第12話 マスク屋台の男

 オフィス街の一角、昼休みにだけ開くマスク屋台がある。

「マスク無料交換」という看板を見て、女性会社員が尋ねた。

「なんで、無料なんですか?」

「私たちは息成分による病変診断研究をしておりまして、サンプルとしてマスクは有用なのです。検査結果報告ご希望の場合のみ、ご連絡先をご記入ください」

 と、白衣の男は答えた。

 そういう研究は聞いたことがあったし、マスク無料は有難い。彼女は、マスクを外すと「30代女性」の箱に入れ、新しいマスクを選んでつけていった。

 午後二時。帰宅した男は、箱の前の隠しカメラの動画と照合しながら、一枚ずつマスクを取り出していった。厳選の結果、残ったマスクは七枚だった。

 ZIPロックの袋へそれぞれの顔写真を貼り、マスクを封入して保管庫へ。そしてそこから別の袋を抜き出す。

 男は、その袋からマスクを取り出し、袋の顔写真を凝視しながら厳かに装着すると、深呼吸を繰り返した。

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