第6話 甘噛みの男

 狛江邦夫少年は、乳歯が抜けた跡に舌を這わせたり、何かを挟んだりするのが好きだった。それは、赤ちゃんの時に咥えた母のおっぱいの感触に似ていた。

 永久歯が生え揃うと、狛江少年には、鉛筆を噛む癖がついた。だが、歯はあまりに硬かった。狛江少年は、歯を失うための努力を怠らなかった。

 全ての歯を失った狛江青年は、ソーセージ、グミ、ミルキー、すあま、鶏もも、豚角煮などあらゆる物体を試した。だが、固すぎたり、柔らかすぎたり、脆すぎたり、味が濃すぎたりした。

 やがて彼は「外郎」を発見した。以来、可能な限り外郎を咥え、涎を垂らして甘噛みし続けた。だが、それにも慣れてしまった。

 口いっぱいに頬張れて、適度な弾力と芯があり、癖になる風味と、人肌程の温もりをもった、バリエーション豊富な物体…

 …恋愛対象は女の子だから、誤解しないでよ」

 狛江青年は、そう言うと総入歯を外し、トロンとした目で僕を見上げた。

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