のと同じものだ。俺が走ったら走り止まったら止まる。一気に鳥肌が立ち怖くなってくる。

 え、どうしよう? もしかして本当に悪いやつ?

 頭の中で色んな憶測が飛び交う。ただ一つ言えることはこれは妄想ではない。俺は昨日と同じように走り家へ向かう。俺が走るとそいつも走る。汗が額から止まらない。ドアロックを解除し家の扉の前まで行く。

 足はあまり早くなかったのか途中でどんどん離れていくのがわかった。なんとか逃げ切れたことに安心し何事もなかったように母ちゃんに帰宅したことを伝えた。

 今日はベットに飛び込まず椅子に座り頭を回らせる。しかし、答えは見つからない。最初は気のせいかと思ったがあれは確かに人が後ろからついてきていた。

 これ以上悩んでも仕方ないのでとりあえず沸いてあるだろうお風呂に入ることにした。





◆◇◆◇


「ふう、気持ちよかったー」

「康太、今からご飯にするから早く着替えなさい」

「今日のご飯何?」

「あんたの好きなハンバーグだよ」

「やったー」



 俺はさっきのことは忘れ夜ご飯に夢中になっていた。言われた通り着替えるため部屋に戻るとそこには弟がいた。



「お、颯太そうた。帰ってきてたのか」

「うん」

「ん? どうしたんだそれ」



 タオルで股を隠しながら片方の手の人差し指を向けながら言った。

 弟の膝には大きく絆創膏が貼ってあり血が滲んでるのが見えた。



「転んだ」

「どこで?」

「帰り道」

「どうして?」

「......段差につまずいた」

「あ、そう。大丈夫か?」

「大丈夫」



 弟は真面目で静かで俺とは真反対だ。だから、そんな弟が転んだことに少し驚いた。

 

 まあ転ぶことくらいあるか。


 特に気にせず俺は鼻歌混じりに着替え始めた。

 すぐに服を着て弟を連れリビングへ向かう。扉を開けた瞬間に鼻へと飛び込んでくるハンバーグの匂い。俺の脳は完全に飯に支配されていた。そして、その日は今日のことを忘れたまま寝てしまった。





―― ―― ―― ―― 五日後―― ―― ―― ――


 俺は五日前のことは単なる気のせいだと納得しまた、妄想をする日々を送っていた。最近は、学校に不審者が入った時にやっつけたりひったくりを追ったりとどんどん種類を増やしている。

 しかし、そんな俺は今焦っていた。まただ。五日前と同じ。足音が俺に合わせて響いている。今回は恐る恐る声をかけてみることにした。



「あのー、誰ですか? もしかして悪い人ですか?」



 相手に怯えてることごバレないよう大きなな声を出し震えそうな声を必死に誤魔化す。

 だが、相手からの反応は何もない。怖くなって今日も家へダッシュで向かった。


 セーフ。今回もなんとか間に合った。一体誰なんだ? 実は、俺の頭に極秘チップが埋め込まれてるのか? それともどこかで殺人現場を目的したと勘違いされたのか?

 いや、どっちも違うな。俺が生まれたのは田舎の普通の病院で、ここ最近この町で殺人事件は起こってない。くそ、じぁなんでなんだ!?


 そんなふうに玄関で何分も立ちっぱなしで考え込んでると後ろからガチャ、という音が聞こえた。まさか!? 俺はさっきの追ってきたやつがなんらかの方法で家の鍵を入手し入って来るのでは? と思い近くにあった靴べらを手に取り構える。

 ゆっくりと開く扉。少しずつ見えてくるシルエット。

 そこにいたのは弟だった。

 

「あれ? なんでお前がここに?」

「どういう意味? 今学科から帰ってきたんだよ」

「そうじゃなくて、帰り道部屋なやつ見なかったか? 襲われなかったか?」


 俺は心配で弟の肩を掴み確認する。


「何それ? 変な人なんかいなかったよ。でも、マンションに入る小道の前で学校の友達に会ったから少し話してたけど」

「よかったー。本当に心配したぜ」

「お兄ちゃんなんか変だよ今日。いつも俺に興味なんかないじゃん」

「そんなことないよ。お兄ちゃんはいつもお前を思ってる」



 俺の思いもよらない言葉が照れくさかったのか靴を脱いで部屋へ行ってしまった。

 俺も部屋に戻り明日の準備をした。それはヤツの正体を突き止めるためのものだ。明日来る確証はないが一つ気づいたことがある。俺がヤツに気づいたのは今日と5日前。その二つの日に共通することは、帰りが遅かったということだ。一学期になり俺たち四年生は全員、委員会に入らなくてはいけなくなった。俺は清掃委員に入ったためその二日は教室の扇風機や廊下のふちなどを掃除した。そして実は明日も掃除をすることになっているのだ。これに気づいた時様々な推理が浮かんだ。

 

 それは俺を追ってくるヤツハ学校関係者なのではないかということだ。きっと誰かの秘密を知らぬ間に目撃してしまったのだ。それがなにかは心当たりがないが犯人に問いただせばいい! 俺はランドセルにライト、折り畳み傘、防犯ベルとデジカメを入れその日は早めに寝た。












 


 

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