第13話 スーツの男

 私は業界の専門家として意見を求められていた。頭の先からつま先までをぴっちりと覆うゴム製のスーツを着た、全身剃毛済みの男の死体が発見されたのだ。

「ええと、スーツの着衣圧と唾液とによってゆっくりと窒息。我々は事件なのか事故なのか知りたいんスヨ」

 慇懃無礼な若い刑事が、目の前で現場写真をヒラヒラさせた。

「ええと、スーツは体型に一致するが、容積は93%。窮屈なゴム棺桶っスネ」

「ラテックススーツといいたまえ!」

 私はむかつきながら、最後の一枚を見た。スーツの口の部分にたくさんの小穴が穿たれている。

「ここに唾液は?」

「そりゃべっとり…」

 私は確信した。 

「事故だ。唾液濃度の誤測定だ。テーラー那房へ行きたまえ」

「え? どういうことですか? ご同行願えますか?」

 刑事の態度が一変した。だが私は彼が嫌いだ。

「新しいスーツの採寸の時間なんだ。失敬」

 事件後、テーラー那房は倒産した。

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